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J・ ヴォークレール 著
明和政子 監訳/鈴木光太郎 訳

乳幼児の発達
――運動・知覚・認知


A5判320頁

定価:本体2800円+税

発売日 12.03.20

ISBN 978-4-7885-1282-5

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◆斬新な視点のテキスト◆

本書は、心理学の巨人ピアジェから直接教えを受けた最後の弟子である著者が、 ピアジェ以降今日までめざましい進展のあった乳幼児の発達研究の成果を、ピ アジェの再評価やその理論の再構成を試みつつ若い学徒に向けてまとめた概論 書です。人は特別な存在として突然進化してきたわけではなく、人の認知能力 の最高傑作ともいえる言語でさえ、人以外の霊長類にその萌芽を見出せるとい う、大きな視点に立って書かれているところに特色があります。大勢の執筆者 によって書かれた発達心理学のテキストが多い中、一貫した立場で、初学者に も理解しやすく書かれていることも本書の大きな魅力です。

関連書
ジャック・ヴォークレール 著鈴木光太郎・小林哲生 訳
『動物のこころを探る かれらはどのように〈考える〉か』

乳幼児の発達 目次

乳幼児の発達 あとがき

ためし読み
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乳幼児の発達―目次



ヴォークレール先生について   明和政子
はじめに
T 本書の目的と章立て
U 知覚・運動・認知の発達心理学とフランスの研究者
 
1章 発達心理学における疑問と考え方
T 発達をどう考えるか? ― 疑問と論争
1 発達は連続か不連続か?
U 発達の2つの要因
1 成熟を重視する立場
2 環境を重視する立場
3 相互作用を重視する立場
4 文化の影響を重視する立場
V 子どもの年齢に関係する概念
 【1章のまとめ】
 
2章 認知発達を研究する方法
T 行動を心理学的に研究するための科学的基準
U データ収集の方法
1 観察記録と自然観察
2 観察法の限界とバイアス
V 実験的アプローチ
1 選好注視法
2 新奇選好法
3 馴化―脱馴化法
4 吸啜法
5 生理反応の測定
6 条件づけ法
7 縦断的アプローチと横断的アプローチ
 【2章のまとめ】
 
3章 出生前の発達
T 胎児の発達段階
1 胎児の発達と脳
2 感覚系の発達
U 出生前の聴覚的学習
1 心音の効果と学習
2 出生前の母親の声の認知
V 胎児への母親の行動の影響
1 飲酒の影響
2 喫煙の影響
 【3章のまとめ】
 
4章 運動の発達
T 新生児の反射
1 その後の発達にとっての反射の機能
U 運動能力の発達
1 頭尾法則と近遠法則
2 運動発達のおもな段階
3 姿勢の制御の発達
4 移動運動の発達
5 手の制御の発達
V 利き手の発達
1 利き手の発達カレンダー
2 胎児の運動の非対称性
3 反射の非対称性 ― 非対称的緊張性首反射と把握
 【4章のまとめ】
 
5章 知覚の発達
T 視覚能力
1 視力
2 レンズ調節(焦点合わせ)
3 両眼視
4 大きさと形の恒常性
5 ほかの視覚能力
6 顔の知覚
U 身体運動と視覚の協応 ― 奥行き知覚
V 聴覚能力
1 音の定位能力
2 言語音の知覚
W 味覚と嗅覚の発達
X 皮膚感覚の発達
Y 複数の感覚モダリティの対応関係
1 感覚モダリティ間知覚と感覚モダリティ間転移
2 視覚と口による触探索の間の転移
3 触覚と視覚の間の転移
4 視覚と聴覚の間の対応
 【5章のまとめ】
 
6章 認知発達の理論
T ピアジェの知能の発達理論
1 ピアジェの知能理論の原理
2 生物学的なものから心理学的なものへ ― 発達のプロセス
3 発達段階の記述
4 感覚運動の発達
U 情報処理的理論
1 情報処理システムの基本構造
2 はたらいているプロセス
3 情報処理アプローチとピアジェのアプローチ
4 新ピアジェ派の理論、情報処理理論と発達
V コア知識理論
W 表象書き換え理論
 【6章のまとめ】
 
7章 モノの知識と因果関係
T モノの永続性の再検討
1 モノの永続性とありえない出来事法
2 モノの永続性(あるいはAノットBエラー)
  に関係するいくつかの要因
U 因果
1 因果関係の知覚
2 作用因と被作用因の違い
 【7章のまとめ】
 
8章 カテゴリー化
T 乳幼児のカテゴリー化の研究
1 カテゴリー化を研究する方法
U カテゴリー表象の性質とプロセス
1 カテゴリー化のレベルと発達
2 カテゴリー表象ではたらいているプロセス
 【8章のまとめ】
 
9章 空間の認知
T 空間の自己中心的符号化
1 ピアジェの考え方
2 自己中心的符号化の脱中心化に関係する要因
U 空間の客観的符号化の研究
V 幾何学的手がかりと非幾何学的手がかりに対する乳幼児の感受性
1 ハーマーとスペルキの研究
2 空間認知の発達と手がかりを組み合わせるための条件
 【9章のまとめ】
 
10章 数の認知
T 数の弁別
1 点の弁別
2 集合の弁別
3 大きな数量の弁別
4 集合の大きさと見積もりのメカニズム
U 乳幼児と計算
1 乳児も計算できる?
2 ほかの仮説と論争
3 乳児の数的能力についての数によらない説明
 【10章のまとめ】
 
11章 記憶
T 乳幼児の記憶研究の方法
1 馴化パラダイムと新奇選好パラダイム
2 随伴強化パラダイム
3 模倣パラダイム
4 出来事の記憶
U 乳幼児の記憶の性質
V 記憶の発達と幼児期健忘
1 成熟の要因の役割
2 認知的自己仮説
3 言語と心の理論の仮説
4 社会認知的仮説
 【11章のまとめ】
 
12章 音声知覚から最初のことばへ
T 言語と言語習得の一般性
1 言語と系統発生
2 言語発達理論の概観
3 ことばはいつ始まるか?
U 音声カテゴリーの知覚とプロソディの知覚
1 音素の知覚
2 プロソディの知覚
3 単語音の学習
V 喃語から語彙の獲得へ
1 1歳から2歳にかけての語彙の発達
2 単語の意味の獲得
 【12章のまとめ】
 
13章 終わりに
T 早期発達の研究法とその限界
U 現在の認知発達の理論
1 生得説再考
2 知覚表象と感覚運動表象
 
訳者あとがき   鈴木光太郎
引用文献 (7)
事項索引 (4)
人名索引 (1)


装釘=臼井新太郎
日本版イラスト=畠山絵美






乳幼児の発達 はじめに



 私はプロヴァンス大学で、「誕生から2〜3歳までの発達 ― 理論的アプローチと実験的研究」と題して発達心理学の授業のひとつを受け持っています。学生たちは、授業でとりあげるテーマ全体について書かれた教科書があったらいいのに、と言ってきます。これはフランスの特殊事情というわけではなく、英語圏でも、事情は似たり寄ったりです(数少ない例としては、Slater & Lewis, 2002; Snow, 1997 があります)。ですから、この本はなによりもまず、この領域の不可欠な知識を解説することに重点をおいています。

 私は、ジュネーヴ大学でジャン・ピアジェの最後の薫陶を受けた学生のひとりです。当時、学生たちは、このジュネーヴの心理学者が子どもの知能の発達について自らの理論を語るのを聞いて、その魅力に圧倒されました。ピアジェの宇宙と出会った時、私にとって衝撃的だったのは、その論理の一貫性です。それは、子どもの知的発達の心理学にとどまるものではありませんでした。彼の心理学理論の特徴は、生物学を土台にしている点です。実際、ピアジェ(Piaget, 1967)は、知能が生物学的適応の延長だと考えていました。同時に彼は、発明や科学的創造性を支える心的プロセスを解明したいという野望ももっていました。この知的に多産であった時代から長い年月が経ち、状況は大きく様変わりしました。本書のページをめくってゆくとわかるように、ピアジェの理論は多くの批判にさらされています。本書の中心をなす生後直後から2歳までの時期については、とくにそれが言えます。しかし、ピアジェの残した足跡はあまりに大きなものでした。ピアジェは、その革新的で強力な考え方ゆえに批判の的になりますが、同時に、それを批判する研究者にとっては、大きな道標でもあるのです。


 T 本書の目的と章立て

 乳幼児の発達心理についての現代の研究者、とりわけ知覚、運動、認知の発達の研究者は、新しい方法の恩恵に浴しています。この領域では、まず研究方法の革新があり、次にそれが理論的革命を導きました。その方法は、特定の視覚刺激や音刺激に対して乳児がもともともっている好みを観察するというものです。こうした観察によって得られる反応は、一貫した傾向を示します。これらの方法を用いてわかってきたのは、乳児がまわりの環境に能動的にはたらきかけるようになる前から、すでに聞き、見ることで学習しているということです。この考えは、いまや発達心理学者の間では常識になりつつあります。

 本書でとりあげるのは、新生児や乳幼児が獲得する知識の豊かさと多様性、そして生後の2年間の発達です。とくに重点を認知発達におき、社会行動や感情についてはふれません(乳幼児においては、これらもきわめて豊かで複雑なものですが)。フランスでは、認知や発達の心理をあつかった本の多くは、認知を、言語が大きな役割をはたす知的操作に限定しています。しかし、まだ言語を習得しない子どもの場合には、こういうわけにはいきません。したがって本書では、認知を、環境との相互作用を可能にする感覚系と運動系から切り離されたものとして ― ある意味で抽象的なものとして ― あつかうことはしませんでした。このような理由から、まず運動系と感覚系の発達について解説し、次に認知とその発達について解説します。個体発生は、出生の時点からではなく、受精の時点からすでに始まっています。本書では、最初の1章を胎児の発達にあてています。というのは、この時期、とりわけ出生直前の数週間は、その後の学習に重要な影響を与えるからです。この決定的な時期についての研究によると、出生前でも確かに学習していることが示されています。

 乳幼児の発達研究では、さまざまな方法が用いられています。2章では、それらの方法について解説します。続く3章では、出生前の発達をとりあげます。4章と5章は、運動発達の主要段階と知覚領域における重要な獲得をテーマとします。6章では、乳幼児の認知発達についての代表的な理論を紹介します。7章から11章では、認知の主要な領域を個別にあつかいます。7章はモノと因果関係の認知、8章はカテゴリー化チのプロセス、9章は空間の体制化、10章は数の認知、11章は記憶をとりあげます。これらの発達に並行して、言語習得の準備も進んでいます。そのため、12章に「音声知覚から最初のことばへ」という章を加えました。最後に結びの章では、研究方法の問題点をとりあげ、最近の理論的方向性を示し、認知発達の心理学と神経科学チの関係を考えます。

 U 知覚・運動・認知の発達心理学とフランスの研究者

 巻末の引用文献を見ると、英語で発表された研究者の研究が特権的な地位を与えられているような印象をもつかもしれません。実際、知覚・運動・認知の発達についての研究のほとんどは、英文で発表されています。というのは、この領域の主要な専門誌の使用言語が(科学的心理学のほかの領域も同様ですが)、英語だからです。とはいえ、現在の乳幼児発達心理学において、フランスの心理学の存在が薄いわけではありません。フランスの心理学者も大きな貢献をしているということを知っていただくために、以下に、乳幼児の発達の理解に貢献している(あるいは貢献した)研究者の名前をあげておきます。カッコ内は、その研究者の専門です。

 ブノワ・シャール(嗅覚)、ジャン=ピエール・ルカニュエ(胎児の聴覚)、スカニア・ド・シューネンとオリヴィエ・パスカリス(顔の識別)、アンリエッタ・ブロック、フランソワ・ジュアン、ダニエル・メリエ、ミシェル・モリナとジョエル・プロヴァジ(早期の身体運動、触探索、未熟児)、マリ=ジュルメーヌ・ぺシューとロジェ・レキュイエ(視覚的注意、モノの探索、カテゴリー化)、ドミニク・バサノ(言語習得)、ジャック・メーレル、ジョシアーヌ・ベルトンチーニ、ベネディクト・ド・ボワソン=バルディ、アンヌ・クリストフ、エマニュエル・デュプー、カロリーヌ・グラニエ=ドフェール、ギスレーヌ・ドゥエーヌ=ランベルツ、ティエリー・ナツィとフランソワ・ラミュ(言語知覚)、アルレット・ストレリとエドゥアール・ガンタツ(感覚モダリティ間の認知)、ヴィヴィアンヌ・プータス(時間知覚)、オリヴィエ・ウーデ(数の認知、カテゴリー化)、スタニスラス・ドゥエーヌ(数の認知)、ピエール=マリー・ボードニエール、ジャクリーヌ・ナデルとアニー・ヴァンテール(模倣)。

J・ ヴォークレール