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下川昭夫 編

コミュニティ臨床への招待
──つながりの中での心理臨床


A5判332頁

定価:本体3400円+税

発売日 12.05.22

ISBN 978-4-7885-1288-7






◆「つながりにくい人」とつながるために◆

一昨年には「無縁社会」、そして東日本大震災を経た昨年は「絆」という言葉が社会的に注目されましたが、心理的支援を本当に必要とする人たちは、往々にして専門家の手の届かない、つながりのネットワークの外にいます。また、学校・病院・施設など、各現場ではそれぞれのコミュニティに応じた専門家とのつながりが求められています。つながりを持つためにはどうすればよいのか? 作られたつながりを活かしてどんな支援を展開することができるのか? 本書は実践の積み重ねを通して見えてきたそのプロセスを「コミュニティ臨床」という新しいアプローチとして集約し、豊富な実践例とともに紹介しています。


コミュニティ臨床への招待 目次

コミュニティ臨床への招待 はじめに

ためし読み
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コミュニティ臨床への招待─目次


まえがき 
第1部 コミュニティ臨床の理論

第1章 コミュニティ臨床とは何か  ?
 1 コミュニティの中で途方に暮れる専門家 
 2 コミュニティ臨床とは何か 
●2-1 本書で取り上げるコミュニティとは
●2-2 コミュニティ臨床という考え方
●2-3 コミュニティ心理学の考え方とコミュニティ臨床
●2-4 コミュニティに関する従来の心理臨床の考え方とコミュニティ臨床
●2-5 ソーシャルワークの考え方とコミュニティ臨床 

第2章 つながりとは何だろうか 
 1 つながることの意義 
●1-1 コミュニティ臨床という「地」の重要性 
●1-2 専門的関わり以前にある、様々な関係性の下地としての「つながり」 
 
 2 「つながり」とは何だろうか 
●2-1 「つながり」と治療同盟 
●2-2 つながりにくさとつながりの維持しにくさ―すれ違っていくやりとり 
●2-3 すれ違いを修復する気持ちの持ち出し―相手を何かと気にかける、忖度すること 

第3章 コミュニティ臨床の実践と変化する視点  
 1 コミュニティ臨床の実践概要 
●1-1 コミュニティ臨床の三つのプロセス 
●1-2 人と「接点を持つ」ことと、そのための下地作り 
●1-3 人と「つながりができる」ことと、それまでの右往左往 
●1-4 つながりが作れない・壊れてしまう「すれ違っていくやりとり」 
●1-5 人をつないでいくための下地作り 
●1-6 人を支えるお手伝い―つながり作りのお手伝いと、つながりを使ったお手伝い 
 
 2 コミュニティ臨床における実践の視点 
●2-1 「専門的援助中心の臨床」から「つながりの中での臨床」へ 
●2-2 どこまでのつながりの中で臨床を考えるか?
    ―「組織の中の臨床家」から「地域の中の臨床家」へ 

第4章 つながりの下地作りの実践プロセス  
 1 人とつながるための実践プロセス 
●1-1 地域コミュニティと接点を持つための下地作り 
●1-2 地域コミュニティのメンバーとつながるための右往左往 
●1-3 地域の専門家とつながるための右往左往 
 
 2 人をつないでいくための実践プロセス 
●2-1 学級支援に学生をつないでいくための間接的な下地作り 
●2-2 学級支援のための間接的な下地作り 
●2-3 学級支援のための直接的な下地作り
    ―学生と担任をつないでいくことの難しさ 
●2-4 地域と学校をつないでいくことの難しさ 
●2-5 コーディネーターが機能するか、つながりのネットワークが広がるか 
第5章 人を支えるお手伝いの実践プロセス  
 1 コミュニティにつながりを作るお手伝い 
●1-1 学生による学級支援の実際―子どもとつながり、担任とつながり、双方をつないでいく 
●1-2 専門的援助を中心としたグループワークと、つながり作りを中心としたグループワーク 
●1-3 グループワークとネットワークでつながり作りのお手伝いがどこまでできるか 
 
 2 コミュニティのつながりを使って支援を組み立てるお手伝い 
●2-1 小学校における学生による個別学習支援を通じた子どもとのつながり作り 
●2-2 学校でケースを立ち上げ、関係機関と連携する試み 
●2-3 コーディネーターを中心とし多くの関係者がケースを組み立てる試み 
●2-4 つながりを使った支援を組み立てるのに必要なコーディネータの役割 

 コラム:フォーマル・アプローチと共創アプローチ   第2部 コミュニティ臨床の実践
第6章 心理臨床家によるコミュニティ臨床の実践事例 
 1 《病院・医療》の実践現場から  デイケアにおける心理教育プログラム実施を通した、スタッフとのつながり作り
 介護者とつながりにくい認知症高齢者の心理を読み解くことでつながりを作る試み 
 認知症者の家族介護者が集うセルフヘルプ・グループにおけるつながりの様相 グループ内でのつながり、グループ外とのつながり 
 がん患者会における世話人の役割と専門家の支援のあり方 
 訪問看護における看護師-クライエント-家族間の困難なコミュニケーションをつなげる試み 
 ■コミュニティ臨床の視点から 

 2 《施設・福祉》の実践現場から 

 児童養護施設におけるオープンルーム・アプローチ つながりにくい子どもたちをつなぐための心的援助 
 虐待が生じた家族のつながりを支える 児童養護施設での取り組み 138
 子どもが育つ環境作りのために 児童養護施設における心理職の役割 144
 子どもとつながりを作る視点とは? 今を支えるつながり作り 小学生男児の事例を通して 
 DVにより転居を繰り返す家庭への支援 
 ■コミュニティ臨床の視点から 

 3 《学校・教育》の実践現場から 

 コーディネーターによる、児童と保護者と教師をつないでいくことを通じた特別支援教育 
 生徒の行動化を通して学校にコミュニティが生まれていったプロセス 
 校内資源が支援として機能しやすくなるための働きかけ 
 グループワーク活動で戸惑う体験からみる学生相談活動 
 学生相談の事例紹介 大学生とそれを取り巻くコミュニティとの協働 
 ■コミュニティ臨床の視点から 

 4 《地域》の実践現場から 

 訪問援助で不登校・ひきこもりのクライエントとつながりを作るまでに必要なプロセス 
 学童保育所での「つながり」を作る試み 
 地域における心理臨床家のフリースペース運営 
 ローカルな地域子育て支援活動実践 地域の中で親子を「抱える環境」作りをめざしてきたプロセス 
 地域の中でのネットワーク作りのお手伝い 
 ■コミュニティ臨床の視点から 

 5 コミュニティ臨床の視点から―まとめ 
●5-1 メンバーや当事者とつながる・メンバーや当事者をつないでいく 
●5-2 つながりをもとに当事者を支えるグループを作る・グループに加わる 
●5-3 グループからコミュニティを支えるネットワークを作る・ケースを組み立てる 

 第3部 コミュニティ臨床の展開

第7章 コミュニティにおけるつながれなさとその支援  

 1 はじめに 

 2 研究および実践報告の概観―つながれなさとその支援について
●2-1 心理学における実践および研究の概観 
●2-2 近接領域における実践および研究の概観 
●2-3 学際的な実践および研究の展望 

 3 質的研究法について 
●3-1 解釈と反省 
●3-2 現場の人々との関係性、および自己の位置づけ
●3-3 コミュニティにおける臨床実践と質的研究 
●3-4 アクション・リサーチという手法、そして認識論 

第8章 明らかになった課題―個人臨床が直面する限界の意味  

 1 はじめに 
 
 2 社会的ニーズによる臨床心理士への期待 
 
 3 戸惑いへの直面 
 
 4 構造としての戸惑い 
●4-1 場所―どこで支援を行なうのか 
●4-2 対象―クライエントは誰か 
●4-3 役割―何が課されているのか 
●4-4 方法―どうやってクライエントを理解するのか 
●4-5 時 ―いつ支援するのか 
●4-6 まとめ 
 
 5 内部からみる構造 
●5-1 個人臨床の中に私たちは「すでに」埋まっている 
●5-2 戸惑いを超えて―実は新しい脈絡の中にも私たちは嵌まり込んでいる 
 
 6 漂ゆたえども沈まず―模索なくして実践の進展はない

第9章 コミュニティ臨床の理論2―ローカルな観点から 

 1 臨床心理学の第3の道とローカルな観点 
●1-1 臨床心理学の第3の道 
●1-2 ローカルな観点とは 
●1-3 コミュニティ臨床とローカルな観点 
●1-4 ローカルな臨床心理学におけるコミュニティ臨床の魅力 
●1-5 ここまでのまとめにかえて―自分の臨床心理学の作り方
 
 2 コミュニティ臨床から学ぶローカルな実践の「発想」 
●2-1 実践の中で発想するための「態度や思考」への関心 
●2-2 シンデレラ・モデル―実践過程の非漸進性 
●2-3 実践の不連続性と態度の非一貫性 
●2-4 アクシデントを受け入れ、期待する態度 
●2-5 メトニミー思考―未知の森を歩くように 
●2-6 ローカルな実践の中からの気づきとアイデンティティの問題 
●2-7 コミュニティ臨床の技法 

 3 コミュニティ臨床と実践者としてのアイデンティティ―なっていく過程 
●3-1 なっていく過程として実践を捉えてみる 
●3-2 実践者のアイデンティティの生成過程 
●3-3 臨床心理士として自立すること 
 
 4 おわりに―実践の森の歩き方 


人名索引 
事項索引 
執筆者紹介


装幀=銀山宏子






コミュニティ臨床への招待 はじめに

 初めは簡単にまとめるつもりが気がついてみるとずいぶんと厚い本になってしまいました。本文にも書いたように、「コミュニティ臨床」という言葉は多領域にわたる現場での心理臨床実践をまとめたものです。自分自身に限って言えば、20年前の個人臨床場面での関わりと比べると、ここ10年くらいは「地域臨床」と呼ぶ領域の取り組みで、「これって臨床なの?」といわれるような実践が多かったように思います。この実践のイメージは認知症高齢者研究を行なっていた15年くらい前から漠然と抱いていたものですが、10年前に大学を中心に地域に取り組み出してからあれこれ考えたり、実践したりが始まりました。
地域の中では「セラピスト-クライエント」といった関係性の枠組みはほとんどないので、自他でその関係性を規定していくことが必要になってきます。そこでは「つながり」としか言いようのない一種の信頼関係が唯一のたよりです。この関係性はこちら側に地域でこんなことをしたいという思いと、あちら側にもこんなことができたらというニーズがうまくマッチすることから始まっていきます。そのうえで何をしているのかは本書を読んでいただければわかるのではないかと思います。
こういった地域の中での取り組みはあまりにも学問的でない点から、コミュニティ心理学だというにははばかられ、かといって「これって臨床なの?」と自分自身で思ってしまうほどに従来の心理臨床からはかけ離れているように思えてなりません。しかし周りの学生や心理臨床家にきいてみると同じような体験をしている人も多く、なんだ同じじゃないか、それなら「コミュニティ臨床」ととりあえず名前をつけて少し考えてみようと思ったのが、2009年の秋頃でした。2010年の春頃、運良く新曜社の森光さんに出版の話を持って来ていただき、2年を経てようやく出版にこぎ着けました。
余談ですが、最初の予定では一年後の2011年の春頃に出版の予定でしたが、ちょうどその頃、いまだ記憶に新しい、大きな震災が起こりました。そのために一年遅れたわけではありませんが、そこまでの自分の考え方・取り組み方を見直す機会になりました。またその頃からでしょうか、「絆」「つながり」という言葉がしばしば人口に膾炙されるようになり、2011年という年を表す言葉にもなっていきました。また「無縁社会」という言葉も流行し、NHKでも「無縁死」というショッキングなテーマの番組が組まれたことも記憶に新しいです。これら一連の流れは、以前と比べると人のつながりが希薄になってきたことを社会がだんだんと意識するようになってきたからではないでしょうか。
しかしながら、つながりを作ろうと地域の中に入っていっても、わからないことだらけです。単純にコミュニティの仕組みやメンバーがわからないということから、流れや現実がわからないという複雑なことまで多岐にわたっています。地域の中でいろいろな接点やつながりが増えてくると、当然のことながら様々な情報が入ってきます。これはこういう流れになっていると思っていても、別のところから入ってくる情報から自分の信じている現実がまるっきり変わって見えてくることもしばしばあります。地域の中でいちばんしんどいぞと感じるのはこういうときかもしれません。逆に、地域のいろいろな人とつながりができて、面接などのアプローチではなんとも取り組めなかったケースがなんとかなっているのを見たりすると、うれしくもホッとした気持ちになってきます。
このようなわけで、本書で取り扱っている「コミュニティ臨床」とは、決して完成した概念や確固たる取り組みではありません。むしろ心理臨床実践を行なっているときに気にかかったり、地域とつながってこういう取り組みがあるといいよねといった様々なアイデアを持ち寄って集約した段階にすぎません。そのため本書は、読まれた方が今後、関心を持って取り組まれ、詳しく研究し、プロセスを明らかにし、精緻な概念化を行なっていくためのきっかけなのだと考えています。もしかするとまったくそんな風には取り組めない臨床実践の一部にすぎないものかもしれません。そのため心理臨床の専門家に加えて、これから臨床に取り組んでいこうという学生の方や、コミュニティの中で他領域の専門家などと協働している心理臨床家であったり、むしろ心理臨床家となんとか一緒に働いていかなければならない臨床家以外の方などにも読んでいただければよいなと思っています。
さて本書の内容ですが、第1部では、筆者の考えている「つながりの中での臨床」としてのコミュニティ臨床の概略と、筆者自身が地域の中で取り組んできた経験の一部が書かれています。これらは大学を中心とした取り組みなので、多くの方にはなじみの薄いものではないかと思います。そのため第2部では、コミュニティ臨床による心理臨床実践のイメージの一助として、医療・福祉・教育・地域の実践場面を幅広く取り上げて、その中で実践される様々な心理臨床家に事例をご報告いただき、最後に筆者なりの視点から論じています。
第3部では心理臨床家でもあり研究者でもある方に、「コミュニティ臨床の展開」として、今後研究を進めていくための展望や、実践に関わる構造を考察したお原稿をお寄せいただきました。第7章では第1部でも取り上げた「つながれなさ」について、第8章では「個人臨床が直面する限界」について、第9章では「ローカルな観点」について、それぞれ論じていただいています。本書で「つながり」は心理臨床家がコミュニティの中で支援を作っていく際の土台になるものですが、そこに視点を向けると逆にメンバーとつながれないと感じる場面も多いのではないでしょうか。第7章でも述べられているように、つながれなさについてはすでに様々な報告がなされているのですが、課題の難しさやひろがりのために、まだまだ研究の余地があるようです。
またコミュニティでつながれないと感じる一つの要因として、第8章では個人臨床という文脈に埋め込まれている心理臨床家にとって、地域実践という異なる文脈へと入りつつある際に違和感としての戸惑いがあることが詳しく説明されています。こうした心理臨床家の戸惑いに対し、第9章ではその場所、その土地の中で、クライエントにとって必要なものを柔軟に用意する「ローカルな観点」という考え方が提案され、具体的に示されています。これはまさに専門的援助中心の臨床から視点を変え、当事者に必要な支援を作っていく際に、心理臨床家自身の戸惑いに対してどのように取り組んだらよいのか指針になると思います。
本書ではコミュニティにおける心理臨床家の様々な実践を「コミュニティ臨床」というキーワードでまとめてみたいという筆者の無理なお願いに対し、実践家から研究者まで様々な方から数多くの知見をお寄せいただきました。まずその方々に厚くお礼を申し上げます。また本書にはお名前が登場していませんが、その方々の地域での実践や研究に多様な形で協力・尽力されているコミュニティメンバーの方に感謝申し上げます。最後に「コミュニティ臨床」というわけのわからないテーマで本を作るきっかけを与えていただいたうえに、2年間の間に次々と現れる無理難題を丁寧に解決していただき、無事、出版までこぎ着けていただいた新曜社の森光佑有さん、ありがとうございました。

2012年4月 編者・下川昭夫