戻る

日本発達心理学会 編 無藤 隆・長崎 勤 責任編集

発達と支援
――発達科学ハンドブック6


    

A5判376頁

定価:本体3800円+税

発売日 12.05.11

ISBN 978-4-7885-1278-8

◆amazon.co.jpへ
cover

◆紀伊國屋書店Books Web へ

◆7ネットショッピングへ



◆研究と実践にもとづく発達支援のあり方◆

現代社会において、発達心理学はどんな役割を果たしうるのか、また果たすべきなのでしょうか。現場では健常と障害という二分法では説明できないさまざまな支援が必要な子ども・対象者が増加しています。そういったニーズに専門家として応えるには、教育心理学、臨床心理学、発達臨床、障害科学、保育学、教育学など学際的な知識が欠かせなくなっています。発達障害への支援、発達する場や年代・ニーズに応じた支援、個として生きる青年期・成人期・高齢期に出会う心理的困難への支援などについて、研究と実践を視野に入れて論じる本書は、発達支援の今後のあり方に大きな示唆を与えるものといえるでしょう。


発達と支援 目次

発達と支援 序章

ためし読み
Loading

発達と支援─目次


『発達科学ハンドブック』発刊にあたって ヒ
序 章 発達心理学の展望と発達支援の位置づけ   無藤 隆
第1節 発達心理学の25年間の大きな動き 
第2節 本巻の趣旨と構成 

第1章 現代社会の中の発達心理学の役割   無藤 隆
第1節 現代社会の問題に応える 
第2節 現代社会の問題としての経済格差 
第3節 現代社会の問題としてのいじめとその対策に学ぶ 
第4節 発達と支援との関係 

第2章 発達支援のスペクトラムと包括的アセスメント   長崎 勤
第1節 「障害〜定型発達のスペクトラム」の現実 
第2節 障害〜定型発達支援のスペクトラム 
第3節 「障害〜定型発達のスペクトラム」としてとらえる際の方法論
"="包括的アセスメントの必要性

第3章 現代社会における育児の広がり   藤ア眞知代
第1節 育児を取り巻く現状 
第2節 これからの育児の広がり
第3節 ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた育児支援 

第4章 家庭におけるハイリスクの親への支援   福丸由佳
第1節 ハイリスクとは何か 
第2節 リスク世帯への支援 
第3節 わが国における支援と今後の課題 

第5章 虐待の防止と支援   数井みゆき
第1節 虐待の定義と種類 
第2節 児童虐待の現状 
第3節 虐待者の構成と虐待発生における背景 
第4節 被虐待児が抱える問題 
第5節 発達的支援と援助 
第6節 さいごに――世代間連鎖を防ぐ

第6章 子育て支援の広がりと効果   荒牧美佐子
第1節 子育て支援の現状 
第2節 子育て支援の効果 
第3節 子育て支援の今後の課題 

第7章 保育の質とは何か   秋田喜代美
第1節 保育の質をとらえる枠組み 
第2節 質が子どもの発達に与える影響 
第3節 保育の質を高めるために 

第8章 保育の実践への支援活動とは   岩立京子
第1節 幼児を取り巻く環境の変化と支援ニーズの高まり 
第2節 保育実践への支援の意義と重要性――幼児教育の役割の変化 
第3節 保育実践への支援の実際 
第4節 今後の保育実践への支援に向けて 

第9章 保育者と研究者の協働のあり方   中澤 潤
第1節 保育者と研究者の協働 
第2節 保育者と研究者の協働のあり方 
第3節 協働の進め方 
第4節 協働の例 
第5節 協働研究の今後 

第10章 困難を抱える子どもの保育への支援   藤崎春代
第1節 困難を抱える子どもとその保育の特徴 
第2節 困難を抱える子どもの保育への発達支援 

第11章 学校教育の発達的な基礎と学習者としての育ち   岸野麻衣
第1節 小・中学校における発達を支える学習環境 
第2節 学習者としての適応と教師のかかわり 

第12章 不登校・学級集団の逸脱への支援   伊藤美奈子
第1節 さまざまな指導上の課題 
第2節 意味を読み取るという見方 
第3節 学校としての対応に求められること 
第4節 子どもと保護者への対応 
第5節 教師と支援者(スクールカウンセラー等)との協働に際し必要なこと 
第6節 おわりに 

第13章 教師への支援と教師との協働のあり方   藤江康彦
第1節 現場とかかわる研究のあり方 
第2節 教師への支援,教師との協働の実際 
第3節 発達科学研究としての意義 

第14章 乳幼児の社会性・情動発達の障害と支援:自閉症児における研究より   別府 哲
第1節 心の理論 
第2節 心の理論の発達的前駆体 
第3節 自他分化 
第4節 情動認知 

第15章 仲間関係の発達支援   本郷一夫
第1節 乳幼児の仲間関係の研究動向 
第2節 障害児の仲間関係 
第3節 「気になる」子どもの仲間関係 

第16章 学齢期の社会性の学習支援   中村 晋
第1節 社会的認知の発達と障害
第2節 初期社会性発達支援プログラムの概要 
第3節 初期社会性発達支援プログラムの適用 
第4節 自閉症児における社会性発達の可能性 

第17章 乳幼児期の言語発達の障害と支援  秦野悦子
第1節 乳幼児期の言語発達の障害と支援 
第2節 言語発達障害の分類 
第3節 乳幼児期の言語発達支援者 
第4節 言語発達とその背景にある要因 
第5節 乳幼児期の言語発達の問題への気づきとその支援 
第6節 コミュニケーションを作り出していく仕組みの支援 

第18章 学齢期の「聞く・話す」の障害と支援   大井 学
第1節 語用障害とは何か?――言語行為・会話の協力・文脈との関連
第2節 HFASDにおける語用障害の基本性格 
第3節 語用障害がもたらす悲哀・落胆 
第4節 自閉症者と「神経学的定型」者との会話を通じた共生 
第5節 自閉症共生社会の環としてのスモールグループ 

第19章 認知発達の障害  小池敏英
第1節 知的障害
第2節 ウィリアムズ症候群 
第3節 学習障害 

第20章 学習障害・学習の困難性への支援   金谷京子
第1節 学習障害が注目されて 
第2節 学習につまずく子どもたち 
第3節 学習につまずく子どもたちへの支援 
第4節 授業のユニバーサルデザイン化を目指した学校での支援 

第21章 運動発達の問題・障害と支援   澤江幸則
第1節 発達障害のある子どもの運動発達特性について 
第2節 発達障害のある子どもの運動発達のとらえ方について
第3節 発達障害のある子どもの運動発達と社会性発達との関連性について
第4節 まとめ――発達心理学研究における今後の課題 

第22章 行動問題への支援   関戸英紀
第1節 行動問題とPBS 
第2節 行動問題に対するPBSを用いた支援の実際 
第3節 クラスワイドな支援から個別支援へ 

第23章 脳科学と発達支援   東條吉邦
第1節 発達支援の実践と研究に役立つ脳科学とは 
第2節 発達期の脳科学 
第3節 成人期の脳科学 

第24章 青年期の発達と支援のあり方  佐藤有耕
第1節 青年期の普遍的な発達の姿 
第2節 現代社会の様相と青年の変化 
第3節 発達支援者の果たす役割 
第25章 非行の傾向と支援   小保方晶子
第1節 非行のリスク要因と防御要因 
第2節 非行少年への支援 

第26章 青年期の性的行動と支援   野坂祐子
第1節 性の多様性にまつわる課題 
第2節 青年期の性的行動と性的健康 
第3節 性的関係における暴力 

第27章 青年期の発達障害への支援   佐竹真次
第1節 医療的視点から 
第2節 教育の視点から 
第3節 就労支援の視点から 
第4節 非行・犯罪の視点から 
第5節 社会生活支援の視点から 
第6節 まとめ 

第28章 成人期の危機と支援:中年期の発達臨床的理解と援助を中心として   岡本祐子
第1節 生きることが困難な時代の成人期 
第2節 成人期の発達・臨床心理学の系譜 
第3節 人生半ばの峠に体験される心の危機――「構造的危機」としての中年期危機 
第4節 中年期危機の心理臨床的理解と援助 

第29章 中高年期のうつと自殺   川野健治
第1節 うつと自殺の実態
第2節 うつと自殺の関係 
第3節 うつ病の広がり 
第4節 うつと自殺の対策 
第5節 普及啓発とゲートキーパー機能の充実 
第6節 職場におけるメンタルヘルス対策
第7節 アウトリーチの充実と精神保健医療改革 
第8節 おわりに 

第30章 高齢者の認知症等への支援   佐藤眞一
第1節 認知症の定義と症状 
第2節 認知症のアセスメント 
第3節 認知症高齢者・障害のある高齢者への支援 

第31章 成人・高齢者の発達障害への支援   三宅篤子
第1節 成人・高齢者の発達障害者の現状 
第2節 成人・高齢者の発達障害者の現状――さまざまな実績報告から 
第3節 成人期に発見される発達障害者の事例分析 
第4節 成人・高齢者の発達障害者への支援 
第5節 まとめ 


人名索引 
事項索引 
編者・執筆者紹介 

装丁 桂川 潤
C被害が大きく確率が低い
(2)取引の問題
5 市場の規範がもたらすもの
(1)経済の繁栄
(2)国の発展
(3)国際的な規範
6 まとめ

索引
装丁 ― 気流舎図案室






発達と支援 序章

 発達心理学は,とりわけ過去25年間さまざまな方向への発展を進めてきた。理論的基礎的な方向と,応用的実践的な方向というのがその最も基本となる広がりをなす。だが,それは単に二分した方向だということではない。その間の活発な相互影響関係が発達心理学の特質の一つであり,とりわけ本巻で重視した点である。以下,発達心理学全般の大きな動きを展望し(なお,文献はなるべく入門的なものを挙げる),その中に本巻の全体の編集方針と各部の目指すところを述べる。

 大きく,生物科学としての方向と社会科学,さらに実践科学としてといった3つのベクトルで考えることができる(表1)。

 発達は何より生物的現象である。それは障害の問題でもよくわかる。生物的特性にまったく解消はされないが,その中核に脳神経系の問題があるには違いない。そういった問題を含め,今や発達心理学の多くは生物科学の大きな流れの中に包括されるようになった。その中心は発達神経科学・神経心理学である。おそらくこの15年間で最も研究が進展した分野であるに違いない。それは何より測定手段の進歩による。とくに,それまでの乳児研究を脳科学として裏づけ,精細化するようになった。また,マーカー課題(つまり心理的課題であるが,成人などで脳神経過程との対応が示されているもの)の開発も幼児期・児童期の研究を進めることに役立っている(子安・大平,2011;Posner & Rothbart, 2007)。進化心理学の進展も重要な発見や示唆をもたらした。性淘汰による遺伝子の継承とそれにともなう種々の特異な行動の説明に成功した。さらに,子ども時代の特定のあり方についても示唆を多く与えている(Bjorklund & Pellegrini, 2002/2008)。行動遺伝学の進歩は明らかだ。多くの行動や心理的特徴の個人差は相当部分を遺伝で説明できる(安藤,2011)。それに対して,親子関係や家庭環境の影響はかなり小さい。大きいように見えるものは遺伝的関連をとらえていないからである。もちろん,だからといって,親子関係の影響がゼロだと言っているわけではない。また個人差の遺伝的影響があるからといって,それらの人々の生活や行動を改善できないとも言えない(個人差と全般的向上は異なることである)。そういった動きが発達心理学との融合を高めており,全体として生物学的な発達科学の成立を可能にした。従来の狭義の発達心理学がその動きを受けて,どう変革していくかが問われる。

 第2の大きな動きが社会科学とつながるところで起きている。心理学の大きな潮流の一つは文化心理学の成立と拡大だ(Bornstein, 2010)。もはやそれは実質的な成果を多数生み出した研究領域といえる。それは2つの面からなる。一つは文化の違いにより心理現象やさらに親子関係といった人間関係や環境は大きく異なるという発見だ。だからよけいに今は,よい親子関係ということを細かく定義することは難しくなった(Bornstein, 2006)。たとえば,権威的と呼ばれるしつけスタイルは主に欧米の白人中流において子どもの何らかの発達指標と結びつくのであり,それ以外の文化では必ずしもそうはならない。もう一つの面は人間の心理や認知と社会状況や文化との密接なつながりと,その絡み合いに注目することだ。社会構成主義の考えとあいまって,生物学的な見方へのもう一つのとらえ方を提示してきた社会学の立場から子どもを取り扱うことは多くはなく,多数は教育現象や高齢者介護問題などに向かっているようだが,それもまた文化心理学とも共鳴して,実際の社会問題への注目を鮮明にさせている。

 経済学の寄与も高くなってきている。教育経済学の進展はめざましく,今はその知見なしに教育の構想を描くことは不可能になった(幼児教育についてたとえば,Heckman & Krueger, 2003)。発達支援のさまざまなプログラムについて,そのコストとベネフィットを経済学的に計算することも行われるようになった。掛けるコストと将来得られる社会的利益を費用として対応できるようにするのである。行動経済学の分野が確固たるものとなり(Kahneman, 2011),子どもに即しての研究は今後に期待されるが,急速に進むことが予想できる。この分野は心理学の実験や調査の枠組みが経済学のミクロな行動からの解析と結びついて,今や心理学とともに経済学を革新しつつある。

 第3の大きな動きは実践科学の成立である。とくに本巻ではそこを中心とした。一つには,発達や教育の研究が他の諸科学とともに政策科学として成立するようになった(伊藤,2011)。国や自治体などの施策として単なる思いつきや利益関係団体の意見だけではなく,総体的にそのあり方と成果・効果を検証しつつ進めることである。もう一つはそのこととともに,証拠に照らした実践が進んだことである。とくに医学ではエビデンスベースの医療が標準となった。つまり,治療群と統制群を参加者のランダム割り当てのうえで結果を比較することで,治療の客観的な有効性(エフィカシー)を測定するようになったのである(心理療法についてのその立場からの解説として,Field, 2009;Singh & Ernst, 2008/2010)。支援としてのあり方の科学的な解明も進んだ。その点は本巻の各章を見てほしい。なお,教育の分野において,学習科学(learning science)の成立も見逃せない動向である(Sawyer,2006/2009)。認知科学の実用化の表れであり,発達研究との結びつきが期待される。なお,現場研究や実践者の「知」の検討も進んできている(無藤,2007)。質的な研究の勃興とあいまって,その丁寧な記述が進んできて,保育や教育の分野を書き換えつつある。

 研究方法論の進歩や類接分野からの鍵概念の導入も広がった。表に示したようなさまざまな発展が発達研究をも活性化してきている。たとえば,身体認知(embodied cognition)の考えはロボット工学から哲学まで多くの分野を横断するキーワードとなった(Shapiro, 2010)。子どもの研究においても乳児を中心に,身体性やアフォーダンスは重要なとらえ方となった(佐々木,2008)。計算機によるモデル化はすでに試みの域を脱して,記述とモデル化さらに実験的な検証と結びつき,計算認知科学や計算脳神経科学の領域を構成するようになった(Thagard, 2010)。学習のモデル化が発達と結びつき始めたのである。

 本巻は発達心理学に基づき,現場の発達的なニーズへの支援を行うあり方を述べるものである。その方針は次のとおりである。

 研究を踏まえる。できる限り,実証的な研究でも事例研究であっても,その検証のあるものを含めていく。また日本での研究や実践を重視するが,諸外国とくに欧米の先進的な研究の中の重要なものには言及し紹介する。その際,研究として,発達心理学とともに,教育心理学や臨床心理学はもとより,障害科学全般,また保育学や教育学を含めて,学際的に広げていく。

 実践を尊重し,そのあり方を含める。各種の現場の様子を記述するとともに,そこでの実践者の工夫や姿勢や考え方を整理する。実践と研究の相互的関係を視野に置き,実践から研究が豊かになりうる可能性を展望するとともに,研究から実践がいかなる支援を受けうるのかを論じる。

 そこで検討する諸困難の軽減等の支援に向けて,どんな発達支援がありうるのかについてできる限り,原則的なあり方を述べる。個別のノウハウは他書に譲り,原則性に集中させて論じていく。

 それらを踏まえて,最後のところで,著者なりに,今後の研究と実践に向けての主張を述べる。発達支援の拡大とともに,研究と実践の双方が益するあり方を展望する。  そのうえで,4つの部に分けて,論述を行う。第T部は全体の基本となるところである。発達支援のあり方や発達障害への支援の基本を述べる。また現代社会の中で発達支援はどうあるべきかを論じる。

 第U部から第W部では,発達支援のあり方を年代と,発達のニーズ,発達する場,個として生きることという視点を組み合わせて構成した。第U部は,子ども時代に即して発達する場の支援を検討する。現代では,家庭,幼稚園・保育所,学校が,ほとんどの子どもが経験する発達的な場となっている。家庭は親が子どもを養育する場であるが,そのための子育て支援が子育て支援センター等で広がりつつある。幼稚園・保育所は保育者が子ども集団に対して保育を行う場であり,そこに外部の専門家が支援を行うことが増えてきた。小中の学校教育は教師が子どもを教育する場であり,やはりそこに発達や教育・心理臨床などの専門家が関与することが多くなっている。そういった場のあり方と専門家の働きに注目して論じたい。

 第V部は,発達ニーズ自体を取り上げて支援するあり方を述べる。発達障害を中心として乳幼児から成人期までを含めつつ,障害科学の展望のもとに発達支援の方策の原則を論じる。  第W部では,生きることの困難への支援として,青年期・成人期・高齢期に出会う心理的困難とその対処について述べる。この時期は個としての自覚のもとに発達が成り立ち,支援もまたその自覚のあり方を切り離せない。生涯発達心理学の展望を拓くところで発達支援の意味があることを論じる。

無藤 隆