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角山 剛 著

産業・組織
――キーワード心理学12 


A5判152頁

定価:本体1900円+税

11.12.26

978-4-7885-1266-5

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◆キーワードで学ぶ産業・組織心理学!◆

効率一辺倒の組織は働く人に閉塞感を与え能力を発揮しづらくさせ、結局良い 成果を挙げることはできません。人びとが安心して働ける組織作りの重要性は もはや常識といえるでしょう。産業・組織心理学は、産業の効率を上げる条件 を追求するとともに、人びとが生き生きと可能性を開花させて成長できる組織 作りに効く応用学問です。本書では、仕事への動機付け・満足感、集団での意 思決定、リーダーシップやソーシャル・サポート、人事評価など、選りすぐり の30のキーワードから誰でもそのエッセンスを学び、問題解決につながるヒン トを得られるでしょう。著者は東京未来大学教授。


産業・組織 目次

産業・組織 まえがき

◆「キーワード心理学」シリーズ

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産業・組織―目次

産業・組織心理学とは その歴史的発展
 科学的管理法とホーソン実験 組織における人間観の変遷
 仕事と自己実現 何のために働くのか
 期待と動機づけ 期待・誘意性・道具性
 目標と動機づけ 目標設定理論
 仕事満足感を規定するもの ハーズバーグの2要因理論
 意欲測定の方法 モラール・サーベイの考え方
 キャリア発達 自ら切り開く道のり
 組織コミットメント 組織への忠誠と貢献
 バーンアウトとうつ病 過労から身を守るために



 集団のまとまり 集団凝集性と集団規範
 集団の意思決定 そのメリットと危険性
 集団内コミュニケーション 上司と部下のコミュニケーション戦略
 他者からの影響・他者への影響 コミュニケーション促進上の注意
 リーダーの特性と行動 特性論から行動次元へ
 状況に対応したリーダーシップ 「ベストマッチ」を求める
 新しいリーダーシップ研究 リーダーシップ研究のニューウェーブ
 企業内教育 人材の育成に向けて
 ソーシャル・サポート 職場の対人関係を支える
 異文化との共生 異文化理解の重要性



 人と組織の適合 人と組織のよりよい関係
 人事評価 何を評価するのか
 性役割 女性の職場進出を阻むもの
 職場のいじめ 弱者を追いつめる嫌がらせ
 内部告発 ホイッスルを鳴らす人
 経営と倫理 ビジネス・エシックスとは
 フリーター 就職しない若者たち
 広告と購買行動 消費者行動の心理
 マーケティング・リサーチ 消費者行動を探る
 職場の安全 事故を減らすために

 参考書
 引用文献
 人名索引
  事項索引


装幀―大塚千佳子
カバーイラスト―いとう 瞳


産業・組織 まえがき


 心理学の知見はさまざまな場面に応用されていますが、仕事場面も例外ではなく、その歴史は今から100年以上遡ることができます。当初は産業心理学の名称で体系化がなされてきましたが、やがて組織における人々の行動にも強い関心が向かい、現在では産業・組織心理学として多くの研究が蓄積され、今このときにもさらなる発展を遂げつつあります。

 私は今から40年以上も昔に大学の心理学科に入学しました。高校時代の私はあることがきっかけで心理学に興味をもったのですが、労務管理という分野で仕事をしていた父親の影響もあって、仕事の中で心理学がどのように活かせるのか、心理学と仕事との結びつきに漠然とした関心をいだいていました。ところで、当時はいわゆる大学紛争というものが高校にも波及していた時代であり、高校3年生の私もその波に翻弄されていました。さまざまな学問分野が批判に晒され、今では考えられないことですが、産業と学問が親密な関係を持つことが、両者の「癒着」であるとして厳しく糾弾された時代でした。この産業と学問の関係ということを心理学について考えている中で産業心理学なるものがあることを知り、当時はまだまだ少なかったのですが、その分野が学べる大学の心理学科に進み、以来あちこち寄り道を重ねつつ、産業・組織心理学の一学徒として今日に至っています。

 最近は多くの大学で、産業・組織心理学、組織心理学、あるいはビジネス心理学などの名称で授業が開設されるようになりました。しかしその扱いは、数ある心理学科目の一つに過ぎなかったり、もっというなら心理学の中での教養科目程度の位置づけに留まっているところが少なくありません。そもそも心理学の一領域としての産業・組織心理学に関心をもつ学生の皆さんの数が、残念ながら多くはないのです。これは、大多数の学生にとって、産業界やビジネス界というのはまだ経験のない世界であり、大学に入ってから初めて学ぶ心理学との結びつきがイメージできないところに大きな原因があるように思います。その名称からしても、心理学を志向する学生にとっては実務への応用的色彩が強い、ちょっと近づきにくい領域であるかもしれません。

 けれども、産業・組織心理学は決して学生の皆さんと縁遠い領域ではありません。たとえば、アルバイト先で責任ある立場を任されたとき、どうすれば皆のやる気が高まり気持ちよく働けるか、どうすれば売り上げを伸ばすことができるかといったことに心を砕く必要が出てくるでしょう。経験者として新人の訓練を任されるかもしれませんし、事故やトラブルが多ければその対策も考えなければなりません。こうした問題は、実は産業・組織心理学の中で取り上げられる多くの研究テーマとも結びついているのです。やる気や仕事への満足は、仕事動機づけや職務満足、仕事コミットメントといったテーマの中で研究が展開されていますし、職場内訓練や事故防止・安全行動も、産業心理学の時代から今日に至るまで続いている重要なテーマです。

 もう一つ例をあげてみましょう。最近はインターネットを通じてのオンラインショッピング、いわゆるネットショッピングが日常的になってきました。ネットショッピングでは、商品の実物を手にすることなく、写真や添付の説明、あるいは口コミなどを通じて購入するかどうかを判断します。売り手の立場に立てば、どのような広告が販売促進に効果があるのかを知ることは、まさに死活問題となります。広告が人々に与える影響については、産業心理学の黎明期にはすでに重要なテーマとして研究がなされており、消費者行動の心理学として現在に至っています。

 このように産業・組織心理学は、会社に入らなければ必要がないというものではなく、私たちの日常とも深く関わる心理学領域なのです。

 もちろん、会社に入れば仕事の場面で多くの問題にぶつかることでしょう。本書では、採用選考、人材教育、動機づけ、リーダーシップ、キャリア発達、人事評価、マーケティング、安全管理など、さまざまなトピックスを取り上げ、「仕事と個人」「組織の中の人間」「人と組織の調和」の3つのパートにまとめて、産業・組織心理学の視点から問題を整理し研究動向を紹介しています。また、産業・組織心理学は社会心理学領域とも深い関わりをもっており、社会心理学の研究知見も随所に出てきます。読者の皆さんには本書を通じて広い心理学的視野を持っていただければ幸いです。

 1990年代初頭のいわゆる経済バブル崩壊後、日本は長い景気低迷の時代に入りましたが、その中で私たちの働き方にも変化が生じています。たとえば、成果主義の広がりとともに賃金格差も広がっています。転職を恥ずかしいと考える意識は薄れています。非正社員やアルバイトなど不安定な雇用の下で働かざるを得ない人たちも増えています。過酷な労働条件の下で心を病む人も増えています。フリーターの増加も大きな問題です。頻発する企業不祥事は組織における倫理観の低下を感じさせます。本書ではこうした問題も取り上げ、産業・組織心理学の観点から論じてみました。

 本書をまとめるにあたっては、当時在職していた東京国際大学での私の研究室の大学院生(社会学研究科修士課程)であった、長内優樹君、齋藤由夏さん、塩川聡子さん、中込充信君の協力を得ました。現在は進学や就職でそれぞれの道を歩んでいますが、当時精力的に資料を集めて草稿の準備を整えてくれるなど、遅れに遅れていた私の執筆を4人が協力して支えてくれました。ここに記して感謝の意を表します。

 私は本年9月に、それまで長く勤めた東京国際大学から東京未来大学に移籍しました。本書が移籍後初の本になります。完成が遅れたのはひとえに私の怠慢からであり、今日まで原稿の遅れを辛抱強くお待ち下さった、新曜社塩浦ム社長、編集部の松田昌代さん、田中由美子さん、a橋直樹さんに、お詫びと深甚なる感謝の意を表します。特にa橋さんには、本書の完成に至るまで緻密なチェックとたくさんの有益なコメントをいただきました。あらためて御礼申し上げます。

2011年12月
角山 剛