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中山 元 著

ハンナ・アレント〈世界への愛〉
――その思想と生涯


A5判上製520頁

定価:本体5700円+税

発売日 13.10.25

ISBN 978-4-7885-1341-9

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◆アレント思想の核心に迫る!◆

『人間の条件』『全体主義の起原』などで知られる政治哲学者ハンナ・アレントは、いまなお根強い人気をもっています。その主著ともいえる『人間の条件』をアレントは「世界への愛」(アモール・ムンディ)と名づけようとしていました。この逸話から著者は、アレントの思索と活動に底流するのは、師ハイデガーの哲学の「超越・死・頽落」などとは異なる「他者と共生する」希望の哲学であると主張します。そこから、彼女の多彩な著作(ギリシャのポリス、ローマの共和制、アメリカ革命、全体主義、アイヒマン裁判などを論じたもの)、往復書簡などを分析し、さらにはナチスに関わったハイデガーとの秘められた愛についてもふれて、一貫して「公的な領域」、公共性の保持に希望を見出し活動したアレントの生涯を浮き彫りにします。数多いアレント論のなかでも、「巻措く能わざる」の力作といえましょう。

ハンナ・アレント〈世界への愛〉 目次

ハンナ・アレント〈世界への愛〉 あとがき

ためし読み

◆書評
2013年12月15日、朝日新聞、水無田気流氏評
2014年1月18日、日本経済新聞、河野隆氏評
2014年1月31日、週刊読書人、高田宏史氏評
2014年4月12日、図書新聞、矢野久美子氏評

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ハンナ・アレント〈世界への愛〉 目次

第一部 世界への愛

第一章 アレントと世界への愛
第一節 アモール・ムンディ 
世界とは ハイデガーとアレントの世界の概念 世界疎外 第一の世界疎外 社会の勃興 全体主義による世界の消滅
第二節 労働、仕事、活動
アレントの定義 労働と仕事の違い 活動の特徴 活動の欠陥
第三節 古代ギリシアの公的な領域と私的な領域
公的空間と活動 現われの空間と権力 ポリスの公的な空間の成立と権力 ポリスの公的領域と私的領域の特徴 ポリスにおける自由の概念 奴隷への命令と自由人の説得 アゴーン 「公的な」という概念の意味 私的な領域と財産
第四節 思想と行動――ソクラテス
ポリスの市民の権利 ソクラテスのパレーシアの実例 ソクラテスの思想の核心 ソクラテスとパレーシア ソクラテスの思考の力
第五節 思考と行動――プラトン
単独性のありかた――孤独、孤立、孤絶 大衆と哲学者 哲学者王の概念 アレントの「哲学者王」の概念の批判 公的領域と私的領域の混同 製作とイデア
第六節 ローマ共和国
ギリシアのポリスの欠陥 戦争と歴史の意味 条約と同盟 ローマの法の概念

第二章 キリスト教の世界と公的な領域
第一節 イエスの意味
イエスの三つの概念――約束、赦し、善行 約束の能力 赦しの能力
善行の概念 贈与のアポリアと善行のアポリア 善の無世界性
第二節 エロスとアガペー
善への愛 天の梯子 プラトンのエロスの概念 アガペーの特徴
第三節 アウグスティヌスのカリタス
アウグスティヌスの位置 アウグスティヌスの魂の修練 カリタスの特徴
第四節 アレントのアウグスティヌス論
エロスとしての愛 クピディタスの構造 カリタスの構造 享受と使用 愛の秩序 隣人愛の問題性 疑似キリスト教的な愛の概念――カリタスのエロス的な要素 アガペーとしてのカリタス 時間の創造と時間の二つの意味 二つの世界論 死の意味 アウグスティヌスのアガペー的なカリタスの理論 自己否定の弁証法 〈世界への愛〉の弁証法 地の国における隣人愛 隣人の警告としての役割 隣人の責務としての役割 同胞愛
第五節 アウグスティヌスの政治思想
同胞愛と政治 平和の重要性 家庭の平和と国家の平和 観照と活動
キケロ批判

第三章 中世のキリスト教世界
第一節 キリスト教と政治
ローマ的精神の継承 地獄と煉獄
第二節 トマス・アクィナスと共通善
共通善の理論 王の任務
第三節 マキアヴェッリ
徳と公共善 マキアヴェッリの人間観 ヴィルトゥ ヴィルトゥの実例 マキアヴェッリと革命の要件 スタート 共和国 マキアヴェッリとキリスト教

第四章 近代社会の誕生
第一節 近代の政治と哲学
社会の登場 私有財産  ホッブズの人間像 社会契約 市場社会 社会の勃興 正義の概念の消滅と自然状態 親密さの領域と小説の流行 プロセスとしての進歩の登場 プロセスの行き詰まり 私的な利益の破壊的な要素 ホッブズの方法 望遠鏡の発明の意味 真理論への影響 デカルトの懐疑  ホッブズの方法の欠陥
第二節 マルクス論
『人間の条件』執筆の意図 マルクス主義の意味 マルクスの三つのテーゼ ヘーゲルの主奴論 マルクスの労働論 アレントの批判 人間の本質としての労働 労働の意味 第一のテーゼの批判――労働論 仕事と労働の違い 最悪の官僚制 第二のテーゼの批判――権力論 権力、力、強制力、権威、暴力 権力と暴力 権力と支配 権力と法、暴力 権力の積極的な概念 第三のテーゼの批判――歴史論 観想の生と政治的な生 マルクスの転倒――結論として 哲学の終焉

第五章 国民国家とその崩壊
第一節 国民国家の誕生
国民国家とは 国民国家の成立 国民国家の悲劇 少数民族の問題
無国籍者問題とは 無国籍者問題の発生 無権利者の状態 二つの最終解決――ナチスとイスラエル
第二節 ナショナリズム
ナショナリズムの役割 フランスの人種主義とネーション ゴビノー
ドイツの人種思想 イギリスの人種イデオロギー バークの災い イギリスの人種主義の生物学的な要素 バークの警告 人種概念の露出 西欧型のナショナリズムとフェルキッシュ・ナショナリズム 汎民族主義の特徴
第三節 国民国家の崩壊
崩壊プロセスの三つの要因 経済的な要因――資本の輸出 人的な要因――モッブと官僚 イデオロギー的な要因――人種主義 帝国主義の登場 ナショナリズムの変質の道――海外帝国主義と大陸帝国主義

第六章 全体主義
第一節 全体主義と大衆
全体主義への道 運動の概念について モッブの特徴 大衆の特徴
第二節 全体主義運動の特徴
エリートとモッブ 「塹壕の生き残り」世代 前線世代の特徴 全体主義運動の組織の特徴 フロント組織の特徴 プロパガンダ 二重化構造 二重体制の長所 二重体制の短所 テロル 「客観的な敵」の概念
秘密警察の役割 報酬
第三節 人間性の破壊
根源悪とは ロシアの警察の夢――忘却の穴 強制収容所を語ることの困難 強制収容所の人間性の殺戮システム 人間のアイデンティティ
「回教徒」

第二部 ユダヤ人女性としての闘い

第七章 アレントと反ユダヤ主義
第一節 ユダヤ人女性アレント
ユダヤ人女性としてのアレントの位置 アレントの幼年期と反ユダヤ主義
ユダヤ人のアイデンティティ
第二節 反ユダヤ主義と国民国家
ユダヤ人の「解放」 国家にとってのユダヤ人の必要性 階級とユダヤ人
ユダヤ人の特殊な地位 帝国主義とユダヤ人の特権の喪失
第三節 反ユダヤ主義の展開
ドイツにおけるユダヤ人の解放 反ユダヤ主義の発生 反ユダヤ主義の第一の特徴――急進派による利用 反ユダヤ主義の第二の特徴――自生的な発生 反ユダヤ主義の第三の特徴――国家への攻撃 ドイツ、オーストリア、フランスの反ユダヤ主義
第四節 ユダヤ人側からの対応
同化ユダヤ人 メンデルスゾーン ユダヤ人解放運動 第二世代の改宗 サロン 隠された伝統 ハイネ――不運な者と夢の世界の宝 ラザールと「意識的なパーリア」 チャップリンと「疑わしい者」 カフカと「善良な人間」
第五節 『ラーエル・ファルンハーゲン』
執筆の動機 ヤスパースとの論争 ラーエルの経験 ラーエルの条件
ラーエルのサロン 「成り上がり者」への道 「成り上がり」のもたらしたもの
第六節 アレントとパレスチナ
ドイツからの脱出 ユダヤ人の軍隊 ユダヤ軍の理念 シオニズム運動の問題点 シオニズム運動の政治的欠陥 イスラエル建国批判 ユダヤ人の郷土 パレスチナの幻想 マグネスとの協力
第七節 アイヒマン裁判
アイヒマンの悪 アイヒマンの仕事 アレントの診断 法と良心 良心の麻痺のプロセス アイヒマンの定言命法 小物理論 アレントの結論――「一人のうちの二人」 悪の凡庸さ
第八節 ショーレムとの論争
ショーレムの批判の論点 思いやり アレントの回答 評議会の行動の判断の困難さ アレントの回答  アイヒマンの責任

第八章 新たな公的領域の構築の可能性
第一節 フランス革命とルソー
革命の定義 飢えた群衆と自由 自由と必然 ルソーの一般意志 カントのヌーメノン人間 同情、連帯、憐れみ 根源的な善の暴力 同情と憐れみの情
第二節 アメリカ革命
タウンの民主主義 アメリカ革命と憲法 法と権力 連邦制 タウンにおける権力の発生 憲法創設の二つのアポリア 憲法制定権力  憲法制定権力の悪循環 アメリカの特殊性 神の権威 始まり
第三節 アメリカ革命の成功と挫折
革命の精神の喪失 マディソンの権力分立案 ジェファーソンの悩み
フランス革命における代表論 自治の精神
第四節 現代における評議会運動
評議会の特徴 政党のエリート 評議会のエリート 評議会制度の限界
第五節 現代における公的な領域の可能性
評議会の役割 公的なもの 参加民主主義 社会的なものと政治的なもの アレントの目指したもの 市民的不服従

第九章 アレントとハイデガー
第一節 ハイデガーの影響からの離脱
出会い 「アモー、ウォロー・ウト・シス」 アレントのアイデンティティとハイデガー
第二節 『アウグスティヌスの愛の概念』とハイデガー
ハイデガーの影響 ハイデガー批判
第三節 「実存哲学とは何か」
ハイデガーの責任の追及 カントの位置 ハイデガーの哲学の位置づけ
ヤスパース哲学との対比 ハイデガーのロマン主義
第四節 戦後のハイデガー問題とアレント
ハイデガー問題 ハイデガーの弁明 ヤスパースの評価 再会と和解
アレントのハイデガーへの愛
第五節 晩年の愛
「八〇歳になるマルティン・ハイデガー」にみられる新たな課題 思考の特徴 ハイデガーへの弁明
第六節 存在の歴史と公共性
ハイデガーの転回 アレントの解釈 『ニーチェ』の第一巻と第二巻の記述の違い ニヒリズムと価値の批判 超人の概念の書き換え 技術論 意志と技術 ハイデガーの思考の概念への批判 「存在の歴史」の概念の問題性

終わりに
アレントと活動

あとがき
事項索引
人名索引
装幀──難波園子


ハンナ・アレント〈世界への愛〉 あとがき

  本書は、タイトル『ハンナ・アレント〈世界への愛〉――その思想と生涯』からお分かりのように、アレントの「アモール・ムンディ」(世界への愛)と公共性の思想を軸に、アレントの思想と生涯を追跡したものである。

 第一部では、アレントが魅惑されたギリシア古代のポリスにおける市民の公的な活動が、その後のプラトンとキケロ、アウグスティヌス、マキアヴェッリにおいて公共的な善の思想としてどのように展開されていったかを、アレントとともに追跡した。さらに無世界的なキリスト教の思想が、西洋の政治思想の伝統をどのように作り上げていったかを考察するアレントの思考の道筋をたどった。そしてアレントがホッブズに始まる近代の哲学とマルクスの労働の哲学にどのように問題点をみいだしていったか、また反ユダヤ主義、ナショナリズム、全体主義の問題点をどのように暴いていったかを考察した。

 第二部では、ドイツに同化ユダヤ人として生まれたアレントが、幼い頃から反ユダヤ主義とどのように対決していったかを、ユダヤ人女性としての生き方と思想の問題として追跡した。ゲシュタポに逮捕されるという危機をのがれたアレントは、母親とともにフランスに難を避けた後、アメリカに亡命した。その後アレントが、最初はシオニズムに同調しながらも、ユダヤ人とイスラエルのために、シオニズムを批判しながらどのような議論を展開していったかを検討した。これにはイェルサレムでのアイヒマン裁判の傍聴と裁判の批判、その後で巻き込まれた激しい論争、アメリカの公的な教育における公権力批判の議論の考察も含まれる。そしてアレントが、古代ギリシアのポリスでの公的な空間の消滅の後に、どのような機会に公的な空間がふたたび立ち現われる可能性があると考えたかを、アメリカ革命とハンガリー革命についてのアレントの研究に基づいて確認した。

 最後に、アレントが生涯にわたって愛し、批判しつづけたハイデガーとの深い関係を考察する章をつけ加えた。アレントのユダヤ人女性としての、そして思想家としてのアイデンティティがハイデガーとの対話と対決のうちに形成されたと考えるからである。

   * * *

 この書物はくしくも、二〇一一年三月一一日、言葉に尽くしがたい出来事の光景に圧倒された東日本大震災の日の早朝に、筆を起こしている。文面には出ていないと思うが、この書物を書きつづけた日々の背後に、大津波と福島原子力発電所の崩壊の恐怖の光景が、そしてその後の無念の想いがひそんでいる。

 五〇〇頁にも達する本書の刊行を快諾された新曜社の渦岡謙一さんに、心から感謝を申し上げる。

   二〇一三年八月、

国籍を失うことなく、そのまま難民として生きることを強いられている人々に思いを馳せつつ……

中山 元