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重野 純・福岡伸一・柳原敏夫

安全と危険のメカニズム
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A5判232頁

定価:本体2400円+税

発売日 11.03.20

ISBN 978-4-7885-1228-3

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◆危険は人によって作られる!◆

本書は、心理学者重野 純、分子生物学者福岡伸一、法律家柳原敏夫の三氏が、それぞれの立場から現代における安全と危険のメカニズムをとらえるための研究をおこなった成果をもとに書かれました。昔は大きな危険といえば伝染病や飢饉、自然災害などでしたが、現代は、科学技術が便利さを生みだす一方で私たちの生活を脅かす、という状況が生まれています。食品添加物や遺伝子組み換えなどによる健康への危険、医療事故など、科学技術が重大な危険を生んでしまうのです。自然災害に加えて、人間が生みだす危険にどう対処していったらよいのか、本書はそのヒントを与えてくれるでしょう。

安全と危険のメカニズム 目次

安全と危険のメカニズム まえがき

ためし読み
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目次
まえがき
第1章 家庭生活における安全と危険 重野 純

はじめに
1 食べる
1-1 五感
1-2 食べることの意義
1-3 毎日の食事における味覚の信頼性
1-4 食べ物の色と形が味覚判断に与える影響
1-5 視覚を味覚に取り入れた料理の達人─北大路魯山人
1-6 食生活の中に潜む危険
2 風呂に入る
2-1 風呂の歴史
2-2 日本人は風呂好き
2-3 入浴剤の効用と危険
3 インターホンに出る
4 あなたには分かりますか─その音は安全?危険?
5 安全と危険を分けるもの
第2章 食の安全と危険   福岡伸一

1 食の安全と危険
1-1 毒と薬は表裏一体
1-2 食の安心・安全をめざす評価系確立の意義
2 消化管における「細菌受容体」の発見
2-1 GP2ノックアウトマウスを用いた経口感染リスクの評価系
2-2 この発見は何に役立つのか─経口ワクチンの可能性
2-3 残された謎
3 GP2ノックアウトマウスを用いた経口リスク評価系研究の新展開
3-1 付着因子 FimH 陽性細菌がM細胞に発現するGP2を介して
取り込まれることで、粘膜免疫応答が開始される
3-2 パイエル板におけるGP2依存性抗原取り込み機構
3-3 まとめ
4 QPRTノックアウトマウスを用いた必須アミノ酸摂取上限の研究
   ─その1 分子生物学的アプローチ
4-1 はじめに
4-2 実験材料と方法
4-3 マウス生体内におけるQPRT発現の確認
4-4 トリプトファン過剰摂取による影響の解析
4-5 結果
4-6 考察
5 QPRTノックアウトマウスを用いた必須アミノ酸摂取上限の研究
   ─その2 行動学的アプローチ
5-1 QPRTノックアウトマウスの飼育
5-2 遺伝子発現解析に用いたマウス
5-3 リアルタイムPCR法による遺伝子発現解析
5-4 QPRTノックアウトマウスの行動的特性
6 トリプトファン代謝経路酵素の遺伝子発現解析による
キノリン酸蓄積メカニズムの解明
6-1 リアルタイムPCR法による遺伝子発現解析
6-2 QPRTノックアウトマウスの行動的特性
第3章 市民の科学への不信はいかにして形成されるか

     ─「歪曲」されたリスク評価の事例の検討  柳原敏夫 
はじめに─問題の分類
1 古典的リスク評価の検討─事例検討
1-1 遺伝子組換え技術
1-2 遺伝子組換え技術は二度操作する
1-3 遺伝子組換え技術の事例─GMイネの野外実験
1-4 悪夢から眺めた仮説
1-5 古典的テーマ─耐性菌問題
1-6 仮説の検証(一度目の操作:研究段階)
1-7 仮説の検証(二度目の操作その1:国の事前審査の段階)
     ─消えた耐性菌問題
1-8 仮説の検証(二度目の操作その2:裁判手続の段階)
     ─耐性菌問題の創作物語
1-9 世論操作の動機(最大の評価ミス:ディフェンシン耐性菌の危険性について)
1-10 二度目の操作の防止
2 現代型リスク評価の検討─理論検討
2-1 問題の提起
2-2 リスク評価の基本問題
2-3 リスク評価とは何か(その1)
2-4 リスク評価とは何か(その2)
2-5 リスク評価とは何か(その3)
2-6 リスク評価とは何か(その4)
2-7 リスク評価とは何か(その5)
2-8 リスク評価の迷妄の打破のために
2-9 リスク評価論の外(芸術裁判の躓きその1)
2-10 リスク評価論の外(芸術裁判の躓きその2)
2-11 リスク評価論の外(芸術裁判の躓きその3)
2-12 リスク評価論の外(科学裁判の躓き)
2-13 リスク評価論の躓き
2-14 科学の限界の不承認について
2-15 善(倫理・法律)の判断とはどういうことか
2-16 美(快・不快)の判断とはどういうことか
2-17 リスク評価の判断者とは誰か
2-18 現代型リスク評価の課題(小括)
2-19 法律家にとってのリスク評価(食の安全と職の安全)
2-20 法律家にとってのリスク評価(法律家の戸惑いの告白)
座談会

本書の誕生まで
第1章「家庭生活における安全と危険」について
第2章「食の安全と危険」について
第3章「市民の科学への不信はいかにして形成されるか」について
アシロマ会議
生物の動的平衡の考えは、なぜ異端なのか
「不確実な事態」の背景
リスクとデインジャー
現象を評価する三つのレベル
科学とリスク評価
リスクと人間の文脈
科学技術と人間
おわりに─人災と自然災害の峻別
注  (1)
装丁=虎尾 隆

はじめに

 最近は安全や危険が話題になることが多い。医療場面、食糧事情、日常生活や高齢者・障害者とのかかわりなど、取り上げる対象や危険のレベルもさまざまである。それだけ私たちの日々の生活が危険にさらされているということであろう。このような問題を人文科学・社会科学・自然科学の面から探究し、総合的な観点から安全と危険のメカニズムを考えようというのが本書の主旨である。

 太古の昔から私たちは危険に脅かされながら安全に過ごすことを志向してきた。昔は伝染病や飢饉、自然災害などが大きな脅威となっていた。現代においては科学技術の発展のおかげで、それらの脅威に対しては一定程度の対応は可能となった。しかし逆に科学技術の発展に私たちの生活が脅かされる、という状況になっていることは否定できない。たとえば、電車や航空機の利用は著しく移動距離を増大させたが、駅ホームからの落下事故や航空機の墜落事故により多数の人々が命を落としている。エスカレーターやエレベーターは高層ビルには不可欠のものだが、装置に巻き込まれたり停電によって閉じ込められたりするなど、昔には考えられない危険をもたらしている。さらに、直接目に見えない危険にもさらされている──食品添加物や化学物質などによる健康被害や癌などの疾病、薬品の副作用の問題など深刻である。

 科学技術の発展は輸送手段の発展による移動時間の短縮、高度な医療技術、遺伝子組み換えによる害虫に強い植物の栽培、など様々な恩恵をもたらしてくれた。一方で、これらを利用する私たち人間の機能、特に心的機能は大昔と比較してどれだけ向上しただろうか。現代社会ではストレスのために体調を崩す人が増え、自殺者の数も急増した。科学技術の発展は便利さや能率向上と引き換えに、むしろ新たな危険を私たちに突きつけたといえよう。

 本書では右にあげた三つの分野それぞれにおいて研究するとともに、人の心的機能と科学技術の発展との関係についても考えている。安全と危険の問題は広範な研究対象を含むものであるので、実際には三名の研究者の専門領域を中心として研究が進められた。また当然ながらそれぞれの専門に基づく異なる研究方法が取られた。研究遂行において最も困難であったことは、このように異なる研究分野・手法から得られた成果を全体としてどうまとめていくかという点であった。この点については、著者三人による座談会をおこなうこととした。座談会の場では活発な議論が行われ、問題の集約化と理解の深化が得られたと思っている。本書を通して、現代における安全と危険のメカニズムについて考えるためのヒントが少しでも得られることができれば幸いである。

 最後に、本書が刊行されるまでの経緯について触れておこう。青山学院大学総合研究所(以下総研と略記)は2008年に創立20周年を迎えた。その設立の趣旨は「大学における教育・研究との有機的な関係のもとに広く学術を統合し、社会と学術文化の進展に寄与することを目的とする」ものであった。本研究プロジェクトは、20周年を記念して公募された「20周年記念特別プロジェクト」の一つである。研究題目は「科学技術の発展と心的機能から探る安全と危険のメカニズムに関する総合研究」である。研究メンバーは福岡伸一(理工学部教授)、柳原敏夫(弁護士)、重野純(教育人間科学部教授)の三名である。研究期間は2008年4月から2010年3月までの2年間であった。この間、数回の公開講演会や研究会を行った。また2008年10月4日に行われた総研主催の創立20周年記念事業公開講演会「地球規模における平和・安全・安心」のパネルディスカッションには福岡伸一がパネリストとして参加した。

 このように専門の異なる研究者が協力して総合研究を行う機会を与えていただいたことに感謝している。前所長の秋元実治文学部教授(現名誉教授)と所長の本間照光経済学部教授には様々な御援助をいただき、ここに深く感謝申し上げる。また、前述の座談会の開催は、審査委員の先生方からのご助言による。数度にわたるヒアリングにおいて貴重なご意見をたまわった審査委員の先生方、研究から本書の刊行までの3年間にわたりお力添えをいただいた総合研究所事務室の職員の方々に厚くお礼を申し上げる。最後に、本書の刊行を快く引き受けてくださった新曜社代表取締役塩浦暲氏に心からの謝意を表したい。

 2011年3月1日  研究代表者  重野 純