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石丸径一郎 著

調査研究の方法
――


A5判224頁

定価:本体2500円+税

発売日 11.04.15

ISBN 978-4-7885-1227-6

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◆初心者がつまずきやすい隙間を埋める!◆

日本ではじめて本格的に臨床心理学の研究法を取り上げ、好評をいただいているシリーズの第5巻です。臨床心理士になりたいと思って大学や大学院に入った学生は、臨床心理の技術を学び、より良い臨床ができるようになりたいという気持ちを持っていても、どうして研究をしなければならないのか、論文を書かなければいけないのかはわかりにくいものです。本書は、何のために、なぜ調査研究が必要なのか、その方法にはどのようなものがあるかをたんねんに解説するとともに、研究を論文にまとめるまでを実例を交えて示した入門書です。何事も本や授業で勉強したことと実際ではずいぶん異なるものですが、本書は、初学者がつまずきやすい隙間をできるだけ埋めるよう配慮して、大変実践的に書かれています。

臨床心理学研究法シリーズ(下山晴彦編集)

調査研究の方法 目次

調査研究の方法 まえがき

ためし読み
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目次
目 次
臨床心理学研究法シリーズへの序文
はじめに
第1章 良い研究を実施するために
1良い研究とは ― 情報的価値と実用的価値
2良い研究をおこなうためのFINER基準
学習を深めるための参考文献


第2章 先行研究を読む
1なぜ先行研究を読むのか
2文献の探し方・読み方
3文献の整理の仕方
4引用文献欄の書き方
学習を深めるための参考文献


第3章 調査研究の種類
1調査研究のデザインに関する用語と留意点
2調査研究の種類
3コホート研究(追跡調査をおこなう)
4介入研究(実験)
5STROBE声明 ― 非介入的調査研究のガイドライン
学習を深めるための参考文献


第4章 調査研究の進め方
1研究テーマを決める
2仮説を立てる
3研究参加者のリクルート
4インフォームド・コンセント
学習を深めるための参考文献


第5章 どのような観点から調査するか
― 臨床心理学における測定ツール

1バイオ ― 生物学的データ
2サイコ ― 心理学的データ
3ソーシャル ― 社会・対人的データ
学習を深めるための参考文献


第6章 面接調査の実施
1面接調査の種類
2面接調査の実際
3評定者間の一致度を評価する
学習を深めるための参考文献


第7章 質問紙調査の実施
1質問紙調査の分類
2質問票の作成
3長さ・印刷・綴じ方
学習を深めるための参考文献


第8章 調査データの分析と報告の仕方
1参加者の動向の把握と調査票の整理
2データの入力とクリーニング
3主な分析方法
4研究報告の仕方
学習を深めるための参考文献


第9章 測定尺度の作成
1測定尺度を作成する前に
2測定尺度作成の計画
3質問項目の作成
4信頼性と妥当性の確認
5カットオフポイントの設定
学習を深めるための参考文献


第10章 ダイアリー法調査をおこなう
1生活に密着した調査法
2ダイアリー法調査の量的分析と質的分析
学習を深めるための参考文献
第11章 調査研究論文の実際
1尺度作成と多変量解析をおこなった横断研究
22つのサンプルの比較をおこなった横断研究
学習を深めるための参考文献


引用文献――
人名索引――
事項索引――


コラム
ドロップアウトの問題
4種の抑うつ尺度のメタ分析による比較
注意すべき用語・略語





装幀=虎尾隆


●はじめに

 

はじめに


 本書は、臨床心理学における調査研究のやり方を、初学者向けに書いたものである。臨床心理学では、研究において「調査」という方法を使うことが多いようである。卒業論文で初めての研究をおこなう人、また修士論文で2回目の研究をおこなう人を想定して、できるだけわかりやすく書いたつもりである。

 臨床心理実践をおこなう際に、なぜ研究することが必要なのだろうか。臨床心理士になりたいと思って大学や大学院に入った学生は、臨床心理実践の技術を学んで、より良い臨床ができるようになりたいという気持ちを持っている。その時に、どうして論文を書かなければいけないのか、どうして研究を、特に本書で扱うような量的な研究をしなければならないのかがわかりにくい。研究対象者の個別性や詳細な理解を重視する質的研究なら、まだ臨床実践に関係がありそうな気がするが、データの個別性を捨てて、平均値や標準偏差などに変換してしまう量的研究が、どのように臨床実践に役立つのだろうか。私も初学者だった頃は、何やら重要であるらしいので勉強しなければと漠然とは思っていたが、臨床と研究との関係についてあまりよく理解できていなかった。しかし現在では、より良い臨床をおこなうために、またより良い臨床家になるために、研究することは必要であるという実感を持っている。もちろん研究だけしていれば良いわけではないが、やはり研究は、より良い臨床家になるための条件のひとつであると今は思う。研究を自分でやってみることが、特に本書で扱うような量的研究をおこなうことが、どのように臨床に役に立つのかについて、私は2つのことを考えている。

 1つ目は、臨床実践の効果を確かめることである。近年、臨床心理学は私的な活動から、社会に認められた公共的な活動へと変化を遂げている。職業として成立するためには、社会から必要な活動だと認められなければならない。そうでなければ、臨床心理実践に対してお金を払ったり、予算をつけたりされないので、生活費を稼ぐことができず趣味程度の活動に留まるしかない。社会から必要な活動だと認められるためには、ほんとうに利用者の利益になる活動であるという根拠を提示できなければならない。臨床心理実践の活動に、資金を投入するのに見合う効果があるとの強力な根拠を提出できるのは、量的な研究しかない。この「効果」という言葉がなじまなければ、「本当にクライエントのためになっているか」と言い換えても良い。「クライエントのために」真剣な態度で臨床実践をおこなうと言う臨床家はたくさんいるが、ほんとうにクライエントのためになっているのだろうか。クライエントに対する主観的な善意や誠実な気持ちと、実際にクライエントのためになったかということは別のことである。良かれと思ってやったことが、相手のためにならなかったということは非常によく起こる。極端な例としては、奴隷制度の時代の黒人差別というのは「黒人は身体的・生理的に劣っているので、奴隷として白人の管理下に置くことが彼らの幸せにつながる」という白人の善意から始まった部分があるそうである。臨床心理実践の活動が、利用者からお金を取ったり、組織や公共団体の予算を使ったりしておこなうものである以上、セラピストの側の熱意や善意とは別に、「クライエントのためになっているのか」ということが客観的に確認されなければ、倫理的に問題がある。また、効果やクライエントにとっての利益が確認できない実践は、結局のところ淘汰され、職業として成立しなくなってしまうだろう。ひいては、必要な人がサービスを利用できなくなってしまう。

 2つ目は、サービスの質や有効性を見抜く力を身につけることである。臨床心理学は人々の悩みを扱う実践の学問であり、また比較的新しい専門職でもある。悩みを持つ人は、わらにもすがりたい気持ちを持っていることがある。このような問題や悩みを持っている人には、○○療法が良いというような話は世の中にたくさんある。残念ながら、このような○○療法のようなものには、非常に質の高いものから、詐欺まがいのものまで、いろいろなものが混じっている。ここで、自ら(特に量的な)研究の実践を経験した人であれば「ある問題や悩みに○○が効く」ということを実証するのがどんなに難しいことか、またそのためにはどんな研究が必要なのかを知っているはずである。どの程度の研究が行われているかを知れば、そのようなサービスをクライエントに薦められるかどうかを判断することができる。臨床心理学の専門家は、クライエントのわらにもすがりたい気持ちに十分に共感することと同時に、何にすがれば良いと考えられるかを、その時点での最新の知見に基づいて判断し伝えることができた方がよい。この領域には、さまざまな質のサービスや実践が混在している。人々の悩みや問題を扱う専門家であれば、クライエントを守るためにも、怪しいものを見抜く力が必要である。

 さて初学者にとっては、本や授業で研究法について勉強したことと、実際に卒論や修論のための研究をやってみることとでは、だいぶ違うのではないだろうか。おおまかに研究法について把握しても、実際にやってみると、おおまかな理解と理解の間の隙間の部分でいちいちつまずくことがあるだろう。理論と実践というのはいつもそうであるが、理論通りにスムーズに進むことは稀であり、研究の実践は降りかかってくる大小のトラブルに1つずつ対応しながら、何とかゴールまで辿り着くというようなものである。調査研究の方法について書かれた本は既にいくつか存在するので、本書では、私が卒論や修論を書いた時の気持ちに戻って、つまずきやすい隙間をできるだけ埋められるように努めてみた。読者には本書をうまく活用していただき、研究を実施して論文を書くための何らかの手助けになれば幸いである。

 本書の執筆に対して、多くの人々の支援を受けた。本シリーズの企画・編集を担当された東京大学の下山晴彦教授には、草稿に対して多くの貴重なご意見をいただいた。心より感謝申し上げたい。また、森田慎一郎氏には研究事例を提供していただくとともに、草稿に対して詳細なコメントをいただいた。a岡昂太氏には、面接調査の実際についての研究事例を提供していただいた。また、東京大学教育学部教育心理学コースの学生3名にも草稿を読んでいただき、実際に卒業論文を書く立場からの意見をいただいた。最後に、新曜社の塩浦ム氏には、遅れがちな執筆作業を根気よく待っていただき、丁寧かつ迅速な編集・校正の作業をしていただいた。改めて御礼を申し上げたい。

石丸径一郎