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サトウタツヤ 著

方法としての心理学史
――心理学を語り直す


A5判224頁

定価:本体2400円+税

発売日 11.03.30

ISBN 978-4-7885-1229-0

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◆心理学再発見!◆

えっ、心理学史? 特殊な専門家向けの本じゃないの? とんでもない。歴史 書が面白いように、心理学史、つまり心理学の歴史も、じつに面白いのです。 歴史は「事実の羅列」ではなく、「語り直される」ものである、というのが本 書の主張です。近代心理学は、19世紀の末ころドイツのヴントによって成立し たというのが常識になっていますが、何故この時期にこうしたことが起きたの でしょうか? 日本では、心理学ということばはいつどのようにはじまり定着 したのでしょうか? 妖怪や千里眼も心理学で研究されていたのに、なぜ排除 されたのでしょうか? 常に新しい問いを作り、歴史を編み直し、新しい知識 を生産するための、ワクワクする心理学の一分野を紹介する意欲作です。

方法としての心理学史 目次

方法としての心理学史 はじめに

ためし読み
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目次
目 次

はじめに

第T部 心理学史概観 世界と日本の心理学史 

第1章 近代心理学成立への胎動
1 ギリシアにおける源流
2 「心理学の起点」あるいは分水嶺
3 連合心理学・進化論を中心としたイギリスでの出来事
4 感覚の実験的研究を中心としたドイツの出来事

第2章 近代心理学の成立
1 統括者としてのヴント
2 ヴントと同時代の心理学
3 国際的交流の始まり
4 心理学の深化
5 応用領域の広がり
6 第二次世界大戦後の心理学――アメリカ心理学の隆盛

第3章 近代日本における心理学の受容と制度化
1 序論
2 元良勇次郎の精神物理学と心理学の制度化
3 学範としての心理学の受容と展開
 
第U部 近代心理学の成立をめぐる争点 
 
第4章 近代心理学の成立と方法論確立の関係
― カントの不可能宣言を補助線に 
1 はじめに
2 17世紀後半以降の心理学的主題
3 カントの不可能宣言とその歴史的意義
4 感覚生理学と精神物理学の方法
5 実験を中心にした心理学の成立
6 補論 ― ヴントと同時代、もしくは以後の心理学から
7 おわりに

第5章 心理学と科学の関係を考える ― ゲーテ『色彩論』を補助線に
1 科学にこだわる心理学者
2 カント「心理学は科学にならない」宣言を知る
3 心理学の科学化を導いたもの
4 もう一つの科学を考えるためのヒントとしてのゲーテ
5 科学としての質的研究 ― モデルということ

第V部 日本における近代心理学をめぐる争点
 
第6章 西周における「psychology」と「心理学」の間
― ヘヴンの精神哲学を補助線に
1 西周、「psychology」、「心理学」
2 「psychology」と「心理学」
3 西と「psychology」
4 西と心理、もしくは心理学
5 西にとっての心理学と性理学
6 西と心理学との距離
7 まとめ

第7章 元良勇次郎 ― わが国最初の心理学者
1 元良の生涯 ― 出生から米国留学まで
2 米国留学
3 帰国後の元良勇次郎と心理学者としての活躍
4 独立の心理学実験室と大学の専修制度
5 参禅体験と晩年の元良勇次郎
6 まとめ ― 元良の人柄

第8章 日本の近代心理学成立期における境界画定作業
― 排除される知としての妖怪・透視・念写
1 境界画定作業からみる日本の心理学
2 井上円了とその学説
3 福来友吉とその学説
4 まとめと研究評価の問題
 
第W部 心理学史する、ということ
 
第9章 ヒストリオグラフィと資料保存の重要性
1 ヒストリオグラフィの枠組み
2 歴史研究の資料
3 資料方法論からみた心理学史の一事例
4 おわりに

第10章 心理学史を書き換える
1 心理学の設立に関する決定的出来事を何にするか
2 新しいかたちを目指す心理学
3 進展する社会と心理学の関係 ― 歯止めではなく
 後世への橋渡しを 
4 評価を未来に拓く
5 学問にもトレーサビリティを ― アーカイブの機能
6 まとめ ― 学問史の意義


あとがき
文  献
人名索引
事項索引
初出一覧
装丁=虎尾 隆


●はじめに

 

はじめに ― 本書刊行の目的と内容

 
 本書は研究分野としての心理学史において、どのような方法論があり、どのような争点が存在するのかを中心にまとめた論文を中心に一冊の著書としてまとめたものである。もちろん、心理学が歩んできた道、心理学史の概説も含まれている。
 
 第T部「心理学史概観 ― 世界と日本の心理学史」は欧米・日本それぞれの心理学史の概説であり、簡単に世界の心理学の成立とそれ以降の展開を捉えることができる。日本の心理学史に関しては拙著『日本における心理学の受容と展開』でまとめた内容のダイジェストでもある。半ば定型化した語りに堕しているという自戒をこめつつも、標準的な歴史を描いている。「歴史は事実の羅列であるから、つまらないし、変化しない」と考える人は少なくないだろうが、歴史は「語り直される」ものである。世界の心理学史においても、日本の心理学史においても、争点となるべきホットイシューが存在する。これらについては第U部、第V部で検討していく。
 
 第U部「近代心理学の成立を巡る争点」においては世界心理学史の叙述における争点として,特に近代心理学の成立以前の文脈を理解することを目指した。19世紀の末ころ、1879年を一つの画期点としてドイツのヴントによって近代心理学が成立したということは一種の常識になっている。だが、何故この時期にこうしたことが起きたのかを理解するためには,その文脈の理解が必要となる。近代心理学成立以前のドイツに注目し、カントの不可能宣言、ゲーテの『色彩論』について考えてみたい。現在は心理学者としては扱われていないこの両者も、心理学に関心を寄せていた。彼らの行ったことと心理学成立の関係を読み解いていく。
 
 第V部「日本における近代心理学を巡る争点」においては日本心理学史の叙述における争点として、心理学という日本語の起源や定着について扱った。また、日本で最初の心理学者として記憶されている元良勇次郎について、心理学を学び、日本に定着させたプロセスについて検討した。最後に、日本の心理学から排除されてしまった、妖怪や千里眼について、その研究目的とそれがなぜ心理学に組み込まれていかなかったのか、について検討した。
 
 第W部「心理学史する、ということ」においては、心理学史の方法論を検討・紹介する。心理学史という分野が常に新しい問いを作り、歴史を編み直し、新しい知識を生産するための道具だてが歴史叙述法(ヒストリオグラフィ)である。単に昔のことを調べることが歴史なのではない。思いつきで歴史を書き換えることもできない。歴史叙述法(ヒストリオグラフィ)に基づくことが重要である。昔語りではなく、研究としての心理学史を確立するためにも必要である。
 
 この本を通じて、心理学史というものが、ワクワクする心理学の一分野だということを感じていただき、取り組むべき価値のある問題に取り組む人が増えていただければ、望外の幸せというものである。
 

2011年1月23日 イタリア・レッチェにて
サトウタツヤ