戻る

中村桂子 編
JT生命誌研究館発行・新曜社発売 

編む
――生命誌年刊号 vol.65-68


    

A5判278頁

定価:本体1905円+税

発売日 12.02.29

ISBN 978-4-7885-1272-6




◆生き物のルールを探して◆

今号は、自然が生命を「編む」物語がテーマです。ミクロのDNAから細胞のダイナミックな組織化、個体の関わりが生み出す社会まで、各分野の視点から、密度の濃い最新の研究が報告されます。本を「編む」人である編者とのトークコーナーには、極限生命圏探索の長沼毅氏、江戸の花鳥画や動物画解読研究の今橋理子氏らが登場。さらに科学者の横顔に迫るサイエンティストライブラリーでは、ウナギの産卵地を突き止めた塚本勝巳氏やアポトーシス研究の長田重一氏らが、研究の足跡を振り返りました。


JT生命誌研究館 生命誌
http://www.brh.co.jp/seimeishi/

編む 目次

編む まえがき

Loading

編む―目次
はじめに
Talk 語り合いを通して
◆カオスで探る生きものらしさ 津田一郎×中村桂子
◆絵と言葉で自然を描き出す 今橋理子×中村桂子
◆生きもののルールの探し方 長沼 毅×中村桂子
◆化石が物語る人類の始まり 諏訪 元×中村桂子

Research 研究を通して
ミクロの世界での編む ―柔軟にやりくりする分子―
◆四億年もRNAを書き換え続けてきた意味 由良 敬
◆組み合わせで進化した古細菌のtRNA 藤島皓介
個体を編み上げる ―形づくりとその進化―
◆粘菌のふるまいに見る自己組織化の始まり 澤井 哲
◆細胞のダイナミズムが生み出す左右相称の形 秋山‐小田康子
◆体節から血管へ、組織の間を旅する細胞 佐藤有紀
◆遺伝子の段階的な進化が生む新しい植物の形 中山北斗
集団を編む ―相互作用が生む多様性―
◆関わりが生み出す昆虫の社会性 三浦 徹
◆有性と無性を組み合わせて多様性を維持するシダ 篠原 渉

Scientist Library 人を通して
◆俯瞰と徹底― 分子から細胞、発生へ 御子柴克彦
◆死の側から生を見る分野を確立 長田重一
◆ATP合成酵素がまわる不思議 吉田賢右
◆動物はなぜ旅をするのかを考え続けて 塚本勝巳

あとがき
生命誌ジャーナル掲載号一覧


編む まえがき
はじめに 今年は「編む」がテーマです。いつものように辞書を引くと、これはまたさっぱりと二つの意味が短く書かれていました。@が糸・竹・藤・髪などを打ち違えに組んで、衣類・敷物・家具・垣・髪型などを作る。Aが諸書の文を集めて書物を作る、編集する、です。

@は一次元の細長いものから三次元の形を組み立てていくことです。よく知られているように、DNAは二本の鎖から成るひもです。生きものが自分の体をつくったり、はたらかせたり、更には子どもへとつながっていったりする時の基本情報はひもの中にあるのです。そして、DNAから情報を受けとって生じるRNAもタンパク質も基本はひも。ただし、これらはひものままでは完成品ではなく、さまざまな形を編み上げてはじめて独自のはたらきを持つようになります。毎日毎日たくさんのひもが生まれ、それが編み上げられていることが、生きているという状態を支えているわけです。こうイメージすると、コツコツと、そしてセッセとはたらいている感じがしますね。「編む」という言葉は、一つ一つていねいに大事なものを作り上げていくことの大切さを思い起こさせます。

それにしても、今の社会、基本からとかていねいにということが疎かにされているのではないでしょうか。そう思いながら年度末を迎えようとしていた矢先、三月十一日に東日本大震災と津波、それによる原子力発電所の事故が起きました。生命・人間・自然・科学技術の間の関係は生命誌のテーマの中心ですから、これこそ根本からていねいに問い直さなければなりません。編みものは、スーッとほどいてまた一本の糸に戻すことができます。そして同じ材料でまったく違う形、異なる用途のものを編み上げることができます。社会はなかなかそうはいきませんが、思いきって一本の糸にし、もう一度ていねいに編み直しましょうと提案したいと思います。次年度へと続く大きな課題です。

Aの編集するという言葉も魅力的です。本来文を集めて書物を作るというところから始まっている言葉ですが、もっと広く、世の中のすべてのものを関係づけて意味あるものに組み立てていくという意味を持っていると言えるでしょう。これもまた生きものの中でも起きていることです。糸から編み上げた物質をさまざまに組み合わせてはたらかせています。

実は、年刊号はまさに「季刊生命誌」の中での「編む」という役割を荷っています。この一年間、研究や語り合いを通して出会い、学んだ多くの事柄を編むことによって、私たちは何がしたいのか、何を伝えたいのかをより深く考えることができます。そのような成果として是非手にとっていただきたいと思います。

新しい社会を編み上げていかなければならない今、「生命誌」を一緒に考えていただきたいという気持をこれまで以上に強く持っていますので、さまざまな形で参加して下さい。

中村桂子