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鈴木登美・十重田裕一・堀ひかり・宗像和重 編

検閲・メディア・文学
――江戸から戦後まで


A5版384頁

定価:本体3900円+税

発売日 12.03.30

978-4-7885-1284-9






◆日本における検閲を通史的に論じた初めての試み◆

言論弾圧や禁書は政治権力の歴史とともに古いが、それが高度に組織的になされるようになったのは、印刷術の発達による大量出版とともにです。その徳川時代の歌舞伎・戯作・浮世絵の検閲から始めて、戦前・戦中の国家主義のもとでの強圧的な検閲、そして敗戦後の占領軍による、検閲の痕跡を見せてはならないとする検閲までのさまざまな検閲を取り上げ、いつ、なぜ、どんな法規や制度がつくられ、どんなメディアやジャンルが対象となったか、規制はどのように受け入れられ、抵抗され、記憶され、忘却されてきたかを、ジャンル横断的に通史的に、国内外の学者が論じます。そしてそれを、日本語版と英語版を組み合わせたバイリンガル出版として、世界に発信していきます。


検閲・メディア・文学 目次

検閲・メディア・文学 あとがき

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◆書評

2012年6月12日、東京新聞

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検閲・メディア・文学─目次


目次─検閲・メディア・文学

序 検閲と検閲研究の射程鈴木登美

第Ⅰ部 江戸から明治・大正・昭和前期にかけての出版文化と検閲

解説 抑圧と抵抗の諸相宗像和重
江戸歌舞伎の検閲埋忠美沙
江戸後期戯作の検閲佐藤至子 
浮世絵の検閲サラ・E・トンプソン 
明治期文学者とメディア規制の攻防紅野謙介 <
コラム 「時鳥啼くなと申す人もあり」─正岡子規、検閲、公共言説としての俳句ロバート・タック
内務省の検閲と第二次世界大戦前日本の出版文化大日方純夫<
永井荷風「つゆのあとさき」の本文と検閲中島国彦

第Ⅱ部 戦前・戦中から占領期・戦後にかけての文学と検閲

解説 内務省とGHQ/SCAPの検閲と文学
   ─一九二〇─四〇年代日本のメディア規制と表現の葛藤十重田裕一 
事象としての検閲と幻想としての読書─谷崎潤一郎をめぐってアンヌ・バヤール=坂井 
検閲、自己検閲の連続性─川端康成の作品において セシル・坂井 
コラム 刑務所の中の言葉─葉山嘉樹の獄中記を読むネイト・シャッキー 
拡張する検閲「帝国」と「非合法」商品─玄海灘に交錯する雑誌『戦旗』の読者網高榮蘭 
コラム 二重化された両義性─李光洙と帝国空間の矛盾クリスティーナ・イ 
かいくぐることと自粛と─昭和モダニズム文学者・久生十蘭の検閲対応川崎賢子 

第Ⅲ部 戦中から占領期にかけての大衆メディアと検閲

解説 大衆メディア検閲研究―メディア特殊性そして間テクスト性堀ひかり 
映画検閲と天皇イメージ─『日本ニュース』における昭和天皇の例を中心に堀ひかり
振り子の揺れ─連合国軍占領下における紙芝居と検閲シャラリン・オルバー 
コラム ローマ字化勧告をめぐる「誤解」─石黒修の検閲事例から 塩野加織 
純血への頌歌─占領期詩歌の検閲にみるタブー・トピックとしての「親密交際」マーリン・J・メイヨ 

コラム 坂口安吾と「チャタレイ裁判」時野谷ゆり
あとがき編者 
執筆者一覧

  装幀─虎尾 隆







検閲・メディア・文学 あとがき

一言論弾圧や禁書は政治権力の歴史とともに古いが、公権力が思想や情報の内容を検査して社会的コミュニケーションを規制する検閲制度が高度に組織化されるようになったのは、印刷術の発達によって大量出版が発展するにつれてのことであった。日本では、十七世紀に出版文化が台頭・発展して以来、江戸期から明治維新を経て第二次世界大戦敗戦まで、そして連合国による占領の終結にいたるまで、政治・経済・社会の形態は大きく変容を遂げながらも、 国家や占領軍による制度的な検閲が続いた。検閲はつねに、競合する価値や情報を抑圧しつつ特定の道徳的・社会的価値ないし知識を強制しようとする、教化やプロパガンダといった統制のもうひとつの形態と表裏一体となって作用してきたのである。

本書は、近世から占領期にいたるまでの多様なメディアやジャンルをとりあげて、日本における検閲の問題を、個別的な事例に即しながら、歴史縦断的かつジャンル横断的に検討しようとするものである。

いつ、なぜ、何を目的としてどのように異なる法規や制度がつくられ、それがどのような機関によってどのように運用されたか。時代によって、どのようなメディアやジャンルが、どのような理由によって検閲の対象となったか。そして、どのようなかたちで検閲が制作者たちに対応され、作用してきたか─規制がどのように受け入れられ、あるいは抵抗され、回避され、記憶され、忘却されてきたか。それによって表現様式やジャンルやメディアにどのような変容がおこったか─といった問題を探究する。また、異なるメディアにおける検閲状況とその対応を検討することによって、それらが複合的に作用していた言説空間・文化空間を理解し、想像し直すことを試みる。そして、特定の時代の検閲制度と実践の場に働いていた、あるいはそれを通して顕現した政治的・社会的状況や、文化の生産・流通・消費のダイナミクスと政治性に歴史的な照明を当て、今日におけるその意味を考えたい。

本書はゆるやかな三部構成をとり、第Ⅰ部では、江戸期の歌舞伎、浮世絵、戯作の検閲から、明治以降の新聞・雑誌・書籍の検閲について、法規や制度の変遷に着目しながら、表現行為やメディアと検閲との応酬を検討する。第Ⅱ部と第Ⅲ部はともに、第二次世界大戦の戦前・戦中の内務省による検閲と占領期の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)による検閲、それぞれが表現行為や出版文化にもたらした直接・間接のインパクトを、 歴史的・政治的状況の大きな変動および検閲制度の差異と相関性に注目しつつ、連続的に検証することを試みる。第Ⅱ部では戦前から戦後を通して創作活動を繰り広げた文学者を中心にとりあげ、第Ⅲ部では、映画と紙芝居といった大衆視覚メディアと、一般人による短歌や俳句を扱う。各部の冒頭に置かれた解説で、それぞれの部で展開される論考の背景と問題を明らかにし、また、各部の論考と呼応しつつ新たな視点を提起するコラムエッセイをそれぞれの部に配した。
鈴木登美