戻る

村田厚生 著

福島第一原発事故・検証と提言
――ヒューマン・エラーの視点から


四六判144頁

定価:本体1400円+税

発売日 11.11.01

ISBN 978-4-7885-1260-3






◆限界のない原子力事故とどう向かい合うべきなのか◆

原発問題にかかわる本が次々上梓されていますが、本書は、ヒューマンエラー の視点から過去現在の原発事故を検証した上で、政府・自治体、事業者、市民、 プラントメーカーに提言し、事故に対する総合的対策を示している点が、他書 にない特色です。福島第一原発で何が起こったのか、過去のスリーマイル島原 発事故、チェルノブイリ原発事故、そして福島第二原発、美浜原発、志賀原発、 JCO、柏崎刈羽原発、浜岡原発ではどうだったのか。これらの事故・トラブ ルに共通する、オペレータ、機器の設計、マネジメントにわたる問題とは何だ ったのか。原発は人間の営みであるということの再確認から、あるべき対応の 姿が見えてきます。著者は岡山大学大学院自然科学研究科教授。


福島第一原発事故・検証と提言 目次

福島第一原発事故・検証と提言 まえがき

Loading

福島第一原発事故・検証と提言―目次

まえがき

第1章 福島第一原発事故―福島第一原発で何が起こったか 

第2章 事故の特性―ヒューマン・エラーの科学が教えるもの 
     2・1 事故の背後要因
     2・2 事故の予測不可能性
     2・3 大事故は些細な事故の積み重ねの結果として発生する
     2・4 事故の繰り返し性
     2・5 事象の連鎖
     2・6 事故はヒューマン・エラーが引き金となる場合が多い
     2・7 事故の背後にはマネジメントの要因が必ず存在する
     2・8 事故の背後には違反行動・情報隠蔽が潜んでいる
     2・9 事故の背後には必ず効率重視(安全性<効率)
            の考え方へのシフトがある

第3章 これまでの原発事故・トラブルの事例 
     3・1 スリーマイル島原発事故(1979年3月)
     3・2 チェルノブイリ原発事故(1986年4月)
     3・3 福島第二原発再循環ポンプ破損事故(1989年1月)
     3・4 美浜原発第2号機ギロチン破断事故(1991年2月)
     3・5 志賀原発臨界事故(1999年6月)
     3・6 美浜原発配管亀裂事故(1999年7月)
     3・7 JCO臨界事故(1999年9月)
     3・8 柏崎刈羽原発事故(2007年7月)
     3・9 浜岡原発運転停止(2009年8月)
     3・10 原発の事故・トラブルから見えてくるもの

第4章 福島第一原発事故の背後要因 
     4・1 福島第一原発事故の背後要因――機械の要因
     4・2 福島第一原発事故の背後要因――マネジメントの要因
第5章 福島第一原発事故からの教訓―限界のない原発事故とどう向き合うか 
     5・1 政府・自治体・政治のなすべきこと
     5・2 事業者のなすべきこと
     5・3 市民のなすべきこと
     5・4 プラントメーカーのなすべきこと
     5・5 災害時の人間の心理を理解した上での減災対策
     5・6 社会の総意としての原発事故に対する総合的対応計画の策定

あとがき
参考図書


福島第一原発事故・検証と提言 まえがき

 2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とする大地震が岩手、宮城、福島を中心とする東日本の太平洋沿岸を襲った。東日本大震災の被害は死亡者数、行方不明者数は約2万人である。現段階では、この地震と津波の影響で福島第一原発の1~4号機の事故が発生し、1~3号機に関しては、非常用の炉心冷却システム(ECCS)をはじめとした安全システムが作動せず、原子炉圧力容器内で炉心溶融が生じ、さらには4号機の使用済み核燃料貯蔵・冷却用プールが機能喪失し、放射性物質が外部環境へ拡散したと考えられている。これは国際評価尺度で「レベル7」に相当し、わが国は国家存亡の危機に面している。福島第一原発の周辺住民の方々が、地震・津波・原発事故の3つの事象の連鎖によって、多大なる犠牲を強いられている。

 東日本大震災以前から、多くの専門家によって、高い確率で地震による原発事故の可能性があることが予測・警告されていた。そして、37~40年周期で三陸沿岸に発生する津波による災害を予測する人もいた。さらに、わが国においても、今回の原発事故に匹敵する大事故に発展する可能性のあった原発関連の事故(たとえば、JCO臨界事故(1999年9月)、柏崎刈羽原発事故(2007年7月)、美浜原発配管亀裂事故(1999年7月)など)が頻発しており、これらに対する反省のなさから、いずれ大きな原発事故が発生するのではないかと危惧されていた。

 にもかかわらず、政府・原子力安全保安院・東京電力をはじめとする原発の安全運転に責任がある組織は、これらの警告に対してあえて眼をつむっていたのではないかと疑われる節がある。原発は、ある意味では、われわれにエネルギー面で利益をもたらすシステムであることは確かであるが、一歩間違えれば今回の福島第一原発事故のように社会に限界のない損失をもたらす危険をはらんでいる超巨大システムである。このような複雑でいったん暴走するとなかなか歯止めをかけられないシステムに対して、政府が述べているような「絶対安全を確保する」などという聞こえの良い言葉を安易に使うことはできない。

 人間の叡知の限りを尽くして、津波、地震、さらにはテロや外敵に対しても備えられるだけの力量がなければ、原子力関連事業の安全確保に最優先で取り組み、原子力行政に対する国民の信頼を回復するなどと軽々しく口にしてはならないはずである。「想定外」などというような都合のいい逃げ口上を使っている行政組織・事業者では、絶対安全など実現できない。万が一のときには福島第一原発事故のように取り返しのつかない危機に瀕するわけである。避難された被災者の方々の苦悩を考えれば、「原子力行政」においては、「想定外」は許されないのである。

 しかし、これまでの原子力推進行政等から判断して、「今日も安全であるから、きっと未来も大丈夫、大規模自然災害などめったに発生するものではない」といった安全に対する考え方の未熟さ、未成熟さを指摘せざるを得ない。実際に、民主党が政権を奪取した際の民主党政策集INDEX2009で"安全を最優先した原子力行政"と述べられているものの、この約束が国民に対して全く履行されずに、現在の福島第一原発の惨事に至っている。

 わが国としてもこれまでの安全に対する他人任せの考え方を改める大きな転換期にさしかかっているのではないか。われわれは、種々の便利な環境に慣れてしまったが、この便利さという光に対する影の部分には、近代社会が生み出した不確実で限界のないリスクが存在している。限界のないリスクと向き合っていかねばならないわれわれにとって、福島第一原発事故の背後に存在する問題点を認識し、これを今後いかに活かしていくかはきわめて重要である。

 本書では、まず、福島第一原発で何が起こったのかを整理し、さらに、これまでの原発関連の事故についても概観する。そして、福島第一原発事故における問題点を指摘し、過去の事故から何を学ぶべきか、これをどう活かすかについて述べる。最後に、予測しにくく、突発性の高い原発事故のリスクといかに向き合い、安心社会構築のために何をなすべきかを考えてみたい。

 東日本大震災で亡くなられた多くの方々に心から哀悼の意を表するとともに、現在被災地や避難先にて不自由な生活を送られている被災者の皆様にお見舞い申し上げる。一日も早い復興のために、また、第二、第三の福島第一原発事故が国内外で稼動中の原発で起こらない安全な社会基盤を構築するために、一緒に頑張っていきたいと思う。

村田厚生