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苧阪直行 編

注意をコントロールする脳
――神経注意学から情報と統合


四六判上製304頁     

+カラー口絵2頁

定価:本体3200円+税

発売日 13.8.25

ISBN 978-4-7885-1352-5

cover


◆社会脳シリーズ3◆

社会脳シリーズ第3巻の配本です。私たちの生活は、注意を払わなければならない事物にとりかこまれています。道を歩くにも、本を読むにも、ご飯を食べるのにも、注意を払わなくてはなりません。注意を向けるとはどのようなことかは、誰でも知っていますが、では、注意は、脳のどのようなメカニズムによって担われているのでしょうか? 本書では視覚的な注意を中心に、最新の脳科学の知見を、研究の方法を含めて、第一線の研究者が分かりやすく解説しています。9月には続いて、第4巻『美しさと共感を生む脳』を刊行します。

注意をコントロールする脳 目次

注意をコントロールする脳 序

社会脳シリーズ

ためし読み
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注意をコントロールする脳 目次

「社会脳シリーズ」刊行にあたって

社会脳シリーズ3『注意をコントロールする脳』への序

1 注意の時間窓 苧阪直行
注意とは何か
機能主義における注意
「現在」とは何か
注意の時間学
おわりに

2 注意の脳内メカニズム─歴史と最近の展開 越野英哉
はじめに
ブロードベントとフィルターモデル
情報処理資源としての注意
注意の制御(トップダウンとボトムアップ)
脳の視覚情報処理
空間的注意
視覚探索と特徴統合理論
反応競合と抑制
ワーキングメモリと注意
注意に関係する脳内ネットワーク
注意のトップダウンな調節
おわりに

3 視覚性ワーキングメモリの容量と注意制御 坪見博之
はじめに
視覚性ワーキングメモリの容量制約
視覚性ワーキングメモリ容量の単位
ワーキングメモリ容量の脳内メカニズム
ワーキングメモリ容量の制約と見えのパラドックス

4 注意し選択する脳─不要な情報を排除する脳 ─源 健宏・苧阪直行
はじめに
選択的注意に関する研究の歴史
初期選択と後期選択
選択的注意の負荷理論
負荷理論を支持する脳機能画像研究
ワーキングメモリ容量と選択的注意
ワーキングメモリ容量の個人差と選択的注意─認知神経科学研究
さまざまな認知負荷
今後の展望

5 複数の注意と意識、脳 松吉大輔
注意とは
注意を測る
二つの注意と脳
注意と意識
注意と意識の脳内メカニズム
三つ目の注意

6 注意性のマスキング 廣瀬信之
注意と見落としの関係
遍在する見落とし
オブジェクト置き換えマスキング(OSM)
OSMの説明理論
おわりに

7 注意の瞬きの脳内表現 木原 健
はじめに
注意と見落とし
注意の瞬きにかかわる後部頭頂葉の活動
経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた注意の瞬き研究
注意の瞬きの神経モデルと認知モデル
ネットワークとしての脳活動
おわりに

8 視覚情報の容量制約
─ピクチャースパンテスト(PST)を用いて 田邊亜澄・苧阪直行
はじめに
注意の容量
ワーキングメモリを測定する
ピクチャースパンテスト
おわりに

文献   (13)
事項索引 (?4?)
人名索引 (?1?)
装幀=虎尾 隆


注意をコントロールする脳 序

 この「社会脳」シリーズ第3巻『注意をコントロールする脳─神経注意学からみた情報の選択と統合』では、社会脳のはたらきのなかでも、とくに志向的な心を担う注意を扱う。ここでも、1、2巻と同様に、最新の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や経頭蓋磁気刺激法(TMS)などの脳イメージングの方法と洗練された実験心理学の手法を組み合わせて注意とは何かを考えたい。注意がどのようにコントロールされ、知覚や記憶とどうかかわるのか、その複雑なパズルを解いていきたい。注意という心のはたらきの脳内メカニズムを、外部世界(知覚)から内部世界(記憶)まで広範に研究する新たな学問をここでは神経注意学(Neuroattentionology)と名づけたい。本シリーズの「刊行にあたって」に示した社会脳研究の諸分野のモデル図に即すると、神経認知心理学(Cognitive Neuropsychology)と密接にかかわるほか、「情報の選択と統合」という注意のキー概念において多くの分野と密接にかかわるのが注意である。

 身近すぎてわかっているつもりが、じつは科学的にはよくわかっていないものの一つがまさに注意である。注意とは何か、という問いは、経験的にはだれにでも答えられそうなものなのだが、脳から見た注意に関しては、今のところ答えるのが困難な問いなのである。注意は心理学では長らくブラックボックスのなかでの作業仮説にすぎなかったが、最近、その脳内メカニズムの全貌が注意のネットワークのはたらきとして捉えることができるようになってきた(本巻2章参照)。いうまでもなく注意は必要な情報を選択し、不要な情報を排除し、さらに情報を統合する心のはたらきであり、背後にはそれを支える脳の機能がある。新たな情報に気づき、何が重要な情報で、何が不要なのかをさまざまな状況下で判断するのが注意の主要な役割である。そのおかげで、当面不要な情報を抑えて、現在必要な情報に注意を向けることができ、日常生活が無駄のないものになる。

 注意が注意たるゆえんは、それが制約をもつことであろう。最近、注意を心的な処理資源と考える立場から、意識的な注意の資源には容量の制約があることがわかってきた(意識化されない自動的な注意については2章参照)。たとえば、運転中に別のことを考えたり、あるいは歩行者に注意したため信号を見落とすような場合、その原因は前者では内的思考、後者では別の外的対象にある。内的であれ外的であれ、2つのイベントに同時に注意を向けることは難しい。この難しさは注意が容量の制約をもつことと、そのために注意のコントロールが難しいことを示唆している。

 このように、注意は私たちの心や行動を導く羅針盤のはたらきをしているが、心の作業台を照らす注意の脳内メカニズムの研究はワーキングメモリなどの記憶研究を取り込んで新たな展開がはじまっている。ワーキングメモリはワーキングアテンションと呼ぶ人もいるくらい、注意と深く結びついている(ワーキングメモリについては、本シリーズ1巻8章参照)。この巻でも随所に触れられているように、脳には注意とそれに導かれたアクティブな短期的記憶システム(前頭葉のワーキングメモリシステム)があり、この一時的な記憶システムには、注意を調整しコントロールするはたらきがあることがわかってきた。コントロールがうまくゆかないと見落とし、物忘れや行為のし忘れが生じる。ワーキングメモリのもつ、いわゆる「脳のメモ帳」の容量は制約が厳しく、メモ帳をうまく使うには実行系という注意のコントロール機能が必要になるのである。

 現在われわれは、急速に広がるインターネット社会に生きており、スマートフォンなどの情報機器が身体の一部とみなされるほど身近な存在となり、コミュニケーションのツールになってきた。そのおかげで、われわれは毎日多くの情報の検索と発信に追われ、注意という資源を使っている。このダイナミックに変貌を遂げる情報社会で、社会脳が適応的にはたらくためには、スマートフォンなどのモバイル型の身体性情報機器の使い勝手を、注意の容量制約に配慮したワーキングメモリデザインで設計することが必要になってきた。注意をコントロールして、バランスの良い情報の選択と統合を行うには、注意をうまく切り替え、不必要な情報は捨てることが必要であるが、切り替えがうまくできないとストレスを感じることになる。

 本巻では、1章で注意が時間と深くかかわることを見たあと、2章では注意がどのように研究されてきたかをその歴史を見ながら、視覚的注意を中心に、研究の最前線を、そのモデルを例示しながらわかりやすく紹介する。3章以降では、2章で紹介したトピックスを詳しく見てゆきたい。まず、3章では、前頭葉を中心としたワーキングメモリのはたらきが注意のコントロール機能とどのようにかかわるかについて見る。4章では、当面不要な情報がどのように脳で排除されるのかを脳の頭頂葉のはたらきを通して見てゆきたい。5章では、複数の注意のネットワークについて、6章と7章では、空間性の注意がもつ興味深い2つの現象を観察する。それぞれ、「オブジェクト置き換えマスキング」(6章)と「注意の瞬き」(7章)と呼ばれ、報告すべきターゲットとなる刺激が時空間的な妨害刺激によって違った見え方をもたらす現象である。これらの脳内メカニズムについてあらたな説明モデルも示されている。8章では、ピクチャースパンテストという視覚性のワーキングメモリの容量を測る方法について述べている。本書では脳イメージングの方法や手続きについては詳しく触れなかったが、この方面に関心をもつ読者は類書を参考にされたい。 [1]

 最近の注意の研究では、注意を記述するいくつかの新しい概念や術語が現れている。本邦では、定まった訳語がないこともあったり、表現上考慮すべきものもあるが、本巻の2章で出てくる cortical blindness には「皮質盲」、5章の inattentional blindness には「非注意盲」、さらに3章や8章に出てくる change blindness には「変化の見落とし」という訳語を当てたことをお断りしておきたいと思う。

 最後に、最新の研究を紹介する原稿をいただいた著者各位には心より御礼を申し上げたい。また、新曜社の塩浦ワ氏からは編集上のアドバイスを、大阪大学特任助教の金田みずき博士からは専門用語についてアドバイスをいただいたことに感謝したい。

    2013年7月1日

苧阪直行