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坂野 登 著

二つのこころと一つの世界
――心理学と脳科学の新たな視角


四六判上製240頁

定価:本体2800円+税

発売日 12.09.09

978-4-7885-1299-3

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◆こころの世界を眺める新たなパラダイム◆

愛するこころと憎むこころ、喜ぶこころと悲しむこころ、女心と男心……などなど、相対立し矛盾する二つのこころから成り立っているように見える、私たち人間のこころ。心理学はこれまでこういったさまざまなこころの世界の両極を実証的に明らかにしてきましたが、著者はさらに、脳科学と進化論的な適応行動の知見を取り入れた観点により、これらさまざまな二つのこころの様相を統一的にとらえることができるというアイディアを、丹念な実証の中で導きました。これまでとは異なるまったく新しいパラダイムから、新たなこころの世界がみえる一冊です。著者は京都大学名誉教授。


二つのこころと一つの世界 目次

二つのこころと一つの世界 あとがき

ためし読み
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二つのこころと一つの世界─目次

プロローグ

第一章 こころは二つという考えのはじまり

    哲学上の論争 7  心理学上の論争
    問題解決へのヒントは実証によって   まとめ
第二章 性格の類型にみる二つのこころ

    こころのあり方の分類法としての性格類型論
    性格類型論の発展とその問題点
    モーズレイ性格検査にみる特性の測定の問題点   まとめ
第三章 脳モデルにみる二つのこころ

    エネルギーのシステム   入力と総合のシステム
    計画と出力のシステム   脳モデルの二つのこころ   まとめ
第四章 情動と認知を左右する二つの脳

    作話・錯読をする右半球   情動の右半球モデル
    情動のバレンス仮説   情動の接近−離脱モデル
    怒り=左前頭葉仮説   認知と情動の力動的関係について
    まとめ
第五章 知能研究にみる二つのこころ

    その歴史   二つの知能診断テストを通して
    診断テストのなかでの流動性知能と結晶性知能の位置づけ
    K−ABCおよびDN−CASの脳モデルの問題点
    流動性知能と計画性   まとめ
第六章 認知の方略にみる二つのこころ

    同じ問題でも違った解答方法があるようにみえる
    熟慮型−衝動型と場独立型−場依存型   埋没図形テストを用いた調査
    積木模様テストを用いた調査   まとめ
第七章 しぐさでわかる二つのこころ

    指組みと腕組みが測るもの   指組み腕組みで測る二つのこころ
    腕組みは前頭葉のはたらきと関係する   腕組みと創造性   まとめ
第八章 実験で作り出す二つのこころ

    ここで何を問題にしようとするのか   それぞれの半球を分けて活性化させる
    口でいうことと動作で示すことの違い   事象関連電位による検証
    まとめ
第九章 女のこころと男のこころ

    認知スタイルの男女差の調査 155  認知スタイルの調査からわかったこと
    バロン=コーエンのシステム化指数と共感指数の男女差   二つの研究の比較
    男女差についての諸研究のまとめ   まとめ

第一〇章 マインドリーディングとブレインリーディング

     こころの理論 173  脳のはたらきからみたこころの理論
     自閉症にみられる脳のあいだの結合とこころの理論   まとめ

エピローグ こころの統一をめざして


あとがき 


文献と注 (8)
事項索引 (4)
人名索引 (2)
付録 脳各部位の名称 (1)


■装幀 虎尾 隆 






二つのこころと一つの世界 あとがき

 この本はいろいろなことがきっかけとなって生まれた。そのきっかけの第一は、昨年、日本心理学会編集『心理学ワールド』の巻頭言を書くように求められて考えたことからであった。そこで私がいちばん問題にしたかったことは、いま心理学にいちばん求められているものは何かということである。この問いに対する答えはさまざまあるだろう。しかしあれこれ考えた末の私の結論は、心理学ではいま、パラダイムのシフトが求められているのではないかということであった。それは、「知と情の統一的理解」を可能にするパラダイムシフトであると考えた。このようなアイディアを考えるうえで大いに参考になったのは、ヒトを含めた脊椎動物の左右の身体が、環境に対する対処の仕方で示す違った役割をもっているという、マクネーレージらが提起したアイディアとその証拠であった。私がそこから導き出したのは、身を守るか攻めるかという緊急的な対処行動のなかから知と情が誕生したという考えである。

 第二のきっかけは、『応用心理学研究』の総説論文、「応用心理学研究の課題と展望」を執筆するなかで考えたことである。心理学のさまざまな領域での研究方法を振り返るなかで、これまで対立的にとらえられてきた研究法というものは、実はこころのあらわれ方の違いがそこで問題になるのであって、違いを統一的にとらえる方法があるはずだといった確信をもつようになってきたのである。この確信は、左右の大脳半球のはたらきの違いをもとにして、認知の型を考えようとする長年の私の研究テーマとその成果から強化されたものである。認知の型つまり利き脳が二つあるとしても、それは大脳半球のはたらきを反映したこころのはたらきの違った側面のあらわれであって、そのもととなる世界は一つであるという考えである。

 このような考えは『教育心理学年報』の展望論文、「脳とこころ」を執筆するなかでさらに確かめられていった。こころのはたらきの基本的な形は、脳のはたらきのなかにあらわれてくるが、その具体的なすがたを、「こころの理論」の脳科学的な基礎を見ようとする研究のなかにこの論文では求めたわけである。こころの理論をもつということが、なぜ右半球と関連づけられることが多いのか、また脳内部での結合性の問題がなぜ自閉症と関係づけられて議論されているのかを取り上げて議論した。さらに、マクネーレージらによる緊急反応と慣例行動、あるいはゴールドバーグの新奇性と慣例のシステムという考えを紹介し、進化という観点から人のこころのあり方について考えていく必要性をまとめとして述べておいた。これらの考えは本書のエピローグに、もう一度まとめ直した形で再現されている。

 この本を書くうえで重要なものは、この本の肉付けとなる具体的な内容に関する事柄である。性格の類型に関する章や知能研究に関する章の内容は、大学での講義の準備のなかから生まれてきた。学生や院生のためにわかりやすい、また自分で納得のいく授業をやろうと準備していくなかから出てきた疑問を、追究する過程で生み出された問題であった。特にモーズレイ性格検査の問題点、あるいはWISCとK−ABCの共通点と違いについては、テストを実際に実施し、結果をまとめていくなかから出てきた疑問から出発したものである。認知と感情の関係、そしてこころの理論についての関心と深まりも、授業やゼミのなかから出てきた事柄が多い。また私が長年行ってきた利き脳に関する研究を、この本がめざしている新しい視点のもとに組み込むことができたように思っている。

 このようなきっかけや積み重ねを契機にこの本の執筆は始まったわけだが、書いているうちに次から次へと疑問が出てきて、インターネットを通して、特に外国の文献に数多く当たることとなった。この本に出てくる文献はこのようにして得ることができたものが大部分である。また私が昔からもっていた古い外国の専門書も、今回初めてその内容を紹介することを通してやっと日の目を見ることができた。

 このようなわけでこの本も日の目を見ることとなったわけだが、その内容が果たして私が意図したとおりのものだったかについては、皆さんのご批判を待ちたいと思っている。  最後になったが新曜社第一編集部の森光佑有氏には原稿を精査していただくなど大変お世話になった。この場を借りてお礼を申しあげたい。

二〇一二年 八月     
坂野 登