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目黒依子・矢澤澄子・岡本英雄 編

揺らぐ男性のジェンダー意識
――仕事・家族・介護


A5版250頁

定価:本体3500円+税

発売日 12.07.15

ISBN 978-4-7885-1289-4

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◆男性意識のゆくえ◆

雇用不安が進むなかで男性たちの意識はどのように変わっているのでしょうか。本書は東京在住、20~40代の男性1500人を調査し、仕事、家族、ジェンダー、介護意識を探りました。職業、年収、正規・非正規、既婚・未婚によって意識が多元化し、「男は仕事、女は家庭」のジェンダー分業派が減り、稼ぎ手として子育てと介護も担い、妻の収入も期待するワークライフバランス派が目立つなど、興味深い意識の変化が見られます。著者は江原由美子首都大学東京教授、山田昌弘中央大学教授など、この分野の第一人者揃い。


揺らぐ男性のジェンダー意識 目次

揺らぐ男性のジェンダー意識 あとがき

ためし読み
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揺らぐ男性のジェンダー意識─目次


らぐ男性のジェンダー意識/目 次
――仕事・家族・介護――


編者まえがき
 調査の概要/統計手法の解説


Ⅰ 雇用不安と男性性の変容

第1章
雇用不安の背景岡本英雄 
 1 問題の設定
 2 雇用不安の理由
 3 キャリアの不安定化
 4 本調査に見る都市男性の就業・雇用・収入


第2章
社会変動と男性性江原由美子
 1 社会変動とジェンダー
 2 「場の相違」による「男性性の複数性」
 3 フェミニズムとのかかわりで見た「男性性の複数性」
 4 「稼ぎ手役割」の喪失と男性性


Ⅱ 男性意識の諸相

第3章
男性のジェンダー意識とパートナー関係山田昌弘 
 1 ジェンダーと規範意識
 2 ジェンダー意識とパートナー関係――二つの仮説
 3 男性のジェンダー意識とパートナー関係の相関関係
 4 考 察

第4章
男性のジェンダー意識とリプロダクティブ・ライツ
目黒依子 
 1 本論の目的
 2 リプロダクティブ・ライツ――問題と背景
 3 少産世代男性のジェンダー意識――リプロダクティブ・ライツとの関連
 4 リプロダクティブ・ライツへの態度
 5 まとめ


第5章
変容する男性の子ども観――子どもをもつことの意味
渡辺秀樹 
 1 子どもの価値の変化
 2 多元的な子ども観――〈家の子ども〉から〈機会費用としての子ども〉へ
 3 都市男性の子ども観――本調査の結果
 4 男性の職業と子ども観


第6章
「仕事と育児」バランスをめぐる男性意識舩橋惠子 
 ――どのようにパートナーと分かち合おうとしているか
 1 はじめに
 2 男性にとっての育児
 3 「仕事と育児」の夫婦間バランスに関する男性意識の5類型
 4 5類型の基本的特徴
 5 5類型の背景要因
 6 国際比較に見る5類型


第7章
男性のジェンダー意識と介護意識直井道子 
 1 問題と分析枠組み
 2 3つの介護意識はどう違うか
 3 5つのジェンダー意識
 4 ジェンダー意識と介護
 5 社会的属性と介護意識
 6 共働きと介護意識
 7 結論と考察

Ⅲ 揺らぐ男性の稼ぎ手役割意識

第8章
雇用不安定化のなかの男性の稼ぎ手役割意識大槻奈巳 
 1 雇用不安定化と稼ぎ手役割
 2 先行研究をめぐって
 3 雇用の不安定化,転職・離職経験と男性意識
 4 社会的成功志向と男性の稼ぎ手役割意識
 5 男性の稼ぎ手役割意識に何が影響を与えているか――複数の要因の検討
 6 考 察


第9章
夫たちの「夫婦関係に関する意識」島 直子 154
 ――妻の就労と夫の経済力が及ぼす影響
 1 はじめに
 2 先行研究の検討――男性の性別役割分業意識に影響を及ぼす要因
 3 分析方法と分析結果
 4 考察と今後の課題――夫たちの「夫婦関係に関する意識」に影響を及ぼす要因


第10章
男性の家族扶養意識とジェンダー秩序矢澤澄子 167
 1 「男性稼ぎ主モデル」と家族扶養意識
 2 先行調査の結果――女性/男性の自立と家族扶養意識
 3 男性の家族扶養意識の揺らぎ
 4 男性の家族扶養意識とジェンダー・アイデンティティ
 5 「女性の家族扶養役割」を重視する男性のジェンダー意識・ケア意識
 6 「男性=稼ぎ手」役割を重視しない男性のジェンダー意識・ケア意識
 7 「男性稼ぎ主モデル」の揺らぎとジェンダー秩序のゆくえ

付録 調査票と単純集計――都市男性の生活と意識に関する調査193

装幀 谷崎文子








揺らぐ男性のジェンダー意識 まえがき

私たち「ジェンダー社会学研究会」は1995年に女性のジェンダー意識についての調査研究を行い,その成果を目黒・矢澤編著『少子化時代のジェンダーと母親意識』(新曜社,2000)にまとめたが,そのさいの分析概念として,子どもの有無や就業状況,未既婚を問わず「母親になること」「母親であること」を含む「母親意識」を用いた。正規雇用,非正規雇用(臨時やパート,契約など)のいずれでも,また男性に比べて低い報酬であっても,働く女性や共働きカップルが増加するなかで「母親意識」は日本の女性のジェンダー意識の中核をなすといえること,そして,社会環境の変化に伴い「母親意識」の内容は変化しつつも,その中核性・重要性は継続していると判断することができた。つまり,女性のジェンダー意識と母親という意識には一貫性があるということである。

この結果から,私たちは男性のジェンダー意識とその変化についても,女性との比較という観点から父親意識に注目し,合わせて子ども・パートナー・親へのケア意識と,従来の制度的な一家のあるじ,世帯主としての職業意識のバランスが変化しているのではないかと想定した。

日本において年功序列・終身雇用制などで男性の職業キャリア・パターンが安定していた時代には,女性のジェンダー意識が変化しても,男性は働いて家族を養うという「稼ぎ手・養い手」役割には変化がなく,男性は生産活動の主役であるというジェンダー文化や構造=ジェンダー秩序は維持され続けた。日本的経営の成功によって男性の職業キャリア・パターンの安定が続く限り,日本社会の強固なジェンダー役割や意識は,男女を問わず個人レベルでも根強く存在していたように思われる。しかし,成果主義の導入によって男性の職場ストレスが増大し,男性のキャリア・パターンの安定が崩れ始め,ホームレスやフリーター,ニートといった現象に象徴されるような雇用の不安定化が現実味を増すと,男性たちの中には自分たちのジェンダー役割を柔軟にとらえる兆しが現れてきたのではないだろうか。

そこで私たちはこうした傾向がジェンダー秩序の流動化に与える影響を実証するために,男性のジェンダー意識についての調査を実施することにした。特に,男性の職業意識の揺らぎと家庭・子どもについての考え方や子ども・パートナー・親へのケア意識,男性にとっての生殖,結婚観・女性観などを探り,男性のジェンダー意識の変化と連続性への接近を試みた。 本調査から浮かび上がってきた男性のジェンダー意識の傾向のエッセンスとしては,男性の職業キャリア・パターンの不安定化は男性の雇用不安につながり,パートナーにも収入を期待する(女性にも稼いで欲しい)という意識を強める一方で,男性にとって家族を養うこと・扶養者であることは代替されない男性性として意識されていることである。

つまり,男性個人のジェンダー・アイデンティティは,世帯における「唯一の稼ぎ手」には必ずしもこだわらないが,扶養者=養い手であることへの執着が強固であるといえるのである。これは「稼ぎ手・養い手」というジェンダー役割規範に含まれる2つの要素がそれぞれ個別の要素として分離してきたことである。これは,子ども・妻・親へのケアに対する肯定的意識とあいまって,家族のトータルな扶養者・責任者でありたい,という「修正された男性性」といえるのではないだろうか。

本調査を実施してから8年を経た現在,日本の雇用不安は増大している。アメリカのサブプライム・ローンに端を発する2008年の金融危機は,日本の経済全体への強い衝撃とともに,人びとの日常生活に急激で厳しい圧迫を加え,非正規のみならず正規雇用者にとっても失業問題は他人事ではなくなってきた。この危機的状況は1929年の世界大恐慌に匹敵するとの見方もある。

アメリカの大恐慌時代の家族においては,妻・母親は生活を支えるために就業を余儀なくされ,稼ぎ手役割が妻や息子に代替されることによって夫婦・親子の役割関係に混乱や葛藤が生じた(Komarovsky, 1940; Elder, 1974)。それにもかかわらず,当時の福祉・児童支援の法制度には夫・父親が一家の稼ぎ手であるという理念が映し出されていたのである。したがって,この時代のアメリカにおける夫婦の稼ぎ手役割転換はジェンダー役割の再編につながらなかった。だが,1960年代以降の産業構造の変化を経て雇用される女性が急激に増加した結果,共働き家族が多数派となり,夫のみが稼ぎ手である家族が少数派となった。このことにより,夫が自動的に世帯主となる近代家族モデルは1980年までには統計上消滅したとされた(Bernard, 1983a; 1983b)。夫=稼ぎ手という家族モデルがこのような現実に適合しなくなったということである。男性の「家族扶養役割」の心理的側面に注目したバーナードは,多くの男性たちが男性=養い手として「成功」するために働きバチとなる一方で,そのような「成功」を否定した男性たちが家族を棄てる傾向も見られるなど,この時代に男性の役割葛藤が少なくなかったと指摘している(ibid.)。

本書で描き出した日本男性のジェンダー意識は,雇用不安の深刻化が進むことにより,アメリカの経験と類似の役割葛藤を経てジェンダー役割再編という変革を導くことになるのだろうか。私たちの調査研究の成果と限界を踏まえ,多様な角度から,今後の男性意識研究が発展することを期待したい。

本調査研究は平成15~16年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究「男性のケア意識・職業意識がジェンダー秩序の流動化に与える影響に関する実証的研究」(課題番号15330109 研究代表者目黒依子,メンバーは本書の執筆者と庄司洋子,松信ひろみの12名)の成果である。

編 者 参考文献 Bernard, J., 1983a, “The Good-Provider Role: Its Rise and Fall,” in A. S. & J. H. Skolnick, Family in Transition, 4th edition, Little Brown & Co., 155―175. Bernard, J., 1983b, “Foreword,” in J. Scanzoni(ed.), Shaping Tomorrow’s Family: Theory and Policy for the 21st Century, Sage Publications. Elder, G. H. Jr., 1974, Children of the Great Depression, University of Chicago Press. Komarovsky, M., 1940, The Unemployed Man and His Family, Dryden Press.
編者まえがき