戻る

やまだようこ

世代をむすぶ
――やまだようこ著作集10巻


    

A5判344頁

定価:本体3200円+税

発売日 12.1.30

ISBN 978-4-7885-1268-9

◆amazon.co.jpへ
cover

◆紀伊國屋書店Books Web へ

◆7ネットショッピングへ



◆人生と学問◆

本巻は、多くの対話から成っていますが、相手によって、時期によって、場所 によって、聴衆によって、語りの展開のしかたも微妙に違い、語り口もいろい ろです。しかしそれは、「ズレのある重ねの語り」です。「どのようにして研 究者になったか?」「人生の転機は?」「人生と学問の関係は?」「なぜ質的 研究をはじめたのか?」「質的研究とは何か?」など、著者の研究者としての 人生が、青年期から中年期まで、具体的に、率直に語られています。生きつづ けるということは、同じ状態を維持することではなく、新陳代謝によって死と 再生を繰り返す営みです。世代を超えて何かを受け継ぎ、また次の世代に継い でいく「生成と継承」の営みは、ひとすじ縄ではいきません。困難ですが、ま た歩む甲斐のある道です。若い研究者への励ましの書であり、研究と人生の深 い考察へと誘う書と言えるでしょう。


やまだようこ著作集 http://www.shin-yo-sha.co.jp/series/youko_yamada.htm

世代をむすぶ 目次

世代をむすぶ まえがき

Loading

世代をむすぶ―目次

はじめに

T 世代をむすぶ
  ――語りを重ねあわせて

1 発達研究のおもしろさ
  ――対談*やまだようこ・明和政子
 1 私たちの原点――『ことばの前のことば』
 2 「科学」とは?――相互作用と変化プロセスをとらえる科学へ
 3 「発達」とは?
 4 人生と研究――母として研究者として
 5 著作集の刊行――再び『ことばの前のことば』 
 6 世代をむすぶ 

2 質的研究への道――やまだ流・研究方法論
  ――インタビュー*(話し手)やまだようこ・(聞き手)戈木クレイグヒル滋子
 1 なぜ「ひらがな」の名前に?――「名前」のライフストーリー
 2 「ライフストーリー」とは?
 3 「ものの見方」の転換
 4 ライフストーリーの語り直し
 5 質的研究のトレーニング
 6 モデル構成的現場(フィールド)心理学
 7 KJ法とグラウンデッドセオリー
 8 『質的心理学研究』のめざすもの
 9 看護学に期待する

3 質的心理学の来し方と行方
  ――対話*大橋英寿・やまだようこ 
 1 フィールドワークと質的研究
 2 良いインタビューとは?
 3 村人と旅人
 4 「旅日記」を超える

4 質的心理学は何をめざすか
  ――座談会*無藤隆・麻生武・やまだようこ・サトウタツヤ・南博文
 1 質的心理学とは? 
 2 質的研究と諸科学のターン 
 3 質的研究の法則性とは?
 4 現場の経験をすくう質的研究
 5 「生成」を重視する質的研究


U ふたつながら生きる
  ――生きることと学問すること

5 私のライフストーリー――青年期から中年期まで
  ――インタビュー*(話し手)やまだようこ・(聞き手)竹内一真 
 1 大学時代――動物実験 
 2 臨床現場へ――自閉症児の心理臨床
 3 26歳の転換――臨床現場から大学院へ
 4 大学院時代――乳児の実験的研究
 5 35歳の転機――『ことばの前のことば』 
 6 質的研究と認識論 
 7 日本文化の発想と質的研究 
 8 ポスト・グランドセオリー時代の質的研究
 9 中年の転機――ナラティヴ研究へ
 10 エリクソンと生成継承性(ジェネラティヴィティ) 
 11 ナラティヴと方法論 
 12 「両(りょう)行(こう)」という生き方 

6 ふたつながら生きる――人生なかば 
 1 「いく」と「とどまる」 
 2 「いく」と「まつ」 
 3 「かれる」と「うまれる」 
 4 「かれる」と「花さく」 
 5 「もどる」と「かさねる」 
 6 「かさねる」と「かたる」 
 7 「おりる」と「おちる」 
 8 「みる」と「きく」 

初出一覧
索   引 
カバー写真=林 恵子/装幀=虎尾 隆


世代をむすぶ まえがき
はじめに

■年をとるとは?

 カナダのバンクーバー、早い紅葉がはじまり、日差しがあたたかい日でした。やがて夕陽が沈んでいく海をのぞむ散歩道には、木の長椅子がいくつも並んでいました。ひとつひとつの椅子の背には、亡き人々に語りかける小さなプレートがついていました。ほとんど目立たないものでしたが、「一行語り」の贈りものと気づきました。

 私は、ひとりで椅子から椅子へと訪ねて、錆びたプレートに刻まれていた「一行語り」を読み歩きました。そして、今はもうここにいない人々や見知らぬ人々と、時空を隔てて会話を交わしました。  つぎつぎと、いくつの椅子を訪ねたでしょうか。ずいぶん歩いて疲れて、やれやれと腰かけた椅子の背もたれを見ると、「ここはあなたが愛した場所ですあなたを愛する家族より」と書かれていました。

 長椅子にゆったりと腰かけながら、光に満ちたおだやかな海をぼんやりと眺めていました。海と空の境界は溶けかかっていましたが、どちらも澄んで深い蒼色をしていました。  そのとき「年をとるとは?」という問いがふってきました。この問いは、折りにふれて自身に問うてきたものでしたが、「そう、今なら応えられそう」と思いました。

 以前にバンクーバーの海を眺めたのは、いつだったかしら。そう、はじめて海外に滞在して帰国する前だったから、ちょうど同じ季節でした。家族4人で来ました。帰国間際のあわただしい訪問で、水族館には行ったけれど、海辺の長椅子にゆっくり坐っているような余裕はありませんでした。

 そのとき、私はいくつだったかしら。指折り数えてみると、31歳だったはずです。そのころ、私は大学院を出て就職したばかりで、研究者になることは決めていたけれど、何が自分のなすべき仕事か、まだ何もわかっていませんでした。子どもたちも、まだ小さくて、たしか2歳と5歳でした。  それから......いつのまにか30年以上の月日がたちました。人生サイクルはひとまわりして、子どもたちが親になり、孫たちも生まれました。

「年をとるとは?」それは、ひとつの風景が、ほかの風景と幾重にも重ねあわさって見えてくることかもしれません。

 今ここで海を見ていると、30年以上前に見た海の景色が重なって思い出されてきます。人生のさまざまな局面で見てきた、いくつもの記憶のなかの海も、少しずつズレながら重なってきます。どれも幸福な風景ばかりとは限りませんが、海の色も、空色、蒼色、紺色から虹色、紅色、金色、玄色に染まり、濃淡陰影さまざまに幾重にも綾織りに見えてきます。地球がゆっくり自転していく動きさえ感じられます。長い年月を重ねてくると、若いときには見えなかった人生風景が見えてきます。それは、年をとったからこその醍醐味でしょう。

「年をとるとは?」それは、かつて誰かが私に向かって語った声かもしれないし、私が誰かに向かって語った声かもしれません。それらの声が、年をとるごとに、少しずつズレながらいくつも重なりあって、協奏するこだまのように響いてきます。

 それらのさまざまな声は、誰が誰の声とも聞き分けられなくなっても、いつかまた、つぎつぎとほかの人の声と重なって、少しずつズレたりかすれたりしながら、綿々と続いていくかもしれません。

 耳をすましていると、「今ここで、誰にも聞きとられない声があっても、心配しなくてよいよ」という声もかすかに聞こえてきます。いつかずっと先になって、みんなが忘れてしまっても、そっと吹く風のように、小さな波の音のように、誰かの胸に響いていくかもしれないから......。

■語りを重ねあわせて

 本巻は、テーマも内容も語られたエピソードも「ズレのある重ねの語り」で成っています。相手によって、時期によって、場所によって、聴衆によって、語りの展開のしかたも微妙に違い、語り口もいろいろです。その場でしか語られない、ライブの語りのいきいきした調子や、多重ナラティヴの重なりとズレを、縦横に楽しんでいただけるように、できるだけ手を加えないように、語られたままのかたちで編みました。

 本巻は、さまざまな世代や専門の方々と、いろいろな機会に語りあった、ナラティヴ実践の記録といってもよいでしょう。語りの相手も目的も時期も場所も聴衆も違います。語り方も多様で、対談、対話、座談会、インタビュー、モノローグなどが含まれています。

 ふしぎなことに、あらかじめ語りのテーマは決まっていなかったのに、焦点をあてられたテーマは、「どのようにして研究者になったか?」「人生の転機は?」「人生と学問の関係は?」「なぜ質的研究をはじめたのか?」「質的研究とは何か?」など、どこか似かよっていました。

 前半の「世代をむすぶ」には、質的心理学会を設立した2004年当時に、質的心理学や質的研究にかかわって、先達や仲間たちと交わした議論を多く収録しました。それぞれの個性の違いや多様性も含めて、草創期の熱いこころざしや気迫などが伝わってくると思います。

 後半の「ふたつながら生きる」は、私的な語りです。それにしても、他の人々のライフストーリーを聞きとることはあっても、自分の研究者としての人生を、青年期から中年期まで、これだけ具体的に語ったのは、はじめてのことです。竹内さんとのインタビューは、彼が大学院に入学したばかりのころ、彼のリクエストに応じて行ったものです。もともとはこのようなかたちでの発表を考えていなかったので、気恥ずかしさが先にたちます。また、「人生なかば」は、中年危機の迷いのさなかに「現在進行形」で綴ったものですから、激しく暗転する色調を帯びています。でも、「まあ、いいか!」と恥を捨てられるのも年の功かもしれません。

■生成と継承

 本巻は、私が2012年春に、15年間勤めた京都大学大学院教育学研究科を定年退官する時季にあわせて編集されました。

 副題の「生成と継承」は、ジェネラティヴィティ(generativity生成継承性)からきていますが、世代を超えて何かを受け継ぎ、また次の世代に継いでいく営みは、ひとすじ縄ではいきません。継承するということは、次世代を育てケアしていく働きであるとともに、新しいものを生成しつづけるいきいきした働きでもあるでしょう。生きつづけるということは、同じ状態を維持することではなく、新陳代謝によって死と再生を繰り返す営みであるように。

 まだまだ研究の途上で、「学成り難し」を実感する日々ですが、まがりなりにも今日まで元気に研究を続けてこられたのは、多くの先達や先生、仲間や友人、後輩や教え子たちに、豊かに恵まれてきたおかげです。まことに、ありがたいことで、感謝、感謝でいっぱいです。

 本巻をつくる上でも、多くの方々にお世話になりました。共に語りを紡ぎ出してくださった方々に、心より御礼を申しあげます。明和政子さん、戈木クレイグヒル滋子さん、大橋英寿さん、無藤隆さん、麻生武さん、サトウタツヤさん、南博文さん、竹内一真さん(掲載順)、ありがとうございました。プロトコル作成には、西山直子さん、高橋菜穂子さんに御協力いただきました。また、快く転載を許可してくださった出版社の方々にも、深く感謝いたします。

 長いあいだ仕事を共同生成してきた同行者でもあり、本巻の編集に携わってくださった新曜社の塩浦ワさんにも、本当にお世話になりました。

 最後に人生の伴侶として支えつづけてくれた夫や子どもたち、そしていつかこの本をひもとくかもしれない孫たちにも、この本を謹んで捧げたいと思います。

2012年春に
やまだようこ