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上淵 寿・フィールド解釈研究会 編

フィールド心理学の実践
――インターフィールドの冒険


A5判上製230頁

定価:本体2500円+税

発売日 13.9.5

ISBN 978-4-7885-1355-6

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◆タテマエではわからない質的研究の実際問題!◆

近年の質的心理学への関心の高まりと共に、質的心理学の理論や方法論の解説書が数多く刊行されていますが、実際のフィールド研究では、教科書には書かれていない重大問題に遭遇します。研究者は何者としてフィールドに関わるのか? 生じているのは誰にとっての「問題」なのか? 解釈の基盤とは? 本書は、タテマエ論だけでは済まないズレやとまどいに満ちた現場研究を、ただの研究者たちの体験談としてではなく、理論的な考察をくわえながら、インターフィールドという複眼的視点で具体的実践に即して掘り下げた類のない本です。特に初心者には必携の実践的入門書です。

フィールド心理学の実践 目次

フィールド心理学の実践 はしがき

ためし読み
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フィールド心理学の実践 目次

はしがき
序章 インターフィールド研究の実践 ───── 上淵 寿・本山方子
第T部 フィールドですれ違う

1章 「問題」を取り上げる
   ──「問題」とは何か? 誰にとっての問題か? ───── 磯村陸子
 1.問題化によって可能になるもの
 2.問題化が不可能にするもの
 3.問題化がめざすもの

【ケース】あの時あれでよかったか
     ──保育カンファレンスからの省察 ───────── 野口隆子
 1.初めての保育の場、A幼稚園との出会い
 2.保育の場に参加した学生としての私
 3.「ずれ」る──視点が違うことへの戸惑い
 4.問いを問う
 5.プロセスの中の私
 6.おわりに──保育の場が「私」と「あの時」をどのように見ていたのか

2章 意味づけの功罪──人はつまずいて意味づけを行う ── 上淵 寿
 1.質的研究における「意味づけ」の位置
 2.意味づけに絡む要因の整理
 3.研究者の「意味づけ」の効用と問題
 4.「意味づけ」が困難な状況
 5.フィールドを意味づける、フィールドに意味づけられる
 6.肉体の意味づけ
 7.とりあえず終わりに──意味づけはどこまでも …

【ケース】観察者が意味づけをためらうとき ────── 磯村陸子
 1.ある出来事
 2.誰かの行為を見ること
 3.意味づけることと義務・責任
 4.学校というフィールドで〈大人〉であること
 5.おわりに

第U部 フィールドで生かされる

3章 見えることと共振のダイナミクス ───────── 松井愛奈
 1.見ること、見えること
 2.見えるとは?──幼稚園の観察事例から
 3.見ようとすれば見えるようになるのか?
 4.フィールドの実践に共振する

【ケース】日常をサバイヴするジェンダー実践
     ──かつて〈女子中学生〉だった私への共感 ───── 野坂祐子
 1.はじめに
   ──「オネエサン」から「オバサン」に交差する視線の中で
 2.フィールドをサバイヴする調査者
 3.おわりに──フィールドにおける出会いの限界と可能性

4章 フィールドの狭間でもだえる自己
  ──自己論から他者論、そして身体論へ ────────── 上淵 寿
 1.自己の二重性の問題
 2.「研究者」としての私と「共同実践者」としての私
 3.ポジション
 4.ポジションから情動へ、身体へ

【ケース】「役に立つ」ことにこだわる〈私〉へのこだわり
      ──B幼稚園での動揺から ───────────── 掘越紀香
 1.はじめに
 2.「役に立つ」ことの難しさ
 3.「役に立つ」ことへの〈私〉のこだわり
 4.「役に立てない」ことに動揺した〈私〉の変化
 5.「役に立つ」ことへのこだわりのサイクル
 6.現在の「役に立つ」ことにこだわる〈私〉
 7.結びにかえて──〈私〉へのこだわり

5章 「正義」の実践・実践の「正義」 ────────── 野坂祐子
 1.はじめに──フィールドにおける「正義」の所在
 2.正義の責任
 3.正義の声──語られた言葉の重さと書ける言葉の軽さ
 4.おわりに──「正義」を問うことの、その先へ

【ケース】学習を〈促す/妨げる〉デザイン
     ──地域の日本語教室を例にして ────────── 森下雅子
 1.はじめに
 2.学習環境のデザインとは
 3.空間や道具のデザインの重要性
 4.日本語教室A
 5.日本語教室B
 6.日本語教室C
 7.日本語学習を促す学習環境とは
 8.まとめ

6章 語られる局所性 ─────────────────── 上淵 寿
 1.局所性と全体性
 2.個別性・一般性
 3.局所と共同体
 4.おわりに

【ケース】子どもといる私のアクチュアリティと発現する局所性との間で
     ──────────── 古賀松香
 1.フィールド研究における局所性の問題
 2.感知される局所性の変化
 3.語りの中で変化する局所性
 4.研究者に求められる局所性に対する2つの認識

第V部 フィールドを味わいあう

7章 実践事例の記述と解釈の基盤 ─────────── 砂上史子
 1.保育・教育の記録と解釈
 2.複数の人間による解釈と了解の形成
 3.解釈の違いに影響する立場
 4.異なる実践現場の間での解釈の違い

【ケース】小学5年生の小集団学習事例の記述と解釈の実践
     ──観察当事者として ─────────────── 市川洋子
 1.はじめに
 2.取り上げた場面の決定プロセス
 3.事例の記述と考察
 4.掘越による事例記述と解釈を読んで
   ──違いが生じた理由とは?

【ケース】小学5年生の小集団学習事例の記述と解釈の実践
     ──第三者として ───────────────── 掘越紀香
 1.筆者の戸惑いとスタンス
 2.授業の全般的な印象と教師の対応
 3.児童へのまなざし(主に男子Yについて)
 4.調査者市川の事例と解釈を読んで
   ──「見つづける」ことと解釈妥当性

【メタ解釈】小学5年生の小集団学習事例の記述と解釈の実践
     ──2つのケース ───────────────── 砂上史子
 1.知らないからこその詳細な記述
 2.ビデオ映像の記述と解釈の妥当性
 3.「らしさ」を捉える枠組み
 4.解釈基盤の違い
 5.まとめ──記述と解釈の内側と外側

8章 質的研究を読むこと・読まれること ─────── 本山方子
 1.書き手─読み手─フィールド協力者のテクストを
   媒介にした関係性
 2.読むことと解釈共同体
 3.読むことの個性
 4.読むことの倫理

【ケース】麻生武著『身ぶりからことばへ』をめぐる読みの実践
     ──事例研究の説得力とは何か ─────────── 砂上史子
 1.系の内側からの観察
 2.麻生研究の記述と解釈
 3.筆者の履歴と麻生研究の読み
 4.麻生研究への問い

【ケース】麻生武著『身ぶりからことばへ』をめぐる読みの実践
     ──〈私〉による〈私たち〉の物語 ───────── 磯村陸子
 1.本書の試み
 2.共同的であるということ
 3.〈私〉に埋め込まれた〈私たち〉
 4.おわりに

【ケース】麻生武著『身ぶりからことばへ』をめぐる読みの実践
     ──誰が『身ぶりからことばへ』を書いたのか?─── 麻生 武

9章 インターフィールド実践としての教育
   ──心理学教育の立場から ─────────────── 上淵 寿
 1.はじめに──高校生、受験生から、心理学専攻の大学生へ
 2.「しろうと」から「くろうと」へ
 3.研究するのは誰のためか
 4.「くろうと」が学ぶこと
 5.心理学における質的研究導入の問題
 6.「研究とは何か」の理解について
人名索引
事項索引
装幀=虎尾 隆


フィールド心理学の実践 はしがき

 質的研究や質的心理学という言葉が日本で当たり前のように使われるようになって、10年以上経つ。その間に、さまざまな方法論の本や、実際の研究に関する本、研究が掲載された学術誌などが登場した。

 しかし、方法論や実際の研究例を読んだだけで、私たちは質的研究ができるのだろうか。質的研究に限らず、研究という活動には、論文等で表に出ない、研究のやり直し、研究フィールドで生じる人間関係の齟齬といった問題、研究者自身が経験する質的研究を行う時の戸惑いや悩みがつきものである。

 本書は、このような問題を突き詰め、さらに質的研究から得られた知識、取り出された意味をさまざまな角度から検討する。そして、単に研究の体験を取り上げるだけではなく、その体験を理論的に検討し直す作業も同時に行っている。この理論的検討が、日本の刊行物では必ずしも十分ではないことが多い。さまざまな技法や方法論を駆使した研究であっても、それらの技法や方法の背後にある思想的文脈がしばしば無視されて、ただその方法が使いやすいからという理由で採用されている例も多々みられる。

 最近では、質的研究の苦労話が書かれている著作も散見されるが、「研究における意味づけの功罪」や「実践者の属するフィールドと研究者の属するフィールドとの狭間」での悩み、「フィールドでの出来事が見えるようになる」こと、「フィールドの今・ここで生じていることの感受」といった観点からの語りや、それに対する理論的考察などはみられない。さらに、上記の視座は個々の研究者やフィールドで完結した問題ではなく、複数の人や領域にまたがっていることも多い。このような意味で、本書は「インターフィールド」をテーマとして掲げている。

 また、本書では、同じ質的研究のデータについて、複数の視点からどのように見えるのか、さらに質的研究に関する書物の新たな読み直しとそれへの著者の返答といった、実験的な試みも取り入れている。

 ゆえに、この本を手に取った人には、一見、よくある質的研究の事例とみられがちな本書の研究例たちが、実に多様な問題を抱えながら、続けられ、問い直され、形にされていることを理解してほしい。

 最後に、本書の成り立ちについて述べておきたい。本書の執筆者の大半は、「フィールド解釈研究会」のメンバーとして、10数年にわたり活動してきている。この研究会は、1998年に、当時幼稚園、小中学校、地域などのフィールドに赴いて、手探りで研究を始めたばかりだった大学院生を中心として、大学横断的に始まった。既成の概念にとらわれることなく、実際にフィールドに身を置くことから生じるさまざまな問題を共通認識としてとらえていくための議論を重ねてきた。2000年からは『Inter-Field』という会誌を刊行して、その成果を発表することも試みている。

 本書は、この『Inter-Field』の延長線上にあるといえる。本書は2005年に構想されたが、執筆が進む中で、研究者間での視点の違い、そして研究者一人ひとりのなかでの変容も浮き彫りにされ、まさにこの点でもインターフィールドの実践が起こっていた。そのため数度の改稿を経て本書に結実したのであるが、ここにはそうした私たちの変化(願わくば成長)が刻印されている。長い年月を要したことは決してマイナスなことばかりではなく、より完成度を高くできたというプラスがあったと自負するものである。

 脱稿が遅延し、新曜社の塩浦ワさんには、ご迷惑をおかけした。刊行まで8年もかかって、それでも無事に世に出たのは、塩浦さんのおかげである。ここに感謝の意を表したい。

執筆者を代表して

上淵 寿