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川上清文 高井清子 川上文人 著

ヒトはなぜほほえむのか
――進化と発達にさぐる微笑の起源


四六判176頁

定価:本体1600円+税

発売日 12.04.17

ISBN 978-4-7885-1286-3




◆ほほえむ胎児、笑う動物◆

ヒトは、進化の過程で微笑を獲得した数少ない動物のひとつです。「微笑」と「笑い」をめぐる研究はダーウィンにさかのぼります。以来、表情評定法による研究、チンパンジーの表情とヒトの微笑・笑いとの関係、ネズミなどの哺乳類も笑うのか?など多様な切り口で探究が続けられてきました。最新のデータでは、お腹の中で胎児はほほえみ、生後間もない赤ちゃんも睡眠中に声をだして笑うことがわかっています。著者たちは、こういった自発的微笑、自発的笑いの観察を通して、新たな事実をいくつも明らかにしてきました。微笑研究の歴史を概観しながらその最前線までをわかりやすく紹介、微笑の謎に迫ります。


ヒトはなぜほほえむのか 目次

ヒトはなぜほほえむのか はじめに

ためし読み
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ヒトはなぜほほえむのか─目次


序文 情動発達の研究について(マイケル・ルイス)

第1部 微笑の進化

1 育児書に記述された微笑
2 微笑の定義
3 微笑と笑いの進化
3─1 ダーウィンによる考察
ダーウィンからエクマン、イザードへ
3─2 「顔の動きの記述法」FACS
エクマンとデュシャンヌ微笑
3─3 MAX──基本的情動を表情から特定する方法
3─4 動物の微笑──犬やアシカはほほえんでいる?
3─5 微笑と笑いはどのように進化してきたか
系統発生図
チンパンジーの2つの表情
ファン=ホーフの仮説
2つの表情説・支持者
「笑ってほほえむ」ヒトとチンパンジー
3─6 展望論文
デュシャンヌ笑いと非デュシャンヌ笑い
笑う動物はどこまでか?
言語より先に進化した「笑いと微笑」
ファン=ホーフ説の課題
3─7 笑いと脳
伝染する笑い
微笑と脳の関係
3─8 笑うネズミ
3─9 ニホンザルの微笑
3─10 チンパンジーの自発的微笑
3─11 チンパンジーの社会的微笑
3─12 フェイス・トゥ・フェイス
「対面のコミュニケーションはヒトだけ」説への反証
3─13 微笑と笑いの進化
「しがみつき─抱きしめる」から「見つめ合い─ほほえむ」へ

第2部 微笑の発達

ヒトの微笑と笑い
1 スピッツについて
2 スピッツの観察的実験
スピッツの仮説
3 新生児の観察
ウォルフによるデータ
観察されていた「生後6か月の自発的微笑」
4 『乳児行動の決定要因』より
4─1 アンブローズの研究
4─2 ゲヴィルツの観察
4─3 遺伝論者・フリードマン
4─4 1960年代の微笑研究
5 笑いの発達
スルーフらの「いないいないばあ」研究
6 日本の研究
パイオニア丹羽による観察・実験
島田の描いた「微笑の発達」
高橋の「エネルギー放出」説
7 低出生体重児の自発的微笑
8 初期の展望論文
スルーフの考えた微笑の原因
シェマと微笑
9 顔の図式とルイス
10 現代の微笑研究
10─1 メッシンジャーらの研究1
10─2 メッシンジャーらの研究2
10─3 メッシンジャーらの研究3
10─4 ドンディらの研究
11 現代の微笑発達の展望
11─1 メッシンジャーらの展望
今後の研究課題
三者関係
11─2 ドンディらの展望論文
12 胎児期の微笑
胎児期の脳はどのように発達するか
4次元超音波断層法が明らかにしたこと

第3部 私たちの研究

1 自発的微笑の研究
1─1 胎児期の微笑
1─2 低出生体重児の微笑
お腹の中でもほほえむ赤ちゃん
1─3 新生児・乳児の微笑
初めて記録された「自発的笑い」
1─4 ケース・スタディーズ
Aちゃんの記録
Bちゃんの記録
Cちゃんの記録
データが反証した「誤った知見」
1─5 消えない自発的微笑
2 片頬の微笑
3 私たちが見つけたこと──なぜ自発的微笑はあるのか?

第4部 まとめ──微笑とコミュニケーション

1 目がコミュニケーションに果たす役割
2 ヒトのコミュニケーションの特徴
2─1 バロン=コーエンの考え
3 クレーン行動ではなくハンド・テイキング行動へ
4 視線ではなく関係
5 基本的信頼
6 「社会的」と「対人的」
7 微笑と笑いの発達──胎児期から生後1年まで
8 微笑とふれあい(結語)


謝辞
あとがき
文献・注
事項索引
人名索引
装幀臼井新太郎
本文イラスト小嶋陽子






ヒトはなぜほほえむのか はじめに

 世界中で見られる人の心理(情動)表現の中で、たぶん微笑ほど研究者たちの興味を引いてきたものはないでしょう。(ウォルフ、1987 )

 子どものことにせよ、動物についてにせよ、わかってくればくるほど、われわれの無知の程度が明らかになるだけです。(ティンバーゲン、1974。一部変更 )

 これから微笑の起源について考えたいと思います。微笑は米国の小児科医ウォルフがいうように、多くの研究者たちによって探究されてきました。でも少なくとも日本では、「笑い」がタイトルについた本は多いけれど、「微笑」がタイトルについたものはあまり見かけません。なぜでしょうか?

 また海外に目を向けてみても、笑い(laugh)や微笑(smile)についての論文はたくさん出ていますが、不思議なことに、はっきりと「笑い」と「微笑」を定義しているものはあまりないのです。それはあまりに自明なことなのでしょうか。そうともいえないようです。

 本書は4部構成で、第1部においては「微笑」の進化(系統発生)について探究します。第2部では、ヒト(種として考えるときは、カタカナにします)における「微笑」の発達(個体発生)について考察します。第3部では、私たちの研究を要約します。そして第4部で、まとめと、私たちの考えるヒトの微笑の発達図を提示したいと思います。

 まず本書では、「微笑」と「笑い」の定義をはっきり示します。そして微笑の起源について、何がわかっていて何がわかっていないのか、明確にしたいと考えています。次に、私たちが明らかにしたことを説明したいと思います。私たちは莫大なプロジェクトを動かしているわけではありません。しかし、子どもたちを観察するだけで、これだけのことがわかるということを多くの方に知っていただきたいのです。その中で科学的に常識とされてきたものを覆す醍醐味をお伝えしたいと考えます。

 微笑の起源を考え続けたら、ヒトは他の動物とどう異なるのかを考えることにつながりました。この点も示しましょう。