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中村桂子 編/JT生命誌研究館 発行

遊ぶ
――生命誌年刊号vol.69─72


A5判変型並製278頁

定価:本体1905円+税

発売日 12.12.1

978-4-7885-1318-1

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◆利己的か利他的か、それが問題だ

細胞内の重要な遺伝子をはたらかないようにしても、バクテリアやマウスは生きていることがあります。大切なはたらきだからこそバイパスがあり、そうした「遊び」があるからこそ生きものは柔軟に、強く生きていけるのです。では編集工学研究所の松岡正剛氏、生物学者で歌人の永田和宏氏、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎氏らが「遊ぶ」という言葉をめぐり、各分野から奥行きのある対話を繰り広げます。震災以降、物語性を大切にする生命誌の考え方に、共感する人が増えているという声が聞かれます。誰もが生きていることを楽しいと思える社会に向けて、生命のこれからを一層深く見つめる一冊です。


遊ぶ 目次

遊ぶ あとがき

ためし読み

◆書評
2012年12月23日付、産経新聞、西垣通氏評
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遊ぶ─目次

はじめに
Talk 語り合いを通して
◆多義性をかかえた場を遊ぶ  松岡正剛×中村桂子
◆短歌と科学、定型の中に生まれる遊び  永田和宏×中村桂子
◆心ゆさぶる生き方を追い求めて  阿形清和×中村桂子
◆数学の眼で人間のものの見方を解く  杉原厚吉×中村桂子

Research 研究を通して
個を支える遊び
◆ロバスト性を支えるしくみ  森 浩禎
◆ハエの消化管から見る左右非対称な形づくり  前田礼男
◆小鳥がさえずるとき脳内では何が起こっている?   和多和宏

世代をつなぐ遊び
◆味覚受容体遺伝子がむすぶ化合物と産卵行動  尾崎克久
◆被子植物の繁栄を支える重複受精の瞬間を見る  東山哲也

遊びから展開する進化
◆カイメンの幹細胞から見る多細胞化の始まり  船山典子
◆アナログかデジタルか?滑らかな動きを生む進化  西野敦雄
◆手足の形づくりに見る普遍と多様  田村宏治

Scientist library 人を通して
◆自然免疫の点を線につなぐ  審良静男
◆統計学から進化と多様性の森に分け入って  長谷川政美
◆シロイヌナズナで花開いた分子遺伝学  岡田清孝
◆初登頂の精神で心の進化を見つめる  松沢哲郎

あとがき
生命誌ジャーナル掲載号一覧






遊ぶ はじめに

二〇一一年度のテーマを「遊ぶ」ときめたのは、三月末のことでした。十一日にマグニチュード九・〇という未曾有の大地震とそれによる津波、そして原子力発電所の事故という災害があった直後です。ここでこの言葉を選んでよいのだろうか。かなり悩みました。

生命誌は、生命という切り口で自然・人間について考える知であり、生きている≠ニいう実感を持つことのできる動詞を通して知を組み立てていこうとしています。これまで取りあげてきた「愛づる」「語る」「観る」「関わる」「生る」「続く」「めぐる」「編む」は、どれも生きものらしさを知る研究を探し出し、生きることを大切にしている知の探検者と出会う場を生み出してくれました。

その中で、自ずと「遊ぶ」という言葉が浮かび上がってきたのです。以前は、遺伝子といえば、それが決定的に生体内の現象を決めるというイメージがありました。ですから、細胞内で明らかに重要なはたらきをしている遺伝子をはたらかないようにしても、バクテリアやマウスが平気で生きていることがあるとわかった時は、皆驚きました。でも、大切なはたらきであればあるほど、バイパスを作っておくはずです。そのような遊び≠ェあるからこそ生きものは柔軟に、しかも強く生きていけるのです。

災害からの立ち直りは、単なる復興でなく、生きものらしい柔らかくて強い社会を作りたいという思いをこめて「遊ぶ」にしよう。そう決めました。

ここで、いつものように辞書を見ますと、まず「日常的な生活から心身を解放し、別天地に身をゆだねる」とあります。神事に端を発し、それに伴う音楽、舞踊や遊学を含むとも。別天地に身をゆだねるところまで広がれなくとも、思いきり大らかに考えようと思います。辞書は細かく@かぐらをする。転じて音楽を奏する。A楽しいと思うことをして心を慰める。B狩をする。野山を気楽に歩きまわる。遠出をして風景を楽しむ。C子どもや魚鳥などが無心に動きまわる。D他の土地に行き風景を楽しむ。学問のために他所に行く。E生業をもたずぶらぶら暮らす。F金、土地、道具などが利用されないでいる。G酒やばくちにふける。Hもてあそぶ。とさまざまな側面を教えてくれます。

大らかさの裏には、大事なものをうまく利用できず、ぶらぶらして、ついにはばくちにふける暮らしに落ちていく危険性があるわけです。生きているということは、善か悪かをすっぱり分けることのできない複雑なものであり、それをすべて抱えこんでこそのダイナミズムなのだと改めて思いました。生きものが見せるダイナミズムを各ページから読みとってください。

松岡正剛さんが、「〈遊〉という文字は出かけるという意味で、しんにょうの中の〈方〉は旗、〈子〉と合わせて旗竿をもつ人の形を表わす。旗をかかげて向こうへ出かけていき、そこから帰ってくると道ができる。ここには動きがある。」と教えてくださいました。どんどん出かけて行こう、そして新しい道を作っていこうと思っています。表紙を見てください。遊んで道を作ってますでしょ。