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安田 雪 著

ワードマップ パーソナルネットワーク
──人のつながりがもたらすもの


四六判296頁

定価:本体2400円+税

発売日 11.07.20

ISBN 978-4-7885-1246-7

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◆人と人のつながりの影響力◆

友人や恋人は人生を豊かにします。相性の悪い上司や先生は意欲を低下させま す。人間関係こそ、私たちの生きがいの源であり、ときに絶望の源です。本書 のテーマは、「意識や感情をもった人間」を構成要素とする、パーソナルネッ トワークです。爆発的現象を起こす口コミやソーシャル・ネットワーキング・ サービスの力、集合知を活用するウィキペディアのような知識創発、イノベー ションを引き起こすチームワークのあり方、コミュニティにおけるソーシャル キャピタル、児童虐待や無縁死を防ぐための地域のサポートネットワークなど、 ミクロからマクロ、ウェブから現実社会まで、幅広く人間の関係のあり方とそ の影響力について、わかりやすく解説。

●著者関連書
ワードマップ ネットワーク分析

実践ネットワーク分析


ワードマップ パーソナルネットワーク
目次

ワードマップ パーソナルネットワーク
あとがき

ためし読み
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目次
パーソナルネットワーク 目次
まえがき

T パーソナルネットワークの調べかた
1-1 関係がもたらすもの――ネットワークへの期待
1-2 関係の欠如がもたらすもの――ないものの効果
1-3 関係定義と効果計測――ネットワーク構造に潜む特性
1-4 ネームジェネレータの限界――データと情報の質
1-5 複雑ネットワーク――新しい指標と手法

U パーソナルネットワークに関する論争
2-1 ソーシャルキャピタル――関係に内在する力
2-2 橋渡し型と結束型――人的ネットワークの型と性質
2-3 強い紐帯VS弱い紐帯――弱さの強さ
2-4 ランダムネットVS凝集的ネットワーク――伝染・普及はどちらが速いか
2-5 認識VS実際のネットワーク――関係の見えにくさ

V パーソナルネットワーク研究の最前線
3-1 結婚願望とネットワーク――選択のトレードオフ
3-2 転職とネットワーク――本人・上司・職場
3-3 日本一長い商店街のつながり――町内のかかわり方
3-4 ネットワーク上の伝播――年代効果・世代効果
3-5 6次の隔たり電子版――オンラインのスモールワールド

W パーソナルネットワークの設計とデザイン
4-1 雪崩は止められるか――私語のカスケード
4-2 ネットワークの形成メカニズム――成長するネットワーク
4-3 ネットワークビジネス――社会関係と経済関係の交錯
4-4 孤独――距離の設計
4-5 関係のアフォーダンス――つながりを可能にするもの

X パーソナルネットワーク研究の倫理と展望
5-1 パーソナルネットワーク調査の倫理――関係の顕在化の問題
5-2 異分野に学ぶ、異分野と競う――関係研究の融合へ
5-3 関係を扱う現場と道具――研究の暗黙知

あとがき
参照文献
事項索引
人名索引
装幀=加藤光太郎



●あとがき

 

あとがき
 

 パーソナルネットワークについて、重要だと思われる近年の理論と実証研究を整理し、研究の現状と今後についての展望を示す。人間関係について語りたいことをすべて語り尽くす。それが本書の目的でした。

 大学生、大学院生、研究者を中心とした研究コミュニティにいるかたに読んでいただくことを想定して書きました。社会(科)学系の話題を多く取り上げていますが、ネットワークは分野横断的に見られる現象なので、理工系、とりわけウェブ、メディア、関係形成支援ツールや集団による知識創発などに関心のあるかたにも読んでいただければ幸いです。

 最後の部分で、システム生物学や情報科学系のかたがたによるネットワーク指標を使った研究についても触れているのは、分野を問わず、このネットワークという考えかたが、あたかも統計学のように分野横断的な共通言語になりつつあるその様子を感じて欲しいと考えたためです。また、各分野において多用な手法や図解の技術が進んでいる状況を描きましたが、理工系の分野において「関係のビジュアル化」「モチーフの数え上げ」「大規模ネットワークの解析」などがどれほど進んでいるかを、言語表現のみを重視し、図や表による表現にはさほど注力しない社会(科)学系の研究者にぜひ知っていただきたいからです。

 ネットワークについての研究は1998年のワッツとストロガッツのスモールワールド論文以来、理系研究者の参入によって、驚くほど急激に発展しました。コンピュータの処理能力の高度化にともない、解析技術も日進月歩で進んでいます。その守備範囲が、対象についても規模についても、あまりにも急速に広がっているので、研究をしつつ私自身、いったい、どこまでを最低限の守備範囲として理解しておかねばならないのか、何を捨てて、何に特化すべきなのかについて、立ち止まっては考えることを繰り返しています。今回は、一つの区切りとして、人間関係だけに特化してネットワーク分析の研究を概括し、思い残すことがないように書いてみました。

 解析の基礎概念を提供してくれる物理学と数学、分析のツールを提供してくれる工学など、異分野のネットワーク解析や描画技術、応用研究の進展に目配りをしつつ、しかし足下の問題意識をぶれさせずに、社会科学系のネットワーク研究を進めていきたいと思います。

 情報科学や複雑ネットワーク研究の分野では、国際的に活躍する若手研究者も育ちつつあり、本当に心強い限りです。しかし、自分自身をはじめとして日本の社会(科)学研究者から、人間関係や組織間関係の分野で国際的に活躍する研究者が輩出できているかというと、こちらははなはだ心許ない状態です。我が身の反省とともに、ぜひ、21世紀の後半を担う若き研究者のかたがたには、国内外で通用する良い研究者になっていただきたいと思います。

 二年ほど前、一人の学生さんと一緒にSNSの研究をしました。彼は苦労しながらも、巨大SNSのデータをしっかりと整理し、良い解析をしてくれました。当時はまだ卒論のテーマさえ決まっていない学生さんでしたが、論文の共著者として国内のみならず国際学会にも出向き、報告にも挑戦していました。私が本書の構想を練っていた春、彼は大学院に進学し、国内有数の優れた研究者が率いる研究室に所属しました。夏、彼はスイスの大学院に留学して行きました。「試験はすべてドイツ語の口頭試問だそうだ」「大丈夫か」「いや、わからん、心配だ」……といった会話を交わした記憶があります。

 アインシュタインが学位論文を提出した大学がある町から、彼がFacebookにドイツ語で書き込みをしているのを、偶然先日、見つけました。友人らしき人たちがドイツ語で書き込みを返しています。力をつけて帰国し、国内外に豊かな研究仲間をもち、国際的に活躍できる研究者にきっとなるでしょう。

 これは実話です。遠い世界の、優れた特殊なエリート学生の話ではありません。

 研究を志す若い人たちには、その黄金の翼でどこまでもはばたいて欲しい。

 本当は、知的好奇心さえあれば、年齢などは関係ないのです。良い学生、良い教員、良い研究者、良い理解者やパートナーとのネットワークを作ってください。

 本書を読んでくださった誰もが翼をもっています。読者のかたがたが、教わりながら、教えながら、うまずたゆまず、あきらめず、おもしろがりながら、驚きながら、いくつもの発見を積み重ねて、その翼を黄金の翼に変え、ネットワーク研究という大空を、縦横無尽にどこまでも飛翔していってくださることを心から願います。

 新曜社の塩浦ワ氏が書かせてくださった二冊目のワードマップです。あらためて人間関係だけについて考える良い機会をいただきました。新曜社のみなさまに、御礼をもうしあげます。できるだけ情報が重複しないように、かつ、一冊を独立して読んでもパーソナルネットワーク研究を概観できるようにと、バランスを心がけたつもりです。

 本書は関西大学をベースにして書きおろした初めての本です。原稿に多数のコメントをくださった先生がた、ありがとうございました。常に笑顔を絶やさず、研究費と出張などすべての処理を一身に担ってくださった日吉あずささん、本当にありがとうございました。ひたすら執筆・研究に没頭していたこの間、学内外の多くの仕事でご迷惑をおかけした、諸先生がた、本当にすみません。

 国内外を問わず、本書を可能にしてくださった多くのかたがた、研究者のかたがた、そして読者のかたがた、あらためてみなさまとのつながりに御礼をもうしあげます。

京都東山にて
2011年5月 安田雪