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春木良且

ソーシャルグラフの基礎知識
――繋がりが生み出す新たな価値


A5判176頁

定価:本体1800円+税

発売日 12.07.25

ISBN 978-4-7885-1298-6






◆ソーシャルメディア理解の鍵◆

Facebook開発の発端は、ザッカーバーグが、同じ学校の女子生徒の顔写真とプロフィールが欲しいと思ったことだそうです。男子生徒なら誰でも考えそうなことですが、今や9億人以上がユーザーとなりました。他にも MixiやTwitterが人気を集めていますが、これらはソーシャルメディアといわれます。どれも、ネット上の人々の繋がりに関わっているからです。ソーシャルグラフは、こういう繋がりのネットワークを表現したものをいいます。ソーシャルメディアというのは、ひとくちで言えば、様々な形でソーシャルグラフを作ったり、使ったり、分類・整理したりするシステムにすぎません。本書は、ソーシャルメディア理解の鍵であるソーシャルグラフの実態、機能、抽出、応用について、基礎概念から理論までを分かりやすく解説した入門書です。著者は、フェリス女学院大学教授。


ソーシャルグラフの基礎知識 目次

ソーシャルグラフの基礎知識 はじめに

ためし読み
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ソーシャルグラフの基礎知識―目次

目  次


はじめに

1章 ソーシャルグラフとは何か
1. ソーシャルメディアとコミュニティ
1.1. ソーシャルメディアとは
1.2. コミュニティの特徴と実態
1.3. コミュニティの支援機能
2. モデルとしてのグラフ
2.1. オイラーとケーニヒスベルグの橋
2.2. 人のグラフとその特徴

2章 ソーシャルグラフの機能
1. ソーシャルグラフの背景と問題意識
1.1. ソーシャルメディアとコールドスタート問題
1.2. モジュールとしてのソーシャルグラフ
1.3. ソーシャルグラフとマッシュアップ技術
2. ソーシャルグラフで明らかになる関係性
2.1. ネットワークの外部性と収穫逓増
2.2. ソーシャルグラフと繋がりの特徴
2.3. ネットワークの中心
2.4. ソーシャルグラフはスモールワールド
2.5. べき分布とロングテール現象
2.6. 弱い紐帯の強さ

3章 ソーシャルグラフはどう作られるか
1. ソーシャルグラフの実態
1.1. ソーシャルネット中のソーシャルグラフ
1.2. 属性によるソーシャルグラフの構築
1.3. ソーシャルグラフの特徴
2. ソーシャルプロフィールの取得とグラフの構築
2.1. グラフAPIと仕様争い
2.2. ソーシャルプロフィールの分析による関係の抽出

4章 ソーシャルグラフはどう使われるのか
1. 繋がりの解明
1.1. リスニング型ソーシャルリサーチの可能性
1.2. インフルエンサーは誰か
2. 繋がりが生み出す新たな価値
2.1. 検索システムとしてのレコメンダシステム
2.2. Eコマースでのソーシャルグラフ
3. ソーシャルグラフ上の集合知
3.1. Wikipediaに見る情報のフィルタリング
3.2. ソーシャルなデマと欠陥情報の修正
3.3. 集合知による問題解決
3.4. 群衆の知恵としてのソーシャルグラフ
4. ソーシャル・ディジタルセルフと自己分析
4.1. ディジタルセルフ研究の経緯
4.2. ディジタルセルフの整理と分析

5章 まとめ ― 個人情報とソーシャルメディア



おわりに 155
文  献 159
索  引 163


装幀=虎尾隆


ソーシャルグラフの基礎知識 はじめに

 おそらく本書の読者は,Facebookのトップページ(http://www.facebook.com/)を見たことがあると思う.そこには,図0-1に示すような点と線で結ばれた不思議な画が描かれている.おそらくこの意味することは想像がつくとは思うが,それが本書のテーマである.

 ITの世界で,ここ数年の最も重要なトレンドは,言うまでもなくソーシャルメディアだろう.数年前にはmixiが話題になったし,最近では,TwitterやFacebookが,ビジネスの世界のみならず,世界レベルで,政治,社会など様々な領域をも巻き込んで大きな話題になってきている.さらに,端末としてスマートフォンやタブレット型PCの普及が,その傾向に拍車を掛けているという点も見逃せないだろう.しかし,ソーシャルメディアとは何かと言えば,想定するシステムによって,その定義は異なってしまう.FacebookやTwitter,mixiなど,ソーシャルメディアの範疇に入るシステムは様々存在するが,ユーザから見た機能としては,それらに何か共通する機能があるとは思い難いのではないだろうか.

 技術的に見た場合,ソーシャルメディアはWebアプリケーションのひとつでしかなく,特に先端的な技術が用いられているといった類のものではない.それぞれのシステムでは,様々な工夫が施されて仕様が作られてはいるが,主にサーバ側で稼動し,クライアント側とはHTTPという通常のWebと同様のプロトコルでやり取りしながら,ブラウザ上で利用することが可能なシステムであり,他のWebアプリケーションと比べて,より多くのユーザが情報の編集に関与する点を除けば,顕著な特徴はない.そのため,例えばFacebookやTwitterの入門書を読んだり,実際に使ったりしたとしても,ソーシャルメディアそのものは理解できないかもしれない.

 そもそも,ソーシャルメディアの本質はどこにあるのだろうか.なぜ,ソーシャルメディアが注目されているのだろう.端的に言えば,それは本書のタイトルにも含まれる「ソーシャルグラフ(Social Graph)」にある.ソーシャルメディアとは,そのソーシャルグラフを扱うシステムの総称である.そのように定義しなければ,ソーシャルメディアの特性やその本質はわからないとすら断言できる.mixiもTwitterもFacebookもその他のソーシャルメディアも,具体的な関わり方は異なるが,ソーシャルグラフを作り上げたり,使ったり,分類,整理したりするなど,様々な形でソーシャルグラフを用いるシステムである.ソーシャルグラフの観点から見てみると,今市場にあるソーシャルメディアの位置づけが整理され,さらに必要なもの,今後出てくるであろうものが見えてくる.何よりも,それぞれのシステムの本質的な機能や,その応用可能性が理解できるはずである.極論すれば,個々のシステムの仕様にいくら詳しくなったとしても,ソーシャルメディアの本質的な理解はできないとも言えるだろう.

 では「ソーシャルグラフ」とは,一体何だろうか.これが本書のテーマだが,一般には「ネット上の人々の繋がりを表現したもの」を意味するものと捉えられている.しかし,誰かと誰かがネット上で繋がりを持っているということを明らかにしても,得るものはあまりない.せいぜい,個人的な好奇心が満たされる程度かもしれない.

 ポイントは,その繋がり関係を成立させている理由にある.人間同士に関係がある場合,そこには必ず何らかの理由がある.それこそ偶然知り合ったとしても,偶然を生み出した理由や,関係が継続する理由が存在するはずである.端的に言えば,ソーシャルグラフは,人々がなぜ関係を持っているのか,どういう関係なのか,その人間の関係を成立させている理由や内容に基づき,繋がりを抽象化したものである.統計学の用語を使えば,「有意性(Significance)」のある関係が記述されたものであり,ソーシャルグラフの応用可能性は,それによって生まれてくる.つまり,ソーシャルグラフとは「ネット上の人々の有意味な繋がりを抽象化して記述,蓄積したグラフ」と定義される.ここで言うグラフとは,棒グラフ,線グラフなどのグラフではなく,数学者オイラーによる「グラフ理論(Graph Theory)」に基づいた,ネットワークを抽象化したモデルを意味する.本書では,そのソーシャルグラフの実態,ソーシャルグラフの機能,ソーシャルグラフの抽出,そしてソーシャルグラフの応用について述べることにする.

 なお,一般的には個々のシステムをソーシャルネットワーキングサービス(SNS)と呼ぶが,本書では特定のシステムを扱わないので,ソーシャルグラフを扱うシステムの総称として,ソーシャルメディアという用語を使う.情報メディアには,マスメディア,パーソナルメディアといった区分があるが,ソーシャルメディアは,それらと並んで称されるものではない.関わる人々のコミュニケーションが集約されて,結果的にメディア化しているというのがその実態と言えるだろう.

春木良且