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日本発達心理学会 編
田島信元・南徹弘 責任編集

発達心理学と隣接領域の理論・方法論
──発達科学ハンドブック1


A5判400頁円

定価:本体4000円+税

発売日 13.3.20

ISBN 978-4-7885-1330-3

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◆「発達心理学」から「発達科学」へ◆

いまや発達心理学は、隣接の学問分野から影響を受けつつその領域を広げ、総合的な「発達科学」として発展しつつあります。研究・実践において、求められる社会的責務も大いに高まってきているといえましょう。本書では発達心理学の歴史的変遷、理論的基盤と方法論の潮流をたどり、比較行動学・進化心理学・文化人類学・認知科学・教育学・社会学・小児科学・脳科学などさまざまな隣接領域の特徴と、発達心理学にもたらした影響を概括・展望します。発達心理学はどこまでその範囲を広げ、どこに向かおうとしているのか──今後を見極めるための必読書です。ハンドブックシリーズ2巻〜6巻、好評発売中!


発達科学ハンドブック シリーズの紹介

発達心理学と隣接領域の理論・方法論 目次

発達心理学と隣接領域の理論・方法論 序章(一部抜粋)

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発達心理学と隣接領域の理論・方法論―目次

『発達科学ハンドブック』発刊にあたって 
序 章 発達心理学の理論・方法論の変遷と今後の展望:
    発達科学を目指して   田島信元・南 徹弘
第1節 発達心理学の起源 
第2節 発達心理学の展開 
第3節 総合科学としての発達科学の方向性 

第1章 ピアジェの認知発達理論の貢献:
過去・現在・未来  大浜幾久子
第1節 ピアジェの「臨床法」をめぐって 
第2節 発生的認識論研究における心理学 
第3節 ピアジェと創造性 

第2章 ヴィゴツキーの文化的発達理論の貢献:
過去・現在・未来  田島信元
第1節 文化的発達理論の概要と位置づけ 
第2節 文化的発達理論の展開 
第3節 ヴィゴツキー理論の方法論的特徴 

第3章 ボウルビィの愛着理論の貢献:
 過去・現在・未来 戸田弘二
第1節 愛着の個人差を規定する要因 
第2節 愛着理論の成人期への拡張 
第3節 次世代の研究課題 

第4章 ネオ・ピアジェ派の考え方   吉田 甫
第1節 ネオ・ピアジェ派の研究とは 
第2節 ケイスの理論 

第5章 新成熟論の考え方   小島康次
第1節 新成熟論とは何か 
第2節 生得性とは何か――発達と進化を架橋する「制約」概念
第3節 新成熟論からみた発達――進化と文化のダイナミズム 
第4節 新成熟論を支える理論 

第6章 生態学的知覚論の考え方:
    発達的視座から 山ア寛恵・佐々木正人
第1節 理論的概説――知覚に重要な環境の事実と情報のピックアップ 
第2節 発達研究における生態心理学の近年の展開 

第7章 社会的学習理論の考え方   渡辺弥生
第1節 社会的学習理論の基礎理論の概説 
第2節 中核となる理論と研究方法 
第3節 発達心理学への影響 

第8章 社会文化・歴史的発生理論の考え方  佐藤公治
第1節 道具主義的方法と文化心理学
第2節 文化的発達と媒介手段としての文化的道具 
第3節 ヴィゴツキーの遊び研究と「心的体験」論 
第4節 実践的行為による変革の可能性 
第5節 ヴィゴツキー研究のさらなる課題 

第9章 活動理論の考え方  山住勝広
第1節 活動の概念と活動システムのモデル 
第2節 変化を生み出す行為の主体性への発達的介入の方法論 
第3節 現代の発達心理学への活動理論の寄与 

第10章 状況論の考え方:野火的活動と境界の横断   上野直樹
第1章 野火的活動と境界の横断
第2章 野火的活動の事例――オープンソース運動の略歴 
第3章 オープンソース運動のもたらしたもの 
第4章 野火的活動と境界の横断の再定式化 

第11章 認知的社会化理論の考え方   臼井 博
第1節 認知的社会化とは――認知的社会化の2つのアプローチ 
第2節 文化的剥奪仮説 
第3節 心理的引き離しモデル 
第4節 生物生態学モデル 
第5節 まとめと今後の課題 

第12章 新生児・乳児研究の考え方:
  その小史と展望   川上清文・高井清子
第1節 乳児研究の歴史 
第2節 乳児研究の方法 
第3節 最近の乳児研究の例 

第13章 生涯発達心理学の考え方:発達の可塑性  鈴木 忠
第1節 生涯発達心理学の成立 
第2節 サクセスフルエイジングと可塑性 
第3節 発達の自己制御 

第14章 比較行動学の考え方   南 徹弘
第1節 行動比較研究の背景 
第2節 比較行動学における「行動」 
第3節 比較行動学の課題 
第4節 「サル類−チンパンジー−ヒト」の身体成長の比較発達 

第15章 霊長類学の考え方 中村徳子
第1節 霊長類学とは 
第2節 比較発達心理学とは 
第3節 霊長類学からみる発達的アプローチ――こころの進化的起源 

第16章 行動遺伝学の考え方  児玉典子
第1節 行動遺伝学とは 
第2節 発達心理学への行動遺伝学の貢献 

第17章 進化学(進化心理学)の考え方  富原一哉
第1節 理論的特徴 
第2節 方法論的特徴 
第3節 現代発達心理学への寄与のあり方 

第18章 文化人類学の考え方:文化と発達   高田 明
第1節 文化人類学の概念 
第2節 方法論の特徴 
第3節 発達心理学への貢献 
第4節 まとめに代えて 

第19章 ダイナミック・システムズ・アプローチの
     考え方   陳 省仁
第1節 DSAの基本的考え方 
第2節 DSTの主な用語と概念 
第3節 DSAの研究方略 
第4節 DSAと他の主な発達理論との比較 
第5節 結び 

第20章 社会言語学の考え方   岡本能里子
第1節 社会言語学の概念 
第2節 方法論の特徴 
第3節 発達心理学への貢献 
第4節 研究領域の広がりと今後の展望 

第21章 認知科学の考え方  島田英昭・海保博之
第1節 認知科学の概念
第2節 方法論の特徴 
第3節 発達心理学への貢献 

第22章 教育学の考え方:発達の観念と教育研究   古賀正義
第1節 教育学研究の歴史と発達の科学 
第2節 教育学研究の方法的変化と発達への接近 
第3節 発達研究への教育学の貢献 

第23章 家族社会学の考え方 大和礼子
第1節 1つめの変化――「発達は時代・社会によって多様」 
第2節 2つめの変化――「多様な人間関係の中での育児」 

第24章 エスノメソドロジー(社会学)の考え方   高木智世
第1節 エスノメソドロジーの視点 
第2節 会話分析を通して見えるもの
第3節 発達心理学への提言 

第25章 エスノグラフィの考え方   柴山真琴
第1節 エスノグラフィの概念 
第2節 方法論の特徴 
第3節 発達心理学への貢

第26章 現象学の考え方:
    「他者と時間」の現象学を中心にして  増山真緒子
第1節 はじめに――「老いること」「死にゆくこと」 
第2節 老いの現象学 
第3節 レヴィナスと現象学 
第4節 ハイデッガーと「死に臨むこと」 
第5章 生きること,死ぬこと 

第27章 小児科学の考え方   小西行郎
第1節 神経科学から 
第2節 胎児の行動観察から 

第28章 精神医学の考え方   本城秀次
第1節 了解概念と発達概念 
第2節 精神分析における発達概念 
第3節 診断としての発達障害 
第4節 神経発達仮説 

第29章 脳科学の考え方 皆川泰代
第1節 脳科学の概念 
第2節 方法論の特徴と発達心理学への貢献 
第3節 機能一般的な処理から機能特異的処理へ 



事項索引
編者・執筆者紹介 

装丁 桂川 潤


発達心理学と隣接領域の理論・方法論 序章(一部抜粋)


  序章 発達心理学の理論・方法論の変遷と今後の展望:発達科学を目指して
田島信元・南 徹弘

 本章では,発達心理学がどこを起源として,どのように発展し,現在どこに向かおうとしているのか,を展望してみる。歴史的変遷は現在の動向に内包され,かつ,将来の方向性を占う重要な資源となっている。その意味で,本章によりわれわれ発達心理学徒の現在の研究上の立ち位置を明確にして,今後の目標とすべき方向性を見極めるための資料としたい。

1 発達心理学とは
 発達心理学は,主として人間の精神的(認知的),行動的側面を対象として,人が誕生してその一生を終えるまでの期間(個体発生)に見られる発達的変化についての法則(発達のメカニズム)や特徴(発達の様相)を明らかにする心理学の一分野として定義される(田島,2005)。
 この分野はアメリカのホール(Hall, S.)が19世紀末に児童心理学として建設し,それまで無理解であった児童の権利を擁護しようという運動とあいまって発展した。しかし,発達を規定する要因について,「遺伝か環境か」が議論され,現在まで両者の相互作用を重視する方向へと研究が進んできており,生物学的要因の吟味だけでなく,加齢にともなうさまざまな経験要因との関係を重視する傾向が強くなって,生涯発達の観点から発達を広範囲な視点で見直していく枠組みに変化してきている。
 発達心理学は発生(発達)的接近法という方法論を採用する。これは,たとえば人間(大人)の認知能力を明らかにするとき,認知能力そのものが成立していく変化過程のなかにその本質があるという前提で,乳幼児,児童,青年期に至る変化過程,および子どもや大人を対象とした短期の認知の変容過程を吟味するのである。認知能力というとき,単に「どういうことができるか」ということを知能検査や認知検査で調べるのではなく,できない段階からできるようになっていく段階への変化過程を追うことで,できないのはなぜか,できるということはどういう条件がそろう必要があるのか,などの情報を得ることが必要と考えるからである。
 さらに,方法論としては,人間と動物の発達過程を比較する比較行動学(エソロジー)的接近法や,異文化間の発達過程の相違や共通点を検討する比較文化的接近法など多様な広がりをみせ,後述するように,認知・行動の発生学的説明を試みる総合的な発達科学として成長しつつある。

2 現代発達研究の視点――発達心理学の二大理論
 現代の発達心理学の理論には,代表的にはピアジェ(Piaget, J.)の発生的認識論に基づく「認知発達理論」(Piaget, 1936/1978, 1952/1967, 1966/1969, 1983)(第1章参照)と,ヴィゴツキー(Vygotsky, L. S.)の認識の社会的構成理論に基づく「文化的発達理論」(Vygotsky, 1931/1970, 1934/2001, 1935/1975)(第2章参照)がある。
 ほとんど同時期に提案されたこれらの理論は,それぞれが他の諸理論に比べると発達現象に対する説明力は群を抜いている大理論(メタ理論)とされる。しかし両理論は異なる視点で発達を分析しており,歴史的にはピアジェ理論が先行的に吟味され,その弱点,すなわちピアジェ理論ではどうしても説明できない部分や,もともと視野に入れていない部分を克服するものとしてヴィゴツキー理論が再評価されたという側面をもつ。しかし,いずれも,ある特定の視点から発達現象を説明するという理論のもつ特性からでたものであり,われわれはこの二大理論を重ね合わせることで,発達という現象のより広範な側面を理解することができると考えられる。事実,両理論はかなり共通面が多く,差異面にしても補完的な性格が強いと言われている(Bidell, 1988)。
 両理論の共通点としては,主体(子ども)と対象(周りの人やもの)との相互作用過程を通した変化,しかも,相互に影響を及ぼしあいながら,主体,対象ともそれぞれが,それぞれの形で変化していくといった弁証法的変容過程を基底にすえた観点を提供していることである。また,ピアジェ理論が子ども自身の認知構造の変容過程に焦点化したのに対し,ヴィゴツキー理論は子どもと対象を社会・文化・歴史的文脈(環境)の中でとらえ,両者の関係性の変化を発達の所産とした,といった違いがある。しかしわれわれ発達心理学徒の使命は,社会的動物と言われる人間が,系統発生に基づく生物学的制約のもと,文化的制約としての社会的経験を通してどのように認知構造とそれに基づく行動を獲得していくのか,その過程と方向性を見定めるという,いわばヒトの生物性と人間の文化性の統合のあり方を明らかにすることにあるので(南,1994, 2007),まさに両理論を補完的なものと位置づける必要がある。
 そのためには,ピアジェ理論に基づきながら,その弱点といわれるものを克服するべく認知理論や情報処理理論などの複数の理論を組合せた複合理論によって説明しようとしたネオ・ピアジェ派,また生物学的制約性について,生得性を強調し発達概念を否定する進化心理学などの前成説に対し主体と環境との相互作用を強調したピアジェ理論の後成説的側面を踏襲したうえで,生物学的一次能力と二次能力を区別して社会・文化的制約との関係を理論化した新成熟論派などのポスト・ピアジェ理論を跡づけることが一つの解決法となろう。
 一方,ヴィゴツキー理論の系譜においては,歴史―文化的な唯物論的哲学を基に独立した発展を遂げた側面があるものの,ヴィゴツキー自身がピアジェ理論を意識していたこともあり(Vygotsky, 1934/2001),ヴィゴツキーの後継者たち(ヴィゴツキー派)の考え方,および彼らが中核となる新しい文化心理学領域の建設という流れにおいてピアジェ理論,ポスト・ピアジェ理論との統合の兆しが見えてくる。そして,その結果が現在の発達科学の理論的,方法論的統合の試みに表れていると考えられるのである。