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子安増生・大平英樹 編著

『ミラーニューロンと〈心の理論〉』
――


A5判240頁

定価:本体2600円+税

    

発売日 11.7.15

ISBN 978-4-7885-1244-3






◆自己と他者を考える視座◆

人は、どのようにして自己自身の心にアクセスし、他者の心を読み取り、 社会的コミュニケーションを行うのでしょうか。これは心理学の難問でし たが、最近盛んになってきた、「模倣」「共感」「心の理論」「マインド リーディング」「ミラーニューロン」の研究によって、「自己と他者」の 問題が正面きって取り上げられるようになりました。とりわけ近年の脳科 学の発展は、脳活動をリアルタイムでモニターする技法を発達させ、さま ざまな発見がなされつつあります。ミラーニューロンについてはすでに訳 書も出ていますが、本書は、ミラーニューロンと「心の理論」を重要な切 り口として、「自己と他者」についての心理学研究の現在を語った、斬新 で刺激的な一冊です。


ミラーニューロンと〈心の理論〉
目次

ミラーニューロンと〈心の理論〉
 まえがき

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ミラーニューロンと〈心の理論〉―目次

まえがき  

序 章 自己と他者――発達的アプローチ 子安増生
1 はじめに
2 鏡像自己認知
3 間主観性
4 他者視点の取得
5 「心の理論」
6 ミラーニューロン
7 他者の痛み
文献

第1章 自己身体はどのように脳内で表現されているのか? 嶋田総太郎
1 はじめに
2 自己とは何か?――意識から身体へ
3 脳の中での身体表現
3-1 存在しない手足の存在を感じる
3-2 「これは妻の手だ」
3-3 「消えていく」手足
3-4 体性感覚のない患者
3-5 統合失調症
3-6 ラバーハンド錯覚
3-7 内在性感覚と島
3-8 他者性の領野
3-9 運動・感覚ネットワークとしての自己身体
4 自己でも他者でもない身体
5 心の理論へ
文献

第2章 私のような他者/私とは異なる他者
――間主観性の認知神経科学
佐藤 德

1 はじめに
2 身体感覚としての自己――身体保持感
2-1 ラバーハンド錯覚
2-2 体外離脱体験
2-3 断片化された身体から統合された身体へ
3 自己主体感――主体としての「私」
3-1 作為体験と幻聴
3-2 順モデル仮説
3-3 時間も縮む
3-4 事後的推論説
3-5 自己主体感の多層性――2段階モデル
3-6 「私」のさらに底へ―― 一人称的視点の成立
4 自己から他者へ
4-1 他我問題
4-2 「私のような」他者
4-3 ミラーニューロンの発見
4-4 模倣から相手の気持ちを理解する
     ――身体化されたシミュレーション
4-5 身体化されたシミュレーションの限界
     ――「私とは異なる」他者
5 結論――自己と他者:
    私のような他者から私とは異なる他者へ
文献

第3章 「向社会的」共感の心理・生物学的メカニズム 野村理朗
1 はじめに
2 共感する心のメカニズム
2-1 模倣からはじまる共感性――早期-発達システム
2-2 感情の分化と理解,制御――後期-発達システム
3 共感性の神経基盤
3-1 模倣とミラーニューロン
3-2 感情への共感と大脳辺縁系
3-3 物理的痛みへの共感と島皮質
3-4 他者との関係と共感性
3-5 向社会的行動
4 共感の生物学的基盤――遺伝子多型性
4-1 遺伝子多型とは
4-2 セロトニンと前頭前野腹外側部
4-3 衝動性とセロトニン2A受容体遺伝子
5 おわりに
文献

第4章 自己が成立するための記憶の仕組み
――記憶による知覚経験を超えた自己の拡張
堀内 孝

1 はじめに
1-1 記憶研究の展開
1-2 社会脳とマキャベリ的知能
1-3 記憶による知覚経験を超えた自己の拡張
2 記憶システム
2-1 記憶の社会性
2-2 記憶システム
2-3 SPIモデルと記憶の想起意識
3 自己と記憶
3-1 記憶システムに対する自己知識の位置づけ
3-2 自伝的記憶のモデル
3-3 自己知識に関する神経学的基盤
3-4 記憶の主体感と所有感,
     そして自己の時間的・空間的拡張
4 自己物語による自己の社会的・歴史的拡張
4-1 物語という自己理解の枠組み
4-2 自己の社会的拡張
5 おわりに
文献

第5章 ミラーとメンタライジング――社会脳の見取り図 福島宏器
1 はじめに
1-1 本章における「社会脳の見取り図」
2 「社会脳」と2つの大域的ネットワーク
2-1 ミラーニューロン・ネットワーク
2-2 共感を支える神経活動
2-3 メンタライジング・ネットワーク
3 さまざまな他者理解の様式とメカニズム
3-1 シミュレーション説 vs. セオリー説
3-2 ミラーニューロン以外による「シミュレーション」
3-3 「シミュレーション」以外の他者理解の仕方
3-4 対応する神経メカニズムのまとめ
4 おわりに――自己と他者の共通構造仮説
文献


第6章 脳の中の2枚の鏡
――「運動-感覚」と「内受容感覚-感情」のミラー機能
大平英樹

1 はじめに
2 自己の認識と他者の理解
2-1 ミラーニューロン・システム
2-2 内受容感覚と感情のミラー・メカニズム
3 ミラーニューロン・システムの機能
4 ミラーニューロンはどのように生まれたか
5 内受容感覚を司る神経システム
5-1 ミラー・メカニズムの形成
5-2 意思決定への影響
6 おわりに
文献

人名索引
事項索引


装丁=虎尾 隆

まえがき

 人は,どのようにして自己自身の心にアクセスし,他者の心を読み取り,社会的コミュニケーションを行うのか。心理学において最も基本的かつ重要とも言えるこのテーマは,研究上しっかりした方法論が少なく,最も厄介なテーマでもあった。しかし,この20年ほどの間に盛んになってきた,「模倣」「共感」「心の理論」,「マインドリーディング」,「自己/他者関連単語」,「ミラーニューロン」などの研究は,「自己と他者」の問題を正面きって取り上げるものであり,そのことによって研究は大いに進展した。哲学の基本問題でもある「自己と他者」が科学的研究の対象になったのは,近年の認知心理学と脳科学の発展によるところが大きい。人間の言語と行動は,いつの時代にでも,「自己と他者」を考える上での重要な手がかりであったが,近年の脳科学の発展は,脳活動をリアルタイムでモニターする技法を発達させ,「脳の解剖学的構造」,「脳神経活動の機能」,「言語/行動の心理学的観察結果」の三者を同時にマッピングすることにより,さまざまなレヴェルで重要な知見が得られるようになった。

 本書の7人の執筆者は,日本心理学会大会において,「自己・他者・内側前頭前野」(2003年9月;東京大学)と「間主観性の認知神経科学」(2005年9月;慶應義塾大学)の2度にわたってワークショップを共同で開催し,この問題について検討してきた。研究経歴(年齢)も研究領域(方法論)も異なる7人が同じテーマで議論することは,有意義であるだけでなく,大いに楽しいことである。本書においても,この楽しさを読者に伝えられることを切に願うものである。

 本書の企画進行中に,ミラーニューロン研究の「ご本家」から,2つの著作の訳書が出た。すなわち,リゾラッティとシニガリアの『ミラーニューロン』(紀伊國屋書店)とイアコボーニの『ミラーニューロンの発見』(早川書房)である。本書は,ミラーニューロン概念そのものの解説書ではないので,ミラーニューロンについての正確な定義と詳しい説明を知りたい読者は,ぜひ両訳書にもあたっていただきたい。本書の目的は,ミラーニューロン研究の刺激によって進展した「自己と他者」についての心理学的研究の現在を語るものである。「心の理論」は,その際の重要な切り口であるが,本書のすべての章にわたって「心の理論」を取り上げているわけでは必ずしもない。「自己と他者」について論ずる際の2つの重要かつ代表的な視点として,ミラーニューロンと「心の理論」をあげているものと理解していただければ幸いである。

 最後になったが,予定よりも大幅に刊行が遅れる結果となった本書を,完成まで暖かく見守ってくださった新曜社の塩浦暲社長をはじめ,同社編集部の皆様にここに厚く御礼申し上げたい。

2011年3月
    
子安増生
大平英樹