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日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第12号
──特集 文化と発達


B5判並製224頁

定価:本体2800円+税

発売日 13.3.20

ISBN 978-4-7885-1331-0

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◆「最前線」に挑み続ける◆

これまで日本の質的研究の潮流を先導し続けてきた『質的心理学研究』。近年は質的研究をめぐる環境もずいぶん変わり、単に量的研究と対峙しているだけでは「前線」として意味をなさなくなってきています。今は、先駆者たちが切り拓き、達成してきたものを受け取りつつも、新たな「最前線」を研究者が各自見出し、それを更新し続けていかなければならない時代になってきたと言えるでしょう。本号の特集では、「文化」を鍵概念として、「発達」の過程をどのように捉えることができるのか、質的研究ならではの斬新な切り口と読み応えのある論文を収載しました。書評特集のテーマは「喪失の多様性を巡って」。


質的心理学研究 第12号 巻頭言

質的心理学研究シリーズ バックナンバー

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質的心理学研究 第12号 巻頭言


”最前線”の声を聴く
『質的心理学研究』第12号が無事発刊の運びとなった。私の編集委員長としての任期も本号で終わることになるが、常に心がけてきたのは、いわば“最前線”の質的研究を読者の皆様にお届けすることであった。しばしば誤解されるのだが、“最前線”は必ずしも“最先端”ではない。私の理解で、“最先端”ということばはある研究領域の知が真理に向かって進んでいくという伝統的な科学観を引きずった表現である。それに対して”前線”は点(“先端”)ではなく、あくまで“線”であり、それも一直線に前に進んでいるというよりも、横に広がって異質なものと対峙する線である。

したがって“最前線”の質的研究とは、必ずしも海外の研究動向を反映した研究のことではないし、単に目新しい知見を積み上げただけの研究でもない。生きて動いている現場と向き合い、その張り詰めた緊張感のなかで問題をつかんで、乗り換えようと努力するところに“最前線”は生まれる。そこで対峙する相手は、そうした努力を妨げる既成の知や思考の枠であったり、場合によってはそれを自明視する自分自身であったりするかもしれない。“最前線”は、私たちひとりひとりの日常の世界にも、私たち自身のなかにも生まれる一つの状態を示すことばなのである。質的研究という分野それ自体、「質的研究」という言葉もまだ知られていなかった頃から、量的研究と対峙する“前線”において自らを形づくってきたことを思い出してもよい。

もっとも、近年は質的研究をめぐる環境もずいぶん変わり、単に量的研究と対峙しているだけは、“前線”としての意味をなさなくなりつつある。質的研究内部にもスタンダードのようなものができかけているが、そこに自足しとどまってしまっては、少なくとも方法的な面での“最前線”とはもはやいえないだろう。今や、これまでの量的研究が達成してきたものを受け取りながらも、新たな“最前線”を研究者が各自見出し、それを更新し続けていかなければならない時代になってきたのではなかろうか。

さて、本誌『質的心理学研究』第12号には、そのような“最前線”をそれぞれ自らのなかに見出し、そこでの格闘の経過と成果を記録し10本の論文が収められている。論文の著者たちが取り組んでいる現場は様々である。理論との格闘の場であることもあれば、文化的な実践のばということもある。各論文を読むことでその実質的な知見が学べるのはもちろんだが、それを超えて読む側ひとりひとりが“最前線”を見出し、あるいは創り出していく営為がどこかで支えられることを、編集委員一同心から願っている。

編集委員長 能智正博