戻る

サトウタツヤ 著

学融とモード論の心理学
――人文社会科学における学問融合をめざして


A5判320頁

定価:本体3300円+税

発売日 12.03.20

ISBN 978-4-7885-1285-6

◆amazon.co.jpへ
cover

◆紀伊國屋書店Books Web へ

◆7ネットショッピングへ



◆「学際」から「学融」へ!◆

学問は基礎的研究も重要ですが、環境問題やエネルギー問題、さらにはいじめやマインドコントロールまで、異分野の専門的英知を結集して取り組まなければならない問題が山積しています。学問の垣根を越えた協力は「学際」研究と言われてきましたが、同じ問題をそれぞれが研究する域を出られませんでした。「学融」は、現実の問題の解決をはかるための知識生産の結集をいいます。そして「モード論」は、そのような実践をささえる枠組みです。本書はモード論の視点とその意義を解説し、心理学と法、医療、教育、自然科学の学融の取り組みを具体的に報告します。著者は、立命館大学教授。


学融とモード論の心理学 目次

学融とモード論の心理学 はじめに

ためし読み
Loading

学融とモード論の心理学─目次



はじめに  

第一部 モード論と心理学の関係
 
1章 モード論からみた心理学 ― 進展する「心理学と社会の関係」
1 モード論とは何か 
2 コラボレーションの実際 ― 目撃証言の信憑性をめぐって 
3 新しい知識生産様式としてのモードU 
4 モードUを発信する媒体(メディア) 
5 今後の課題 

2章 モードU・現場心理学・質的研究 ― 心理学にとっての起爆力
1 評価の問題 
2 モードUとは何か ― 社会に開かれた知識生産 
3 現場心理学のあり方をめぐって 
4 質的研究 
5 モードU・現場心理学・質的研究への批判と議論 
6 再び評価の問題 

3章 モード論 ― その意義と対人援助科学領域への拡張
1 心理学者の体験談 ― 異文化としての法 
2 モード論という補助線 
3 おわりに ― 対人援助科学におけるモードUをめざして 
 
第二部 モード論とボトムアップ人間関係論
 
4章 ボトムアップ人間関係論の構築
1 心理学からボトムアップ人間関係論へ 
2 学融をめざして 
3 学融のアリーナとしての人社プロジェクト 
4 オルタナティブオプションズの研究 
5 学融プロジェクトの評価・歴史・理論 

5章 クリニカル・ガバナンスと切り結ぶボトムアップ人間関係論の構築という視点
1 水平的人間関係の構築 
2 裁判員制度は法曹関係者に対人援助職的マインドを求める 
3 おわりに ― 水平的人間関係を構築するために 
 
6章 融合に立ち向かう心理学 ― 学融,セク融,国融と心理学
1 融合とモード論 
2 学融・国融に向けた取り組み 
3 心理学が提供できる理論化の方法
  ― ボトムアップ思考からアブダクションへ 
4 評価を未来に開く 

7章 水平的社会の構築―オルタナティブオプションズによるボトムアップ人間関係論の構築
1 人社プロジェクトの中のボトムアップ人間関係論の構築 
2 ボトムアップ人間関係論の構築へ向けての提言 
3 今後の課題 

第三部 学融をめざすモード論の実践
 
8章 法と心理学という学融の実践
T 取調べ可視化論の心理学的検討
1 取調べ可視化のための試行 
2 録音・録画と人間関係構築論の関係 
3 録音録画と心理的バイアス 
4 全過程録音・録画を心理学的に考えるための補足 

U 司法臨床の可能性 ― もう一つの法と心理学の接点を求めて
1 司法臨床の概念と方法 
2 さまざまな現場からみた司法臨床のあり方 
3 司法臨床において問題解決を支える諸理論 
4 司法臨床の可能性 

9章 厚生心理学 ― 医療(特に難病患者の心理)と心理学という学融の実践
T QOL再考 ― 死より悪いQOL値を補助線として
1 QOL(Quality of Life)の何が問題か 
2 健康に関連するQOLとその内容 
3 一人称的QOL(individual QOL)=iQOLの可能性 
4 おわりに――数式で数値を算出して質を表現すること 

U 時・文化・厚生
1 時を扱う方法としてのTEM 
2 TEMは文化をどのように考えるのか 
3 医療ではなく厚生(心理学)のためのTEM 
4 TEMがめざすもの 

10章 教育と心理学という学融の実践
T モードU型学習としてのサービスラーニング
― 対人援助学との融合をめざして
1 サービスラーニングとは何か 
2 サービスラーニングを支える新しい考え方 
3 サービスラーニングにおけるサービスとラーニングの関係 
4 対人援助とサービスラーニング 

U 水平的人間関係を築きながら問題解決に迫る仕掛けとしての
ゲーミングシミュレーション ― SNGの意義とその展開
1 コミュニケーションとしてのゲーミングと未来の言語としてのゲーミング 
2 「説得納得ゲーム」の特徴 
3 「説得納得ゲーム」の転用可能性とその問題点 
4 結語――説得の理解から納得の理解へ 

11章 科学と心理学という学融の実践
1 リスクとリスクコミュニケーション 
2 食品をめぐる科学的判断 
3 科学的根拠がないとされる情報としての地震予言 
4 東日本大震災のあとで ― ボトムアップ人間関係論からの社会提言 

あとがき  
文  献  
人名索引  
事項索引  
初出一覧


装幀=虎尾 隆






学融とモード論の心理学 はじめに

 本書は,筆者がモード論を活用して行ってきた学融的な活動の記録といえるものである。モード論そのものについて論じた論考,モード論の実践たる日本学術振興会の人文・社会科学振興プロジェクト研究事業に関する論考,法,医療,教育,科学,に関する学融の実践に関する論考,の三部からなる。結果としてそれぞれの原稿にモード論に関する言及がなされており,冗長な感じもしてしまうのだが,それぞれの部を独立したものとして読むには欠かせない部分であるので,その点には目をつぶることにした。

 モード論とは,科学社会学において研究と社会との関係を考えるためのメタ理論の一つである。モード論では,研究を基礎と応用に二分するのではなく,学範の関心に駆動されるモード(モードT)と社会関心に駆動されるモード(モードU),という二つのモードの違いであると考える。そもそも研究という言葉に代えて知識生産という語を用いることを好む。

 論文や本を読んで研究テーマを設定して知識生産を行うのがモードT,現実に存在する問題を取り上げて問題解決という知識生産を行うのがモードUということになる。そして,モードU的な知識生産を可能にするためには異なる学範の協働作業たる学融が必要となる。ここで学融とは,Trans-disciplinarity の訳である。つまり,Trans を「融合」の意味に訳そうとしているのである。現在日本ではTPPが問題になっているが,このTは Trans の頭文字である。Trans を「超える/越える」という意味で訳す場合もあるが,環太平洋融合交易圏とでも訳せば,その実情がよくわかるのではないか。Discipline を学範と訳すことも含め,海外の概念を日本語に置き換えることは,西周以来の日本の人文・社会学者の役割の一つと考える。TPPについて賛否を語ろう!というより環太平洋融合交易圏の賛否を考えよう!の方が多くの人が自分の言葉で語れる言葉(庶民語)であることは疑いない。

 話を学融について考えることに戻ろう。良く問われる問いとして,「学際的研究とどう違うのか?」というものがある。学際は「際」が示すとおり,学範の際で行われるものである。一方,学融は「融」が示すとおり,学範の融合である。前者は問題の共有があれば足り,後者は解決の共有が目指される。たとえば,家族心理学と家族社会学の学際研究は,お互いの学範が,何らかの事情で家族について研究しようと決め,それぞれの立場から研究をすれば足りる。ところが,学融研究は実際に解決すべき問題がある時にのみ立ち上がり,その解決こそが目指される。

 今日で言えば,引きこもりや自殺について,その解決を目指すのであれば学融的知識生産が必要なはずである。従来型の学際研究ではなく,学融的知識生産が求められているのである。

 筆者がモード論について初めて知ったのは,『通史日本の心理学』(佐藤・溝口, 1997, 北大路書房)を準備・執筆中のことで,立正大学社会福祉学部溝口元先生からの情報であった。とにかくワクワクするような理論を教えてもらったという気持ちであった。本来のモード論は科学社会学の範疇にあり,資金配分などについても議論の範囲に含めるものであったが,筆者にとっては,「モード」という概念が,性格概念にとってかわるものであると感じられ,また科学社会学ならぬ科学心理学を構築するのに有用だと感じられたのである。現在,モード論の使われ方については批判も存在するが,筆者の「科学心理学」的なモード論にはそうした批判はあたらないのではないかと愚考する次第である。

 モード論について本格的に論じたのは,福島大学行政社会学部に所属していたときであるが,東京都立大学故加藤義明先生の追悼論文集であった。思えば筆者は恩師・詫摩武俊先生のもとで心理学を学んだのだが,興味が拡散しがちな不肖の弟子を温かく見守ってくれた学恩に常に感謝している。筆者はその後福島大学行政社会学部に勤務することになり,法と心理学の研究・教育を始めることになった。その時のパートナーは菅原郁夫先生(2012年4月から早稲田大学)であり,法学とのコラボレーションは決して一筋縄ではなく,苦しさもあったが,その時の導きの糸こそがモード論であった。筆者はさらに,その後立命館大学に異動したが,指宿信先生(現成城大学教授)ほか多くの法学者の方と法と心理について考え,語ることができた。また,自白研究の第一人者である浜田寿美男先生(現立命館大学特別招聘教授・奈良女子大学名誉教授)の研究会に参加する機会も得た。こうした環境のもとで法と心理を専攻する学生も増えてきている。そして,さらに重要なことであるが日本学術振興会の人文・社会科学振興プロジェクト研究事業に参加することができた。公募のプレゼンにおいてはモード論を前面に押し出し,また5年間の活動期間中もモード論に基づく学融的活動のあり方を追究してきたつもりである。このプロジェクトのリーダーである東京大学城山英明先生ほか多くの人文・社会科学の有為な方たちと知己を得ることができ,育ててもらった。また,顧問格の東京大学名誉教授石井紫郎先生が「学融合は核融合より難しい」と常々語っておられたことも感慨深く思い出す。

 現在,筆者は文化心理学を中心にしながら,「法と心理学」ならびに「厚生心理学」を展開している。また,「経済心理学」や「政策の心理学」にも歩みを進めようとしている。ややもすると拡散しがちな活動がなんとかまとまっているのは,モード論という核心があるからである。また,複線径路等至性モデルという方法論を確立することができたからである。そして言うまでもなく,福島大学や立命館大学において筆者のもとに集まってくれている学生・院生・研究員・同僚の助けがあるからである。直接お名前を出すことはできないが,オープンシステム(開放系)としてのサトウタツヤの周りで協働してくれているすべての方に感謝を捧げ本書を捧げたい。また,すでに述べた日本学術振興会の人文・社会科学振興プロジェクト研究事業のほか,科学研究費補助金をはじめとする多くの研究資金の恩恵に浴することができたことも本書の元となった諸研究を支えてくれた。記して感謝したい。

                            2012年3月

                          

サトウタツヤ