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岩上真珠 編

国際比較・若者のキャリア
――日本・韓国・イタリア・カナダの雇用・ジェンダー・政策


A5判上製256頁

定価:本体4600円+税

発売日 15.3.5

ISBN 978-4-7885-1346-4

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◆若者の生きにくさを解く鍵をさぐる◆

グローバル経済と格差社会によって、就職難・定職に就けず結婚できない・貧困化など若者の生きにくさは、海外でも深刻化しています。高学歴化・親との同居の長期化・学校と仕事(または兵役)との往復など、大人社会への移行経路が複雑になっており、日本では新卒一括採用制度がミスマッチを起こしています。これを若者の自己責任に帰するのではなく、グローバルで構造的な問題ととらえ、日・韓・イタリア・カナダの4ヵ国で実態把握した成果が本書です。特にジェンダー格差に配慮してきめ細かく問題点を洗い出し、各国政府が取り組んでいる若者政策と照らし合わせて実効ある提言を行います。編者は聖心女子大学教授・副学長。

国際比較・若者のキャリア 目次

国際比較・若者のキャリア はじめに

ためし読み

◆書評
2015年5月17日、日本経済新聞

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国際比較・若者のキャリア 目次

はじめに (岩上 真珠)

 T国際比較の目的と方法

序 章
グローバル化時代における若者のキャリア形成  岩上 真珠
 1.若者の社会的位置の変化
 2.グローバル化と格差
 3.初期キャリア形成の変容
 4.本書のねらいと構成

第1章
4ヵ国調査の概要  岩上 真珠
 ─日本・韓国・イタリア・カナダの国際比較  酒井 計史
 1.調査設計
 2.対象者と対象地の選定
 3.調査方法
 4.4ヵ国の調査結果

U日本と韓国

第2章
初期キャリア形成におけるジェンダー格差  岩上 真珠
 はじめに
 1.離家
 2.仕事
 3.結婚
 4.年収・意欲
 5.ジェンダー格差の4ヵ国比較

第3章
学校から仕事への移行  酒井 計史
 ─正規雇用と勤続に与える影響
 1.日本的典型移行とは
 2.学校から初職への移行の実態
 3.初職の就業形態と「典型移行」
 4.初職正規雇用の規定要因
 ─「学校の紹介」または「間断なき移行」をめぐって
 5.初職正規雇用の勤続の規定要因
 6.まとめと考察─若者と女性の雇用機会をめぐって

第4章
若者の仕事観とジェンダー意識  大槻 奈巳
 1.不透明な時代の仕事観とジェンダー意識
 2.雇用,仕事観,ジェンダー意識の関連(クロス集計)
 3.仕事観とジェンダー意識に影響する諸要因(重回帰分析)
 4.韓国・イタリア・カナダの傾向
 5.4ヵ国若者の仕事観とジェンダー意識
 6.まとめ

第5章
日本の若者政策:現状と課題  宮本 みち子
 はじめに
 1.日本の若者の現状
 2.若者の雇用問題の発生と雇用政策の展開
 3.成人移行期政策としての少子化対策
 4.若者の自立支援政策の展開
 5.若年雇用対策から若者総合政策へ

第6章
韓国の若者政策:現状と課題  「 智恵
 はじめに
 1.韓国の若者がおかれている現状とキャリア形成
 2.通過儀礼としての兵役
 3.若者政策の現状と課題
 4.結 論

第7章
日韓の若者にみる非正規雇用とジェンダー  平田 周一
 1.韓国と日本
 2.就業とジェンダーの日韓比較
 3.韓国と日本の学歴社会
 4.日韓若者の正規/非正規雇用とジェンダー
 5.日韓若者の就業,教育,ジェンダーの相互関係(多項ロジット分析)
 6.結 論

 Vイタリアとカナダ

第8章
イタリアの若者政策:現状と課題  土屋 淳二
 はじめに
 1.「社会問題」としての「若者」
 2.若者政策と雇用支援

第9章
成人移行期にみる若者の自立問題  カルロ・ブッツィ
 ─イタリアの家族関係のあり方
 1.イタリアの成人期移行をめぐって
 2.親と同居する若者類型の分析
 3.新しい家族の形成
 4.まとめ

第10章
就職と学歴  ピエランジェロ・ペーリ
 ─ミラノの若者を事例として  エンツォ・ロネル
 1.雇用環境の変化
 2.学校から仕事への移行
 3.就職活動
 4.仕事の満足感
 5.まとめ

第11章
イタリア女性にみる仕事観  フランチェスカ・サルトーリ
 ─ジェンダー問題を中心として
 1.将来の進路選択と展望
 2.仕事と家族にみるジェンダー意識
 3.仕事の選択と満足感
 4.まとめ

第12章
トロントの若者にみるキャリアと家族形成  イト・ペング
                         メリッサ・モイザー
 はじめに
 1.先行研究の概観
 2.トロント調査の概要と目的
 3.トロントの若者のキャリア形成と成人期移行の実態
 4.調査結果の要約
 5.結 論

付録 調査票「若年者の家族・キャリア形成に関する国際比較研究調査」
装幀・図版制作 谷崎文子


国際比較・若者のキャリア はじめに

 若者の未婚化や長期の親元同居がいわれるようになって久しい。たしかに,「大人になる」道筋と「大人になる」時期は,1990年代以降大きく様変わりしてきた。その背景の1つには,景気の低迷とかつてない就職難,また急速に進んだ雇用の流動化のなかで非正規雇用などの不安定就労の広がりがあったことは否めない。未婚化,長期親元同居,就職難,就労の不安定化および若者の貧困の問題は,日本に限らず,80年代以降のグローバル化のなかで欧米の若者の多くも経験してきた。日本だけでなく世界的な趨勢といわれる,さまざまな危機に直面している「移行期の若者(Transition in Youth)」への着目と関心が,まず本書の基本的な研究課題である。

 さらに,そこでのジェンダー格差が,より注目すべき重点課題として設定された。なぜなら,たとえば就職への動機づけや実際に望んでいる職種や職業上のキャリアは,社会のジェンダー構造に強く規定されているとおもわれるからである。実際,女子の非正規就労に対しては反応の鈍かった世論が,雇用の流動化と男子の非正規就労化には敏感に反応した。それは,男性の安定的な終身雇用と女性の結婚後の家庭役割重視という,これまでの日本社会の「大人の標準的ライフコース」図式がもはや成り立たない時代に入ったことを,明確に認識せざるを得ない事態であったからであろう。制度的であれ非制度的であれ,社会のジェンダー構造は各国で差がある。そこでわれわれは,この点に関して,国際比較によって課題を浮き彫りにすることを試みた。取り上げた国は,韓国,イタリア,カナダである。韓国,イタリアは,日本と同様,未婚・少子化が進み,かつ比較的ジェンダー格差も大きいとされる。カナダは,日本,韓国,イタリアとは,そうした事情がやや異なる国として,のちに取り上げた(後述)。

 つまり本書は,国際比較を通じて,若者のキャリア形成にみるジェンダー視点からの差異と,グローバル化という困難な時代に共通する移行期の若者の特徴である,2つの側面に焦点をあてる。そのうえで,各国がどのような取り組みをしているのか,政策面からもアプローチを試みている。

 まず2006年に,岩上真珠を研究代表者として2006年度〜2008年度の3年間の日本学術振興会科研費補助金を受けて,「若者のキャリア形成過程におけるジェンダー格差の国際比較―労働,教育,家族政策より」を研究課題(研究課題番号18402035)とする研究プロジェクトのための研究会を立ち上げた。研究会のメンバーは,宮本みち子(放送大学),岡本英雄(当時上智大学,故人),土屋淳二(早稲田大学),大槻奈巳(聖心女子大学),渡辺美穂(国立女性教育会館),酒井計史(国立女性教育会館),平田周一(当時労働政策研究・研修機構,故人)の各氏と,それに岩上の計8名であった。翌2007年に,海外から韓国側カウンターパートとして韓国女性開発院のパーク・セヨン氏,イタリア側カウンターパートとしてトレント大学のカルロ・ブッツィ,ピエランジェロ・ペーリ,フランチェスカ・サルトーリ,エンツォ・ロネル各氏の協力を得て,日本,韓国,イタリア3ヵ国において,同一項目での調査を首都圏(1都3県),ソウル圏(ソウル市および近郊),ミラノ県(ミラノ市および近郊)で実施した*1。

 さらに,引き続いて2009年度〜2011年度に,同じく岩上を研究代表者として「若者のキャリア形成過程と支援に関する国際比較研究」の科研費補助金(研究課題番号21330122)を得て,カナダとの比較研究にも同じメンバーで取り組んだ。カナダ調査は,トロント大学のイト・ペング,メリッサ・モイザー氏らの協力を得て,日本,韓国,イタリアと基本的に同じ項目で,2010年にトロント大都市圏(トロント市および近郊)において実施された*2。

 今回,それらの成果を4ヵ国の国際比較として上梓する運びになったことを,長年にわたって親密な研究協力をいただいた各国カウンターパートの諸氏に心より感謝する次第である。

 ところで,本研究は2度にわたる科研費補助金を受けて2006年度〜2011年度の長期プロジェクトとなり,準備段階を含めると,研究開始から出版まで足掛け9年を要した。この間に,われわれは2名の主要な研究会メンバーを相次いで病気で失うというつらい経験もした。いまや故人となった岡本英雄氏と平田周一氏に本書の刊行を見届けてもらえなかったことは痛恨の極みである。また,海外の研究者にも刊行まで長い間お待たせしてしまった。国際比較研究における各国間のデータ調整やデータ分析の難しさもあるが,本書の刊行までにかなりの時間を要したことは,ひとえに編者の責任である。この間,新曜社の編集者である小田亜佐子氏には,随時適切な指摘とともに,辛抱強くお待ちいただいた。記して感謝する。また,本書の刊行には「きんとう基金」からの出版助成を受けていることをご報告し,同基金に対して感謝の意を表したい。

 2006年当時にわれわれが抱いた問題意識および課題は,解決されるどころか,ますます複雑化しているように思われる。未婚化,少子化は止まる気配がなく,また就労におけるジェンダー格差は依然として大きい。景気は若干回復しつつあるようにもいわれているが,ジェンダー内格差もめだつようになってきており,若者のキャリア形成における「困難」は決して軽減されてはいない。若者のキャリア形成における構造的な問題の解明と支援に向けて,本書がいくばくかのヒントを提供できれば幸いである。

 2015年1月 編者 岩上 真珠