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橋本典久 著

苦情社会の騒音トラブル学
――解決のための処方箋、騒音対策から煩音対応まで


A5判368頁

定価:本体3800円+税

発売日 12.05.25

ISBN 978-4-7885-1292-4

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◆騒音問題は、技術だけでは解決しない!◆

なぜ人は、ほんの些細な騒音でも気になるのでしょうか。なぜ、うるさい地下鉄の車内では平気で眠れるのに、隣の犬の鳴き声で目が覚めてしまうのでしょうか。なぜ、たかが騒音で傷害事件や殺人事件までが起きるのでしょうか。これまでの騒音研究は、これらの疑問に答える努力を全くしてきませんでした。飛行機の音は何デシベル、工場の騒音は何ヘルツといった工学的な研究は進められてきましたが、「騒音によるトラブルをなくす」という観点からの総合的な研究が全く行われてこなかったのです。本書は、これまで数多くの騒音トラブルの相談にのってきた騒音トラブル学の第一人者による、解決のために理解しておかなければならないあらゆることを網羅した、騒音トラブルの総合解説書です。


苦情社会の騒音トラブル学 目次

苦情社会の騒音トラブル学 まえがき

ためし読み

◆書評

2013年4月5日、Amenity

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苦情社会の騒音トラブル学─目次



まえがき

第1章 騒音トラブル学概論
     1 騒音トラブル学とは
     2 騒音トラブル学から見たピアノ殺人事件
     3 騒音トラブルの概況

第2章 騒音トラブルの音響工学
     1 音の基礎物理と聴覚
     2 騒音の測定・分析と表示
     3 壁の遮音性能
     4 床衝撃音性能
     5 固体音問題
     6 品確法と性能表示
     7 音響空間の計画と騒音対策
     8 音響工学の特殊技術
     9 各種の公害騒音問題
     10 騒音トラブルに関連する各種騒音

第3章 騒音トラブルの心理学
     1 騒音はなぜうるさいか
     2 騒音事件発生の心理メカニズム
     3 騒音苦情反応と騒音事件
     4 騒音の心理、生理的影響
     5 騒音と煩音
     6 被害者意識と勝ち負け意識行動
     7 騒音苦情の東西比較論

第4章 騒音トラブルの社会学 
     1 近隣騒音苦情の現状と分析
     2 近隣騒音訴訟の現状と分析
     3 近隣騒音事件の現状と分析
     4 騒音の規制・基準と関連法

第5章 騒音トラブルの歴史学 
     1 日本での騒音意識の歴史
     2 日本の騒音問題の歴史
     3 建築における騒音問題の歴史

第6章 騒音トラブルの解決学 
     1 解決のための人間関係論
     2 解決のための社会制度論
     3 解決のための社会論

参考文献
索  引

                         装釘=臼井新太郎
                         装画=立花  満






苦情社会の騒音トラブル学 はじめに



 なぜ人は、ほんの些細な騒音でも気になるのでしょうか。なぜ人は、聞きたくもない騒音が流れてくると、逆にそれを一生懸命聞いてしまうのでしょうか。うるさい地下鉄の車内でも平気で眠れるのに、隣の犬の鳴き声で目が覚めてしまうのはなぜでしょうか。自分の下手なカラオケはうるさくないのに、なぜ他人のカラオケはあんなにうるさいのでしょうか。音に配慮したマンションを買ったはずなのに、なぜ上階からこんなにうるさく音が響くのでしょうか。昔は気にならなかった幼稚園の子供の声が、なぜ最近はうるさく感じるのでしょうか。なぜ、たかが騒音で傷害事件や殺人事件までが起きるのでしょうか。

 これまでの騒音研究は、これらの疑問に答える努力を全くしてきませんでした。飛行機の音は何デシベル、工場の騒音は何ヘルツといった工学的な研究は精力的に進められてきましたが、騒音研究の最終目標である「騒音によるトラブルをなくす」という観点からの総合的な研究は全く行われてきませんでした。その結果、巷に騒音トラブルや騒音事件が頻発する現在の状況を迎えているといっても過言ではありません。>

 騒音問題というのは半心半技だと思っています。半信半疑の誤字ではありません。心は心理、技は技術を表します。すなわち、騒音問題は心の問題が半分、技術的な問題が半分ということです。これまではこの半分しか扱ってこなかった訳ですから、問題の解決が図られなかったのは理の当然といえます。

 音とは圧力の波が空気中を伝わる単なる物理現象ですが、騒音は、物理的な問題だけでは済まされない極めて繊細で多面的な要素を内包しています。それゆえ騒音は実に厄介な存在です。人間が賢明で自制的な動物なら騒音など苦もなく制御できそうですが、実際には騒音の陥穽にまんまと嵌まり、様々なトラブルの当事者に仕立て上げられるのです。そのトラブルは胸を焼くように辛く苦しく、その先に生活の破壊と人生の喪失が待っていることもあります。トラブルは、自制心のない粗暴な人だけの問題と考えないでください。筆者の所に相談を寄せてこられる方は、相手への敵意という点を除けば、みんな理性的で理知的です。日々の暮らしの中で身の回りに騒音が横溢する現代社会、誰もがトラブルの当事者になる危険性を孕んでいるのです。

 もう一つ厄介な事柄があります。それは、騒音に対する日本人の感性が明らかに変質してきていることです。端的な例が、学校や幼稚園、公園などの子どもの声に対する反応です。今までは地域の音として容認されてきたものが苦情対象に変化し、一部では訴訟にまで発展しているのです。それだけではありません。夏の蝉の鳴き声や田んぼの蛙の声まで、「うるさいから何とかしろ」と市役所に苦情の電話が掛かる世の中です。最近の騒音問題は、半心半技どころか、九心一技と言ってもよいかもしれません。これはもはや騒音問題と呼べるものではなく、そこで事の本質をより明確にするために筆者は「煩音」という言葉を使ってきました。このような区別をしないと、トラブルへの対応を間違ってしまうからです。

 私たちの生活の中で最も身近な問題である騒音については、騒音を出している人と聞かされている人の心の問題が深く関係します。それを置き去りにしては、根本的な解決はないといってもよいと思います。本書は、その心と技術の両面から騒音を捉え直そうという試みの本です。技術はもちろん大事であり、この知識が不足していたために大きな不利益を蒙った人が沢山います。大変な労力と時間と費用をかけて行った騒音の測定結果が、基本的な条件を満足していないために裁判で全く採用されないという事も出てきています。このような事をなくすためには、多少専門的でも技術に関して基本的なことを理解しておく必要があります。しかし、トラブルを解決するためには、それ以上に心の問題の基本的なことを理解しておくことが必要です。技術だけに頼っていては、騒音トラブルは解決しないのです。

 これまで日本全国から寄せられる数多くの騒音トラブルの相談にのってきましたが、何れの場合も状況は深刻で悲惨なものです。しかし、その様態自体は様々です。これら個々の悲痛な叫び声に応えられるよう、本書では、騒音トラブルを解決するために理解しておかなければならないあらゆることを網羅しました。いわば騒音トラブルの総合解説書です。騒音トラブルに対処するための技術的問題、騒音トラブルが発生、増加する社会環境の問題、そして騒音問題を騒音トラブルに変える人間心理の問題などです。これら全てが複雑に絡み合った対人症候群が騒音トラブルです。本書を処方箋として、これらのトラブル解決にあたっていただければ十分に効用があると思っていますが、それだけではなく、本書が、騒音トラブルを通して人間や社会を見つめ直すための一つの機会になれば、これは筆者にとって幸甚の至りだと思っています。