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前川啓治 編

カルチュラル・インターフェースの人類学
――「読み換え」から「書き換え」の実践へ


A5判並製264頁

定価:本体2400円+税

発売日 12.08.20

978-4-7885-1301-3

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◆元気が出る民族誌の実践◆

いま人類学に元気がありません。ポストモダンをへて従来のやり方が通用しなくなったこと、グローバル化により人類学が対象とする社会が変容したことなどがあるようです。さらには、クリフォードの民族誌の書き方への根底的批判 ─「部分的真実」(フィールドワーク)をいくら積み重ねても「全き真実」には到達できない─も大きいようです。一見もっともですが、本書は、それらにあえて抗論し、「部分的真実」を積み重ねても「全き真実」に到達できる、新しいフィールドワークの対象はいくらでもある(開発、宗教運動など)と考えて新しい民族誌を目指します。その際のキイワードは「インターフェース」。従来の研究が一つの民族・文化のなかで閉じていたのが、文化と文化の「間」、その影響関係に注目するのです。そこから新しい魅力的なフィールドが生まれ、新しい民族誌が誕生します。「元気が出る民族誌」の実践です。


カルチュラル・インターフェースの人類学 目次

カルチュラル・インターフェースの人類学 おわりに

ためし読み
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カルチュラル・インターフェースの人類学─目次

はじめに ― 文化の構築とインターフェースの再帰性 前川啓治

 T部 「読み換え」から「書き換え」への実践T ― エリートの表象を超えて
1章 ニューギニア高地における白人性の獲得
    ― 脱植民地期におけるキリスト教の実践 深川宏樹
2章 文化接合としてのミメシス
    ― ソロモン諸島の宗教運動にみる正統性の希求 石森大知
3章 一義化と両義性から考える仏教徒たちの歴史と視点
    ― 現代インドにおける改宗運動とマルバット供犠 根本 達

 U部 「読み換え」から「書き換え」への実践U ― 民族カテゴリーを超えて
4章 カテゴリーの成員性
   ―「外国人」と名づけられた生徒たちの名乗り 井上央子
5章 アイヌ民族と共生/連帯する人びと 関口由彦

 V部 「読み換え」/「書き換え」の実践へ ― 開発の枠組みを横断する
6章 援助機関文化と人類学のインターフェース
    ― ある開発援助事業から人類学のあり方を考える 真崎克彦
7章 「まちづくり」的感性のつくられ方
               ― 地域ブランド商品の開発プロジェクトを事例として 早川 公

 W部  展開 ―「情報」としての文化へ
8章 民俗儀礼の示標性と文化変容
   ― 白鳥地区古式祭礼をめぐって 松田俊介
9章 薬剤と顕微鏡
   ― ガーナ南部における疾病概念とモノの布置 浜田明範
10章 食肉産業にみる商品の感覚価値
    ― 沖縄における豚肉の均質化と差異化 比嘉理麻
11章 文化接触の場としての労働空間
    ― 在トンガ王国日系企業の事例から 北原卓也
 おわりに
 引用文献
 索  引
 装幀 ― 虎尾 隆







カルチュラル・インターフェースの人類学 おわりに

 自省することは人類学者の重要な能力の一つであるが、オリエンタリズム批判以降の人類学の一部は、問いを民族誌における表象の問題に矮小化してきた。その結果が、民族誌の書き方という特定化した問題になってしまった。「ライティング・カルチャー・ショック」というものは、あくまで民族誌の表象という限定された範囲における根本的な見直しではあるが、それはフィールドから理論に至るまでの人類学の実践の一部にすぎない。(メタレベルからの批評としてではなく、)フィールドワークの実践においてこそ、われわれは自省しなければならないのではないか。

 人類学者が一般的に嫌うのは、超越的な視点である。なぜなら、権威や権力がその背景に付随してくるからである。超越的な立場からの批評ではなく、葛藤を含む現実のインターフェースの絡み合いのなかで、超越論的な取り組みによって、つまり同時に内と外に位置するところから、同時に他者構築と自己構築を行なってゆくことこそが、人類学者の原実践である。

 人類学の成果は百花繚乱という様相を呈している。まさにポスト・モダンといわれる知の状況に呼応して、人類学は多様になってきている。人類学がなんでもありの学問になってゆくのか、人類学のスピリットとでもいうべきものを維持し、そのなかから発展的に対象を拡げ、対象を深め、時代状況に応じた展開を目指してゆくのか、まさにその岐路に立っていると編者には思われる。本書の各章で展開された諸論は、いずれも現代の人類学の主要なテーマを取り扱っており、今後のアプローチの方向を示すものである。

 この本を編集するきっかけとなったセミナーの開催を編者に勧め、香港大学においてその企画を立ててくださったのは、日本でも『友情と私利 ― 香港一日系スーパーの人類学的研究』や日本のサブカルチャーについての編著で著名な香港大学の現代言語・文化学部( School of Modern Languages and Cultures)の長であった王向華(Wong Heung-uah)博士である。日本の人類学の方向性がわかる若手研究者の新たな研究の成果を提示し、議論してほしいという趣旨であった。日本を離れ、香港という Cultural Traffic and Interface の場で、参加者全員が中身の濃い三日間を過ごし、建設的でフレンドリーな時間を共有することができた。王氏と、香港大学の客員であった社会学者の中村則弘氏、台湾国立交通大学の藩英海(Pan Ing Hai)氏には適宜、明瞭で、また時に迫力のあるコメントをいただき、参加者の知的刺激になったことは疑いない。このような理想的な研究発表の機会を与えていただいた王氏および香港大学のスタッフのみなさんに、この場を借りて感謝の意を表したい。また、日程の都合でセミナーに参加できなかった石森大知氏には、セミナーの議論の内容をお伝えし、寄稿していただいた。V部でとくに取り上げているが、開発の理論と実践に新たな方向性を示す論考をすでに提示されている真崎克彦氏には、「はじめに」を読んでいただいて寄稿をお願いしたところ、快諾していただけた。

  二〇一二年七月二〇日
前川啓治