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日本発達心理学会 編、根ヶ山光一・仲真紀子 責任編集

発達の基盤
――身体、認知、情動


A5判上製336頁

定価:本体3600円+税

発売日 12.09.20

978-4-7885-1302-0

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◆「身体・脳」から心の発達を考える◆

心の発達をとらえる上で、生物学的視点は欠くことができません。心のありようが身体に反映され、逆に身体のありようが心に影響する、という心と身体の密接な関係は、これまでも心理学の研究対象になってきました。さらに近年、脳科学の技術的進歩により、脳と心の働きに関して客観的な知見が得られるようになり、心理学界に大きなインパクトをもたらしつつあります。本書では心と身体の重要な接点である脳科学・認知・情動に焦点を当て、環境から情報を受けとめ、統合し、新たな内容を創り出していく「生物としてのヒト」のあり方を探りつつ、個体の生から死までの変化過程を科学的立場から考察します。


発達の基盤:身体、認知、情動 目次

発達の基盤:身体、認知、情動 序章

お知らせ<訂正>
第4巻「発達の基盤」第17章 225ページの図17-2 Bの直観とBの推論が逆です。お詫び申しあげますとともに下記の通り訂正申し上げます。

発達科学ハンドブック シリーズの紹介

ためし読み
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発達の基盤─目次

『発達科学ハンドブック』発刊にあたって ヒ
序 章 発達を支える身体・認知・情動   根ヶ山光一・仲真紀子
第1節 本書のねらいと特徴 
第2節 本書の構成 

第1章 脳科学からみた発達   開 一夫
第1節 脳の構造と機能 
第2節 ミラーニューロンシステムと発達 
第3節 今後の展望 

第2章 発達の生物学的基礎   長谷川寿一
第1節 はじめに――発達心理学と生物学のかかわり 
第2節 遺伝と環境 
第3節 系統発生と個体発生 
第4節 成長・加齢と発達――ヒトの生活史の特異性を中心に3
第5節 心の進化とその研究方法

第3章 大規模空間の認知発達  山本利和
第1節 空間認知
第2節 子どもの空間認知に関する発達理論 
第3節 空間表象に影響するさまざまな要因 
第4節 子どもの大規模空間認知 

第4章 感情・情動と発達   内山伊知郎
第1節 胎児期から乳幼児期にかけての感覚運動と感情発達 
第2節 進化論的視点による感情発達 
第3節 機能的視点による感情発達 
第4節 幼児期の感情発達 

第5章 対人認知と発達:
第5章 発達初期の社会的シグナルに対する感受性   板倉昭二
第1節 はじめに――対人認知の基盤 
第2節 社会的随伴性に対する感受性 
第3節 顔に対する感受性 
第4節 身体や身体の生物的動きに対する感受性 
第5節 社会的因果性に対する感受性 
第6節 目標志向性に対する感受性 
第7節 他者の「行い」に対する感受性――社会的評価 

第6章 コミュニケーションの発達   高橋 登
第1節 はじめに 
第2節 会話の発達 
第3節 語り(narrative)の能力 
第4節 書き言葉を身につけること 
第5節 これからのコミュニケーション 

第7章 姿勢制御のメカニズムと発達   高谷理恵子
第1節 姿勢とは何か? 
第2節 姿勢制御の発達過程 
第3節 姿勢制御と認知・情動 
第4節 姿勢制御システムについて考える 
第5節 姿勢制御能力を育てる 

第8章 認知発達の脳科学的基盤   松井三枝
第1節 脳発達について 
第2節 認知発達について 
第3節 比較研究――チンパンジーとヒト 
第4節 神経発達障害 

第9章 対人関係の基盤としての身体接触   根ヶ山光一
第1節 はじめに 
第2節 身体接触と母子コミュニケーション 
第3節 接触からマルチモダリティへ 


第10章 顔認知の発達とその神経基盤   遠藤光男
第1節 成人の顔認知の特性と神経基盤 
第2節 顔認知発達のモデル 
第3節 新生児期の顔認知 
第4節 乳児期の顔認知 
第5節 おわりに――乳児期以降の顔認知の発達 


第11章 言語習得における身体的基盤   江尻桂子
第1節 前言語期の音声発達 
第2節 規準喃語の出現とリズミカルな運動の発達的関連 
第3節 前言語期のろう児の言語発達
――手話言語獲得の初期過程に着目して 


第12章 嗅覚の役割とにおいとのかかわり   國枝里美
第1節 においと私たちのかかわり 
第2節 人の嗅覚の仕組みと役割――においの受容機構 
第3節 においに対する感度 
第4節 においと文化 
第5節 においに対する認知と私たちの行動 
第6節 ヒトフェロモンの可能性とケミカルコミュニケーション 
第7節 暮らしと香り 


第13章 食行動の発達   外山紀子
第1節 食の技能の発達 
第2節 嗜好の形成 
第3節 食をめぐる社会性


第14章 事故による傷害と子どもの心・身体   西田佳史
第1節 傷害予防のための傷害制御技術体系 
第2節 制御論的アプローチの事例と包括的制御 
第3節 傷害予防のための子どもの発達の理解 


第15章 マルチモダリティと他者理解   大藪 泰
第1節 ユニモダリティとマルチモダリティ 
第2節 養育者との交流とマルチモダリティ 
第3節 他者理解 

第16章 情動と記憶   高橋雅延
第1節 情動と記憶の定義 
第2節 情動が自伝的記憶に及ぼす促進効果 
第3節 情動が人工的な材料の記憶に及ぼす促進効果 
第4節 情動的な記憶の機能とポジティビティ効果 

第17章 道徳性の発達   長谷川真里
第1節 道徳性とは 
第2節 道徳性の発達に関する代表的な理論 
第3節 道徳性の発達をめぐる議論 
第4節 今後の課題,まとめと展望 

第18章 ソース・モニタリングの発達的変化   金城 光
第1節 ソース・モニタリング研究の枠組み 
第2節 子どものソース・モニタリング能力
第3節 高齢者のソース・モニタリング能力 
第4節 ソース・モニタリングの神経心理学的基盤 
第5節 おわりに 

第19章 発達障害と認知:読み書きの困難   室橋春光
第1節 「読み書き」という行為 
第2節 発達障害とは 
第3節 学習障害 
第4節 学習障害の出現率と合併症,二次障害 
第5節 学習障害のメカニズム――読みの困難の原因を探る 
第6節 「読みの困難」と脳機能 

第20章 妊婦・胎児間,祖父母・孫間等における
第20章 アタッチメント関係   近藤清美
第1節 繁殖方略としてのアタッチメント関係 
第2節 妊婦・胎児間のアタッチメント関係 
第3節 祖父母・孫間のアタッチメント関係 
第4節 飼い主・ペット間のアタッチメント関係 
第5節 アタッチメント研究の今後に向けて 

第21章 子どもを育てる家族における多者的関係   小島康生
第1節 子どもの誕生と家族のなりたち 
第2節 複数の子どもを育てる家族 
第3節 今後の家族研究の展開 

第22章 母子間コミュニケーションにおける音楽性   中田隆行
第1節 乳児が生まれつきもつ高い音楽知覚能力 
第2節 乳児に向けた声に現れる音楽性 
第3節 音楽性の高いコミュニケーションによる長期的な効果 

第23章 子どもの証言と面接法   仲真紀子
第1節 司法面接の必要性 
第2節 司法面接の概要 
第3節 NICHDガイドライン 
第4節 面接法の訓練と評価 


あとがき:発達を支える環境・身体・心の視点から 

人名索引 
事項索引 
編者・執筆者紹介 

装丁 桂川 潤






発達の基盤 序章

  序章 発達を支える身体・認知・情動

 生物は時間軸にそって変化する存在であり,発達とはその変化に対する一つのとらえ方である。時間的変化のもっとも大きな枠組みは「進化(系統発生)」であり,そこでの変化は種の誕生から滅亡までの過程としてとらえられる。ついで,社会レベルにおける体制の誕生から滅亡までのうねりが存在し,その変化を私たちは「歴史」と呼ぶ。この本のテーマである発達は,個体の生から死までの変化過程である。ただしその個体レベルの変化は,進化的変化とも歴史的変化とも独立ではない。

 このハンドブックのシリーズは,そういった個体レベルの発達を,発達心理学という窓を通して多面的に考察するという企画である。そこでいう発達が進化や歴史の枠組みと関連し,いわば異なる時間の入れ子構造を呈するということは,言いかえれば発達に種差や民族差・時代差があり,それが生活文脈としての生態学的環境や文化・社会的環境に規定されているということである。その入れ子構造の全貌を考察することが,発達科学の究極の課題であろう。本書はそのような課題の中で,環境と生活体の関連性の中に発達の基盤を求めてみようとする試みである。

 本書の大きな特徴として生物学的視点があり,その具体的な切り口として「身体」への注目がある。それは身体が,発達だけでなく進化や歴史の枠組みとも重なる切り口だからである。ここで,生物として生きるということの原点は環境と身体間で資源のやりとりを行うことであり,そのやりとりを媒介するのが心であると割り切ってみよう。そのように考えれば,身体は心の発達に枠組みを与えるし,また心が身体を支えているともいえる。たとえば,食は環境資源を身体資源に変換することであるが,それは身体と心の出会う場の現象である。また子どもの好奇心は生活環境の拡大をもたらすが,それは同時に事故という身体上のリスクももっている。あるいは,触れ合いという言葉は,心理的意味と同時に身体的意味も併せもつ。

 また,発達とは未熟な個体が成長成熟しやがて老いて死に至る過程であるが,その過程は他個体の生死と並行して進行する。個体は個体として生きるだけではなく,それを生み出したもう一つの身体から資源の提供を受けてその生を補佐してもらったり,逆に他個体の生を助けてあげたりもする。育児とはそういう行為である。その文脈でいえば,発達とは「繁殖(reproduction)」の一環でもある。そこでは,複数個体をつなぐ「通貨」のような媒介項の存在が視野に入ってくるし,その身体的通貨から個体の関係が測定できる。母乳という通貨と離乳の関連などはその問題の好例であろう。

 また,最近発展の著しい脳科学は身体と心の接点として重要な領域であり,その点に注目していることも本書のもう一つの特徴である。脳は身体の一部であると同時に心の座でもある。身体のもつ物質としての性格上,脳活動は物理化学的に記述することが可能であり,それが生み出す心の機能の客観的エビデンスとなりうる。定量することの難しい心の働きを説明するうえで脳科学の貢献は大であり,とくに昨今の脳機能イメージング技術の進歩とそれによる心的機能の裏づけは,発達心理学を含めて心理学界にきわめて大きなインパクトをもたらしつつある。

 本書はさらに,心と身体の関連性に深くかかわる側面として,認知と情動に焦点化していることを3つ目の特徴とする。春木(2011)は,呼吸のようにレスポンデント反応とオペラント反応の両方にまたがる性質を併せもった反応を新たに「レスペラント反応」と呼び,身体と心の両方に影響を及ぼしうるとした。このように心身には,心のありようが身体に反映されたり,逆に身体のありようが心に影響したりするような側面がある。心理学がこれまでそういう領域としてとくに関心を寄せてきたのが「情動」の問題である。情動は,対物的・対人的環境に対する認知とも不可分の関係にあることを考えれば,身体をベースに心の発達を考えるという本書の立場は,つまるところ環境・身体・心という三位一体的視点をもって発達を考察するということになるであろう。それは発達の人間科学にほかならない(根ヶ山,2002)。

 本書は人間科学としての発達心理学という観点から,発達の基盤としての「身体・認知・情動」に光を当てつつ,それを「第T部:発達を支えるもの」「第U部:発達における生物学的基盤」「第V部:発達における情動・認知的基盤」という3つの柱によって考察しようとするものである。しかしながら,本書の目的はそれらを網羅的に列挙して概説することではない。むしろ,編者・著者の問題意識を積極的に前面に出して,昨今の発達心理学の動向を発掘的・挑戦的に,かつ場合によっては批判的にレビューし,それを通じて近未来のあるべき新たな発達心理学,ひいては発達科学の行方を示唆することをめざしている。

 第T部「発達を支えるもの」としては,脳科学(第1章),生命科学(第2章),空間(第3章),感情・情動(第4章),対人認知(第5章),コミュニケーション(第6章)を取り上げている。とくに脳科学・生命科学・対人認知における最近の知見の総括には,発達をより大きな時間軸の中に位置づけて考察しようとする本書の特徴がよく現れている。その他感情・情動,言語的コミュニケーションを含め,いずれも発達を支える基本的な重要事項として注目されるものであり,本書のねらいに輪郭を与える大きな理論的枠組みである。

 第U部「発達における生物学的基盤」では,発達を理解するうえで意味がありかつ斬新な生物学的トピックスを厳選し,そこでの今日的論点をまとめている。とりあげた話題は,対物環境・空間に対する身体のかかわりとして,姿勢・移動(第7章),認知発達(第8章),対人的な文脈・コミュニケーションにおける身体の機能として,身体接触(第9章),顔認知(第10章),言語(第11章),環境の資源と身体のかかわりとして,におい(第12章),食(第13章),事故(第14章)の諸側面である。これらはいずれも身体と深くかかわるものであり,発達を身体に関連づけて考察するという本書の主張における各論的位置づけとなっている。

 第V部「発達における情動・認知的基盤」には,発達における情動・認知的基盤の問題として近年とくに注目を集めている論点を選んだ。一つは複数のモダリティにわたる認知とその発達にかかわる論考である。マルチモダリティ(第15章),そして情動と記憶(第16章),道徳性の発達(第17章),ソース・モニタリングの発達的変化(第18章),発達障害と認知(第19章)がここに含まれる。もう一つは,子どもと人,子どもと世界とのコミュニケーションに関する新たな切り口からの論考であり,妊婦や祖父母(第20章),きょうだい・親関係(第21章),コミュニケーションにおける音楽性(第22章),そして子どもの証言(第23章)がここに入る。これらの諸論により,身体は人的,物理的環境から多種多様な情報を受け止め,統合し,新たな内容を創りだして対人関係や世界を変えていく媒介項であることが示されよう。

 本書から,個体の生から死までの変化過程における基本的な諸側面を読み解いていただければと願う。


根ヶ山光一・仲真紀子