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小塩真司 著

性格を科学する心理学のはなし
――血液型性格判断に別れを告げよう


四六判208頁

定価:本体2200円+税

発売日 11.10.08

ISBN 978-4-7885-1253-5

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◆科学的に考えることの楽しみを知る◆

ある人のどんな性格について私たちが判断する際、日本において一般に広く受け入れられている判断基準のひとつに、ABO式による「血液型性格判断」があります。しかし血液型性格判断は、心理学においては、実はおよそ百年前に「終わっている」学説です。本書は血液型性格判断が非科学的であることの確たる理由について、心理学が学問として具える科学的な視点から知ることが、通底するテーマです。ほか「心理ゲームは深層心理を当てるのか」「『三つ子の魂百まで』はほんとうか」「子どもの性格は親に似るのか」などといった身近な疑問やエピソードを題材に、性格という「目に見えないもの」について、これまで心理学がどのように探求してきたのかを一般読者向けにわかりやすく紹介しています。

性格を科学する心理学のはなし 目次

性格を科学する心理学のはなし まえがき


◆書評

2012年2月1日、日経広告研究所報 261号、久保田進彦氏評

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性格を科学する心理学のはなし―目次



目 次

まえがき

序 章 なぜ血液型と性格の関連を信じることに反対なのか
血液型性格判断と占いとのちがいは/遺伝とイメージとの結びつき/B型の悪いイメージ/ブラッドタイプ・ハラスメント/暗黙の知能観/血液型による相性判断は固定的知能観/血液型と性格に関連はあるのか

第一章 性格はどこにあるのか パーソナリティ心理学とは
特殊な能力/面接試験にて/「性格の明るさ」ってなに?/性格をみることと行動をみること/性格を言い表すさまざまな英単語/翻訳の難しさ/言い回しの問題?/性格はどこに/パーソナリティ心理学とは

第二章 心理ゲームは深層心理を当てるのか 信頼性と妥当性
測定するということ /運動能力を考える /目に見えないものを測定するには /内容に注目 /関連に注目 /概念に注目 /テストの目的も重要 /妥当性に注目すると…… /測定に不可欠なもうひとつの視点 /誤差を分ける /信頼できる体重計・信頼できない体重計 /信頼性と妥当性の関係 /ある心理ゲームを例に /信頼性を検討する /妥当性を検討する /「深層心理」の妥当性とは /心理ゲームの妥当性は検証されているのか /完全に当てるゲームは危険?

第三章 人間はいくつの種類に分けられるのか 性格の類型論
類型論と特性論 /四体液説・四気質説 /現代につながる四気質説 /クレッチマーの体格−気質関連説 /人々のイメージに残るクレッチマー説 /類型論の問題点 /長い歴史の中で /類型モデルから次元モデルへ /コンピュータの発展とともに

第四章 人間にはいくつの性格があるのか 性格の特性論
ゲームの登場キャラクターの表現方法 /人間の性格を特性として理解する /語彙研究 /因子分析を使って性格次元を探す /ビッグファイブ /五因子理論 /性格を五次元で記述するということ /ビッグファイブの下位特性 /ビッグファイブから就活をみると /五つでは足りないか /五つでは多すぎる? /現代の心理学では

第五章 「三つ子の魂百まで」はほんとうか 横断的研究と縦断的研究
性格は変化しないという説 /赤ちゃんの気質にみられる三つのタイプ /横断的研究と縦断的研究/コーホート研究 /「三つ子の魂百まで」ってほんとう? /メタ分析から /研究からわかること /大人になっても性格は変化しつづけるのか /世代別・性別に性格を比べたアメリカとカナダの研究 /イギリス人とドイツ人の性格を世代別に比べた研究 /日本では

第六章 子どもの性格は親に似るのか 遺伝子の確率的な影響
似ているか、似ていないかという問題 /相関係数に注目 /親子の相関係数は /性格以外では /遺伝の影響を調べるには /多因子形質 /遺伝子が性格に及ぼす影響力とは /遺伝子の確率的な影響は

第七章 性格は遺伝と環境どちらで決まるのか ゲノムワイド関連解析と双生児研究
遺伝優勢か環境優勢か 126/こう思っていませんか /連続的な個人差として /遺伝と環境の影響力をイメージすると /影響力の切り分け /原因の追究は簡単ではない /ゲノムワイド関連解析 /職業経験も影響を及ぼす /双生児研究 /知能指数の双子間相関からわかること /ビッグファイブでは /環境を分解する /影響力の推定値は /家庭環境は性格の形成に不要なのか /不可欠な視点

終 章 血液型から性格を判断できないのはなぜか
「ないこと」は証明できない /性格のある場所 /血液型性格判断という類型論 /血液型と性格の遺伝 /因果関係の連鎖は正しいのか /それでもなお反論したくなる /統計と体験のちがい /どちらかの視点をとる /コミュニケーションの不成立 /どうすればよいのか /良し悪しの判断とは /まじめな性格の良し悪し /ナルシストの良し悪し /良し悪しは変わるもの

あとがき
文  献
事項索引
人名索引

装幀 銀山宏子


性格を科学する心理学のはなし まえがき
 子どもは、「なぜ?」「どうして?」と疑問を大人に投げかけます。私も三人の子をもつ親なので、子どもが「どうして?」ときいてきたときにはできるだけ答えようとするのですが、どうしてもわからないときがあります。そこで「いや、まあ、それはそうなっているものなのだよ」と言ってしまうのは簡単です。しかしできるだけ「それはわからないから調べてみよう」と言うように心掛けてもいます。

 私は、昔から図鑑や百科事典を読むのが好きでした。小学校から帰ってきて夕食までゆっくりしている時間や、居間にテレビがついていて家族と一緒にいるとき、通っていた病院の待合室でも、私の手元にはたいてい図鑑や百科事典があり(学習マンガシリーズもよく読んでいましたが)、一頁一頁の写真や絵と文章を眺めていたものです。今でも、自分の子どものためと言いながら、自分が見たい図鑑を買ってきてしまうこともあります。

 勉強することや知識を得ることと、研究することは同じではありません。図鑑や百科事典に書かれている内容の大部分は、世界中のどこかの研究者が過去に研究したことです。みなさんが学校で「勉強」する内容も、そのほとんどはすでに過去に研究が行われ、多数の研究者によって同意が得られていることなのです。

 「勉強と研究のちがいとはなんでしょうか」という質問を学生からされたことがあります。たしかに小学校時代の夏休みに出される「自由研究」の宿題を想い浮かべれば、勉強と研究のちがいは曖昧にならざるを得ません。たとえば自由研究として「世界の国旗を調べます」という課題を設定すれば、あとは図書館に行って図鑑を広げて紙に国旗を描き、家に持ち帰って整理するようすが想像されます。多くの自由研究には答えが用意されており、ウェブサイトを検索すれば自由研究にふさわしいテーマの一覧をすぐに目にすることができてしまいます。

 こういった「自由研究」と、研究者が行う「研究」とのちがいはなんでしょうか。それは、子どもたちが行う自由研究の多くが「すでに存在する知識を学ぶこと」であるのに対し、研究者が行う研究活動は「新たな知識を追加する作業」であるという点です。では、どこに新たな知識を追加するのでしょうか。それは(大げさな表現ですが)「人類全体の知識」に、です。ただし、一人の研究者が一生かかって人類全体の知識体系に追加できる知識量は微々たるものです。しかも後々誤りだとされることもあれば、追加されたものの何の利用もされず、誰からも忘れ去られて単に記録だけが残る、という場合もあります。しかしそれでも、そういった活動が楽しいから研究者になった、という研究者は多いことでしょう。

 研究者はなにか疑問が浮かぶと、子どもたちと同じように過去の知識を探しはじめます。本を読み、論文を探し、インターネットで検索もします。ここまでは、疑問を抱いた子どもたちと変わりません。ところが、研究者が思い浮かべる疑問の多くは、過去に行われた研究活動で答えが出されていなかったり、出されていてもさらなる疑問が浮かぶような曖昧なものだったり、確実さに欠けたりするものなのです。

 それは、子どもたちであれば、図鑑を調べても大人にたずねてもそれ以上答えがわからず、「お手上げ状態」となるような状況だといえます。ところが、研究者はそういうときこそ楽しくてしかたがなくなるという変わった習性をもっています。そして、どういう方法を採用すれば答えを導きだすことができるのかを考え、その方法を実行し、自分で答えを導こうと試みていきます。非常におおまかなたとえですが、こういった活動が「研究」だといえるでしょう。疑問を抱くことは、物事を追究するための重要な第一歩です。

 みなさんは、どのような性格だと自分で思っているでしょうか。性格という言葉はよく使いますし、日常的に話題になることも多い概念です。ところが、「性格とはなにか」ときかれると、なんと答えればいいのかわからず困ってしまうのではないでしょうか。

 本書では、日常生活のなかで抱きがちな性格に関連する疑問に対して、心理学の研究成果を踏まえながら筆者自身の考えを述べていきます。疑問に対して明確な答えを出すというよりも「考えていくためのヒント」を述べていく形となっていますので、図鑑や百科事典のような明快な答えを求めている方には物足りないかもしれません。しかし世の中には、「今現在はこのような答えがコンセンサスを得られている」「今のところこういう答えがありそう」といった答えしか用意できない疑問も数多くあるのです。その意味で、「研究」しつづけていくべきことが尽きることはありません。本書を読んで、考えつづけるヒントのようなものを得ていただければうれしく思います。

 近年、日本国内のみならず、アメリカ、ヨーロッパの性格心理学会には若い研究者が数多く集まり、盛り上がりをみせています。また、遺伝や脳科学、疫学など他分野と性格心理学が結びつくことで、これまでになかった新たな展開もみられるようになってきています。その一方で、性格心理学の歴史は古く、歴史の中で多くの知識が積み上げられてきてもいます。本書では、このような現在ホットな研究トピックである性格心理学(パーソナリティ心理学)について、その基本的な知識から、最近の注目されている研究までできるだけ触れるように心掛けました。

 加えて本書では、性格心理学の基本的な考え方に対比するものとして、血液型性格判断を取り上げています。一時期ほどのブームではないにせよ、今でも血液型性格判断が話題にのぼる機会は多くあります。現在のブームが一九七〇年代からはじまっていることもあり、血液型性格判断を信じる人は日本中の全世代にわたって存在しているといえます。みなさんの周りを見渡しても、若者にももちろんいるのですが、むしろ中高年の人々のほうが信じているようすを見ることができるのではないでしょうか。このような考え方が、多くの人々にこれほど根強く信じられるのはなぜなのか、その根底にある考え方はどのようなものなのか、そして、その考え方は現在の性格心理学と異なっているのか、さらには、信じることによって何か弊害が生じるのか……これらのことについても、考えていきたいと思います。

 ではさっそく、この血液型の話題からはじめてみましょう。

小塩真司