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サンドラ・レイガン他 著/改田明子 訳

緩和ケアのコミュニケーション
――希望のナラティヴを求めて


四六判上製336頁

定価:本体3600円+税

発売日 13.10.1

ISBN 978-4-7885-1356-3




◆治療から、患者と家族中心のケアへ!◆

誰もが最後のときは、自分の家で、家族に見守られながら、痛みなく死にたいと願っています。しかし実際には、多くの人が、病院のベッドで、チューブにつながれて死んでいきます。効果的な治療が見込めない場合にもそのことを適切に告げられず、苦しい治療があえて続けられることも珍しくありません。著者たちは、このような医療の現状に挑戦し、患者の身体的、精神的な苦しみと痛みを理解し、軽減する患者中心主義のアプローチである緩和ケアのコミュニケーションを実践してきました。患者本人とその家族たち、医療従事者全員がよいコミュニケーションをとることによってはじめて、患者の残された大切な時間を、人生を振り返り、愛する人たちに感謝を伝え、望みを託して死を迎えるために使うことができます。難しい課題ですが、本書はそれをどう実現するかを理論と具体的な実践の両面から詳細に述べたはじめての本です。これからの緩和ケアのあり方を考える上で必読の書となるでしょう。

緩和ケアのコミュニケーション 目次

緩和ケアのコミュニケーション まえがき

ためし読み

◆書評
2014年2月、看護実践の科学

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緩和ケアのコミュニケーション 目次

まえがき
序  文
謝  辞

1緩和ケアのコミュニケーション
アメリカ流の死―静寂の中で死にゆくこと
西洋医学と人間的な苦しみの無視
緩和ケアのコミュニケーションへの理論的なアプローチ

2緩和ケアの歴史と実践
ホスピスと緩和ケア小史
緩和ケアとは?
緩和ケアの特徴
緩和ケアの理論的根拠
緩和ケアにおけるコミュニケーションの重要性

3患者の視点
病いのナラティヴ再考
診断・再発・予後
医師とのコミュニケーションをやっと手に入れる
意思決定と生活の質(QOL)
病気を治すことを目指した治療の継続と緩和ケア
オンライン・サポート・グループ
医師とのやりとり―コントロールの欠如
患者の身体とその解釈者
SPIKES法による患者とのコミュニケーション
痛  み
相互的な苦しみ―家族の負担についての不安
結  び

4医師の視点
ある事例
概観―医学の背景
医療情報の開示、意思決定、医師・患者間の情報交換
病気の予後
「悪い知らせを伝えること」に関する研究の知見
緩和ケアの実践を妨げるもの―医療的社会化、情緒的混乱、ストレスと燃え尽き
ある医師による緩和ケアにおけるコミュニケーションの実践―事例研究

5家族/介護者の視点
診断/予後の受け入れ
意思決定をして、治療に協力する
医師とのコミュニケーション
希望を位置づける、あるいは希望をリフレーミングする
相互的な苦しみ―介護者の重荷と不安
生活の質(QOL)
介護のストレス
痛みの管理
精神的労働と身体的労働
経済的な問題と負担
家族の葛藤と緩和ケア
家族のコミュニケーションと話し合い
死という出来事
死のときの、ケアとスタッフとのコミュニケーションへの満足
死別と支援の移行
結  び
付  記

6医療チームの視点
チャプレン職
心 理 士
ソーシャルワーカー
看 護 師
コミュニケーションの難問
構  造
チームワークを妨げるもの
チーム内で行われる紹介
患者との関係構築
自己ケアの維持

7著者たちの声
サンドラ・レイガン
サンドラ・サンチェス-ライリー
ジョイ・ゴールドスミス
イレーヌ・ウィッテンバーグ-ライルス
訳者あとがき
文  献  (7)
事項索引  (4)
人名索引  (1)
装幀=難波園子


緩和ケアのコミュニケーション まえがき

 膨大な数の人々が、望んでいると言われている死に方とは矛盾した仕方で亡くなっている。最近の米国医学会誌(2004)の論文が証明するように、亡くなりゆくアメリカ人は、医療者と侵襲的な医療機器に囲まれてではなく、家庭で愛する人々に囲まれて、痛みはなく、安らかに亡くなり、身辺整理もして彼らの最後の望みを伝え、自らの人生ストーリーを語り尽くすための贅沢な時間をもって死にたいと望んでいる。それなのに実際には不適切な疼痛管理を受け、医師からの情緒的なサポートはほとんどなく、コミュニケーションは乏しい。

 本書の使命は、進行した重篤な病い、そして終末期の病いにおけるコミュニケーションの複雑性を描き出すこと、そして最も無防備な、人生の重大時期にあるほとんどの人が医療システムで扱われている現状への解毒剤として、緩和ケア、すなわち患者の病気を治すのではなく、患者の苦しみを和らげるために設計された医療ケアを提案することである。私たちは、重篤な病いを抱える患者や終末期の患者と医師や介護者、家族の間のコミュニケーションを覆い、特徴づけている、現在支配的な生物医学モデルに挑戦し、それとは異なる緩和ケアのコミュニケーション患者の苦しみ、そして患者が経験するであろう多様な(身体的、心理的、社会的、スピリチュアルな)痛みを理解し、軽減しようとする患者中心アプローチを主張する。

 多くの緩和ケアのテキストが、医師が緩和ケアを提供するときにコミュニケーションは重要な役割を果たすことに言及しているものの、コミュニケーションの観点から緩和ケアの問題を考察した書物は、私たちの知るところではこれまでない。私たちは、コミュニケーションの研究者として、これらの問題を描き出し、その複雑な事情を説明することができる独自の理論と洞察を持っている。本書は、緩和ケアに関する医学文献と医療に対する生物心理社会的アプローチを主張する医療コミュニケーション研究者、すなわちオースティン・バブロウ、マリファラン・マットソン、バーバラ・シャーフ、マーシャ・ヴァンダーフォード、デイル・ブラッシャー等々による文献を統合するものである。

 本書は、3人の医療コミュニケーション研究者と1人の老人医療と緩和医療の認定医による共著である。執筆陣に医師が加わることによって、現代医療の考え方と実践への貴重な洞察と経験が提供された。それは、ほとんどの医療コミュニケーションに関する書物に欠けているものである。緩和ケアにおけるこの医師の経験は、本書を情報豊かなものにし、信頼に足るものとし、単なる学問ではない実践的/臨床的な領域へと踏み込ませてくれた。そしてまた、私たちの観察と分析は、数種類の異なるかたちのエスノグラフィー・データによって補強されている。私たちの最大のデータ収集先は、テキサス州サンアントニオにある南テキサス退役軍人医療システムの老人緩和ケアチームの臨床場面である。そこでは、第四著者であるサンドラ・サンチェス‐ライリー医師が緩和ケア臨床プログラムの指導者として働いている。ここでのデータには、患者についてのコンサルテーション、緩和ケアチームのミーティング、チーム・メンバーへのインタビュー、そしてサンドラ・サンチェス‐ライリー医師が運営する緩和ケア・フェローシップの研究員医師へのインタビューが含まれている。それに加えて、原発不明の腺がんを経験している患者とその家族によるインターネット上のメーリングリストから質的なデータが得られた。この医療機関外での患者と介護者の集いの場でのストーリーは、広範囲にわたる緩和ケアのコミュニケーションのニーズを明らかにしている。本書の第三のデータ収集先は、病んで亡くなりつつある患者やその家族の手紙、ストーリーやインタビューへの応答である。彼らは、その病気について、私たちに進んで語ってくださった。最後に、進行した終末期の病いの特徴を描いたメディアや小説の情報源も、以下の各章に織り交ぜられている。

 緩和ケアのコミュニケーションは内在的に複雑であるがゆえに、私たちは緩和医療の背景を構成する多様な声を描き出したいと考えた。そこで、これらの多様な声と視点に沿って本書を構成することにした。1章と2章では、緩和ケアの基本原理、ホスピスと緩和ケア運動の歴史について述べ、緩和ケアの実践を説明するコミュニケーション理論について簡単に概観する。その後の部分は、緩和ケアを構成する4つの視点に分けた。患者の視点(3章)、医師の視点(4章)、家族‐介護者の視点(5章)、多職種緩和ケアチームの視点(6章)である。7章では、4人の著者それぞれの緩和ケアの経験に読者を招き入れて、本書を閉じる。

 本書によって、緩和ケアのコミュニケーションとその重要性を、多様な読者に伝えることができると私たちは信じている。なぜなら、緩和ケアにおけるコミュニケーションの役割に焦点を当てたテキストは他になく、本書は、医療コミュニケーションの学生、指導者、そして研究者にはとくに有用だろう。しかしながら、また、医療専門職医師、看護師、多職種緩和ケアチームのメンバー(ソーシャルワーカー、心理士、チャプレンなど)、それにホスピスの専門職とボランティアにとっても、その実践と研究に役立つだろう。そしてまた、重篤な、もしくは終末期の(またはその両方の)病いに直面している(または直面するかもしれない)人々とその家族、またそれ以外の介護者にとっても、本書は貴重なガイドとなるだろう。つまり、本書は死すべき運命にある私たち皆にとって意味があるのだ。