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渡部信一 著

超デジタル時代の「学び」
――よいかげんな知の復権をめざして


    

四六判264頁

定価:本体2700円+税

発売日 12.2.10

ISBN 978-4-7885-1267-2

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◆新しい時代の「学び」を探る◆

従来のデジタルテクノロジーは、あいまいさのない「きちんとした知」は得意 でも、複雑な対象を複雑なままに捉える「よいかげんな知」はお手上げでした。 しかしそういう知こそ、われわれに求められるものです。幸いデジタルテクノ ロジーは、このような「人間的な側面」、つまり「アナログな側面」にアプロ ーチできるまでに進歩し、「超デジタル」時代を迎えています。そして、従来 の「学び」を大きく変化させる可能性をもたらしました。本書は、超デジタル 時代の技術を活用した新しい「学び」のすがたを、「eカウンセリング」「イ ンターネットスクール」「伝統芸能デジタル化」「ミュージカル俳優養成」 「師匠の思いデジタル化」などの具体例をとおして示します。著者は、東北大 学教授。

弊社・渡部信一先生の本『障害児は「現場」で学ぶ』


超デジタル時代の「学び」 目次

超デジタル時代の「学び」 まえがき

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超デジタル時代の「学び」 まえがき

はじめに

 私が生まれ育った20世紀後半は、科学やテクノロジーが飛躍的に発展し続けた時代だった。次々と家の中の風景を変える新しい電化製品。モノクロテレビ、カラーテレビ、冷蔵庫、ステレオ、自動車、エアコン、電子レンジ、そしてコンピュータ ・・・ 新しいテクノロジーが家に届くたび、私はワクワク幸せな気分に浸っていた。そのような生活の中では当然、近代西洋的・科学的な知的スタイルが「真実を知るための唯一の方法」と考えられていた。あいまい性の無い正確で明確な知識を系統的に学び蓄積してゆけば、このまま未来永劫「テクノロジーの発展に基づいた幸せな生活」は続くものと思われた。

 私が新しいテクノロジーに対しあまりワクワクしなくなったのは、たぶん20世紀もまもなく終わろうとする頃だろう。テクノロジーの発展に対し幸福感よりはただ「むなしさ」だけが感じられ、「何かが間違っている」とすら感じるようになった。

 コンピュータを活用すれば効率的に仕事は進み、人間はあまった時間をのんびりと趣味や家族との団らんに費やすことができる。このような「夢のような話」はバブル経済の崩壊とともに消え去り、あいかわらず過酷な残業をこなす日々に人々の心はすっかり疲弊している。人々の「ストレス」は増大し続け、自殺や悲惨な事件が毎日のようにマスコミで報道される。

 このような社会に対し多くの人々が閉塞感を持ち、多くの知識人が「生活を昔に戻そう」という主旨の言説を繰り返している。「エコな生活をしよう」「村の暮らしを取り戻そう」「コンピュータを捨てて畑を耕そう」・・・。

 しかし ・・・ と、私は思わずにはいられない。現実に日々暮らしている今の生活をどのように変えろというのだろう。子どもたちからゲームを取り上げ野山で遊ばせようとしても、私たちが幼い頃よく遊んだ近くの野山は今はもうない。職場にあるコンピュータをすべて取り払って、はたして明日から仕事になるのか。ますます複雑になる社会システムを変えようとしてもそう簡単ではないことを、誰もが知っている。今の社会システムからコンピュータを取り去ったとしたら、それこそ大混乱が起こるだろう。

 はたして、私たちにとって何が「次の一歩」となるのだろう。私たちの目の前に広がる「のっぺりとした現実」を変えるための「次の一歩」とは、どのようなパラダイムなのだろう?

 本書では、その「次の一歩」をあえてデジタルテクノロジーに求めてみた。これまで私たちをワクワクさせてくれた、そして今は大きくその魅力を失いかけているデジタルテクノロジー。そのデジタルテクノロジーが、それも中途半端なものではなく最先端のデジタルテクノロジーが、もう一度日本文化や日本人の心を、そして知的スタイルを私たちが取り戻すための大きな契機になる。それを信じて、私はもう一度、最先端のデジタルテクノロジーを検討の土俵に上げてみたいと考えた。

 これまで「デジタル」という概念には、分析的、効率的、そしてあいまい性が無く正確 ・・・ などのイメージが伴っていた。そして確かに、デジタルテクノロジーは人間にとって「便利な道具」となり、人手で行えば多くの時間と手間が必要な作業を短時間で、そして効率的に実施することができるようになった。しかし一方で、そのような「デジタル」の側面がどうも「人間の本質」にはしっくりこないという感触があったことも事実である。

 ところが、近年のデジタルテクノロジーは、人間の「人間的な側面」つまり「アナログな側面」にまでアプローチすることができるまでに発展している。例えば、コンピュータが持っている処理能力の著しい向上は、対象を細かく分解しそれぞれの部分を客観的に分析するだけでなく、対象を「丸ごと」取り扱うことを可能にした。このことによって人間の感性を刺激し、「理屈ではなく直感的にわかる」あるいは「リアリティを持ってわかる」ことが可能になりつつある。つまり、デジタルテクノロジーの発展は単なる「便利な道具」にとどまらず、「人間の本質」にも大きく影響を及ぼす段階に入った、ということである。デジタルテクノロジーは、私たちの生活スタイルを変えるだけでなく、ものごとに対する認識の仕方や考え方にも少なからず影響を及ぼすまでに発展しているのである。

 今の時代に必要なチャレンジは、著しい発展を遂げたデジタルテクノロジーを強力な武器として、目の前に広がる「のっぺりとした現実」を大きく揺さぶることである。そのことによって、デジタル的パラダイムを大きく超えた「超デジタル」という世界が立ち現れてくるのである。

渡部信一

超デジタル時代の「学び」―目次

はじめに 



序章 「超デジタル」な時代がやってきた 

    テクノロジーにワクワクした頃
    コンピュータとの出会い、そしてデジタル時代
    デジタル時代の行き詰まり
    モノやコトが記号化した時代
    アナログな「知」の情報量
    デジタル時代の教育とその崩壊
    「超デジタル」な時代がやってきた
    「超デジタル」な時代の新しい「学び」
    「超デジタル」な学びを探求する7つのプロジェクト


第T部 「超デジタル」な学びとは何か

1・1 デジタルな学習、そして「超デジタル」な学び
    人生すべてを保存する
    「完全記憶」のメリットとデメリット
    「記録」と「記憶」
    「きちんとした知」から「よいかげんな知」へ
    デジタル時代における学習の常識
    学習者が置かれた状況や文脈の無視
    「学習」から「学び」へ
    日本の母親は「しみ込み型」育児
    教育における「教え込み型」と「しみ込み型」
1・2 複雑な日常に「やわらかな態度」で向かう
    あいまいで複雑な日常生活の中で
    「うどんの中にネギを入れる」のは簡単か?
    予期しなかった出来事
    マクドナルドでチーズバーガーを買おう
    ロボット開発における行き詰まり
    「認知科学」の誕生
    複雑な対象には「やわらかな態度」をとるという考え方
    「eカウンセリング」プロジェクトの背景にあるもの
    肩の力を抜いたとき発揮される力
1・3 「しみ込み型の学び」とは何か
    伝統芸能はどのように継承されるか
    伝統芸能継承の「場」
    お囃子と舞のあいまいな関係
    分けることができない師弟関係
    日本文化に生きる「しみ込み型の学び」
    師匠の「思い」をCGで再現する
    師匠から弟子に伝わるもの
    複雑な対象を複雑なままに扱う
1・4 「しみ込み型の学び」をテクノロジーで支援する
    シャノン
    人から人へ「きちんと伝える」
    子ども集団の中にある「学び」
    「ありがとう」とコミュニケーションの基本的な関係
    デジタルテクノロジーによる学習支援
    「学び」に対するテクノロジーの役割
    複雑な対象に対する能動的な態度
1・5 複雑な対象を捉える「よいかげんな知」
    「間違うこと」は悪いことか
    状況に合わせて「手を抜く」
    「よいかげんな知」とは何か
    複雑な対象を複雑なままに捉える
    熟達者だけが持つ能力とは?
    「複雑な対象」を捉えるのは「よいかげんな知」の力
    「意味」を捉える「よいかげんな知」
    役者養成所における重要なしくみ
1・6 「超デジタル」な時代の大学教育
    ISTUプロジェクトにおける本当の意義
    テクノロジー発展の可能性
    大学における学習の「強制力」
    「しみ込み型の学び」はアメリカにもあった
    eラーニング、対面講義、そして「日常」の学び
    大学における教養教育とは何か
    「よいかげんな知」と教養教育
    「リアリティ」ある知識をじっくり学ぶ
1・7 例えば、「妖怪は存在する」という知
    「きちんとした知」の拡大と「よいかげんな知」の衰退
    「妖怪」とは何か?
    「妖怪の存在」と人間の認識
    「妖怪は存在する」という知と豊かな精神世界
    人間にとっての「妖怪は存在する」という知
    超デジタル的存在としての鉄腕アトム
    妖怪とデジタルの間を埋めてゆく


第U部 「超デジタル」な学びプロジェクト

2・1 「eカウンセリング」プロジェクト
    「eカウンセリング」プロジェクト始動
    4つのレベルで行うカウンセリング
    最先端のテクノロジーと「ほっとブース」
    バーチャルカウンセリングへの挑戦
2・2 「東北大学インターネットスクール」プロジェクト
    「eラーニング・バブル」の中で
    「東北大学インターネットスクール」開設前夜
    「eラーニング・バブル」の状況
    「インターネットスクール」の実際と現在
    「インターネットスクール」の発展
    ISTUプロジェクトは、私に何をもたらしたか
2・3 「伝統芸能デジタル化」プロジェクト
    プロジェクトにおける2つの目的
    子どもたちに受け継がれる300年の伝統
    八戸法霊神楽のモーションキャプチャ
    モーションキャプチャの実際
    完成したデジタル教材
2・4 「師匠の思いデジタル化」プロジェクト
    継承の「場」をデジタル化する
    バーチャル神楽殿の制作
    CGに対する神楽士の反応
    衣装と江戸時代の八戸を再現する
    CG神楽殿の上で師匠のCGを踊らせる
    2010年、「3D立体視」の試み
2・5 「ミュージカル俳優養成」プロジェクト
    わらび座DAFと養成所
    モーションキャプチャの実際
    「津軽じょんがら節」のモーションキャプチャ
    データのフィードバック
    「デジタル」の利点
2・6 「鉄腕アトム&自閉症」プロジェクト
    「デジタル感覚」を持つ自閉症児
    ロボットと自閉症を一緒に考える
    自らコミュニケーションを始めた晋平
    「指書」出現その後
    本プロジェクトにおける2つの特徴
2・7 「超デジタルな学びの創発」プロジェクト
    CG制作による「学び」の創発
    プライバシー保護のためのCG化
    3DCG映像のメリットとデメリット
    小山自身に生じた変化
    「観察者=制作者」の視点
    もうひとつの3DCG制作の試み
あとがき
プロジェクトの概要

文献

                             装丁 桂川 潤
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