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宮内泰介 著

開発と生活戦略の民族誌
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四六判384頁

定価:本体4200円+税

発売日 11.03.30

ISBN 978-4-7885-1224-5

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◆貧困観をこえた等身大の開発◆

モバイルギアとカメラを手に、南太平洋ソロモン諸島アノケロ村でフィールド ワークを重ねてきた著者のライフワークが本書に結実しました。村の人々は半 栽培、重層的コモンズなどの環境的しくみを守って熱帯林を利用し、安定した 自給生活を送ってきました。それと同時に、出稼ぎや移住によって多様な現金 収入の道を探り、戦争や民族紛争すら自分たちの移住計画に取り込んできたの です。アノケロ村の生活戦略には、不安定な現代世界の動向に左右されない生 活保障とリスクの回避を、自分たちの力でかちとるたくましさが息づいていま す。焼畑、森の生活、川遊び、ココヤシ栽培、マーケット、学校、選挙まで生 活感あふれる写真満載。著者は北海道大学大学院文学研究科教授(環境社会 学)。

開発と生活戦略の民族誌 目次

開発と生活戦略の民族誌 あとがき

ためし読み
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目次
目 次

目 次 第1章 マライタ島で考えたいこと―生活の組み立て方への注目
1 マライタ島で何を考えたいのか
2 フィールドワークとは何だろうか  
3 ソロモン諸島とはどのようなところか  
4 人びとをとりまく社会集団―世帯、集落、親族  
5 調査の概要と本書の構成  

第2章 新しい資源群の登場―アノケロ村の百年
  はじめに―村の歴史を見ることの意味  
1 植民地と海岸部への移住  
2 戦争とマアシナルール  
3 学校教育  
4 出稼ぎ、移住、消費物資  
5 新しい資源群の登場  

第3章 サブシステンスと半栽培―人間と自然との多様な関係
  はじめに  
1 配分される労働  
2 焼畑と家畜飼育  
3 商品作物  
4 さまざまな半栽培植物  
5 半栽培という関係  

第4章 重層的コモンズ―土地・自然資源をめぐる社会的なしくみ
  はじめに  
1 土地所有の歴史的経緯  
2 重層的な土地利用  
3 土地・自然資源の所有・利用をめぐるバリエーション  
4 重層的コモンズとしてのマライタ島の土地所有  
5 資源としての重層的コモンズ―半栽培のバリエーションとの対応  

第5章 出稼ぎと移住の社会史―生活戦略としての移住
  はじめに  
1 男性の出稼ぎ・移住  
2 家族の出稼ぎ・移住  
3 ライフスタイルとしての出稼ぎ・移住  
4 出稼ぎに出ないという選択  
5 出稼ぎと移住の社会学  

第6章 民族紛争と住民の生活戦略―避難民たちを中心に
1 オセアニアにおける紛争  
2 ソロモン諸島における紛争の歴史  
3 紛争と社会変動―四つの「失敗」  
4 避難と移住の諸類型  
5 住民にとっての「民族紛争」と「避難」  

第7章 生活を組み立てる
1 ある移住計画と生活戦略  
2 トライブと土地の社会学  
3 自然資源 対 近代セクターのせめぎあいと二重戦略  
4 生活を組み立てるということと、めざすべき開発論  
5 〝社会的なもの〟のアドボカシー  
あとがき  
初出一覧  
参考文献  
人名索引・事項索引  

写真撮影 宮内泰介
装幀 鷺草デザイン事務所


●あとがき

 

あとがき
辺境から世界を考えてみたい。そんな思いがあった。

ソロモン諸島に初めて足を踏み入れたのは一九九二年。30歳の時だった。とくにソロモン諸島と関係があったわけではない。ソロモン諸島発展基金(SIDT)というNGOと細い糸でつながっているだけだった私は、それでも何とかなるだろうと妻とともに乗り込んだ。幸いSIDTで当時ディレクターをしていたアブラハム・バエアニシアさんが、私たちのためにアレンジしてくださり、アノケロ村を訪れることができた。受け入れ先で当時SIDTのフィールドオフィサー(在村職員)をしていたエディ・エリファウさんがたまたま私と同年代で、妙に馬が合った。以来その好意に甘えながら、十数年間ほぼ毎年アノケロ村に通うことになる。当時生まれたばかりのエディさんの赤ん坊は、今や立派な青年になった。その間には不幸な民族紛争もあった。最初のころに何度も昔の話を聞いた老人たちはおおかた亡くなってしまった。

今でも、ソロモン諸島のことがよくわかっているかと問われれば、正直よくわからないと言うしかない。いろいろなレベルの「わからない」があり、なかなか解けない謎がある。一方、これは確実にわかったということがあり、なんとなくこうかなということもある。地域を知るとはそういうことだ。

それでも、アノケロ村に通うようになってから、私は、何を考えるにもアノケロ村の人びとの顔を思い浮かべながら考える幸せを得た。自然、家族、労働、経済、開発、さらには幸福、そうしたものを考えるさいに、私はアノケロ村を参照軸に考える。この参照軸は、世界から切れた参照軸ではない。村と世界はダイレクトにつながっている。

この本で展開したのは、広い世界から見ると、本当に小さな地域のできごとだ。しかし、このとてつもなく小さな地域のできごとが、世界を映し出している、―はずだ。

地域に入り込むということは、その地域の固有性とつきあうことである。そしてフィールドワークそのものも一回限りのものだ。その一回限りのものをどう組み立て直して表現すれば、私は世界を映し出すことができるだろうか。地域社会の細部にとことんこだわりながら、世界がどういう姿をしているのか描き出す手法を、私たちはまだ十分に獲得していないように思う。

多くのルポルタージュや民族誌から学んできた私は、いつか民族誌を書きたいと思っていた。しかし、正直に言えば「民族誌」というタイトルは私にとって、少し面はゆい。すぐれた民族誌がかもし出す濃厚さからほど遠いこの本に「民族誌」を冠するのが適当かどうか、今でも迷いがある。

民族誌でもあり、今後の世界を示す書でもあるというあり方は、どんな道が可能だろうか。

アノケロ村に滞在中は、エディ・エリファウさんとその家族、スティーブン・ラドさんとその家族、ジェヒエル・メテさんとその家族、アノケロ村、イミアス村、オシナコ村、フレッシュウィンド村、ナムフォケ村、グワアドエ村、ボボイラギ村、クワラエ小学校、フォアブ診療所のみなさんにいつもお世話になった。とくにエディ・エリファウさんと私は、地域をどう見るか、という点においてお互い刺激しあい、学びあったように思う。エディさんには一度日本に来てもらい、通常日本人が向こうに行くのとは逆のスタディ・ツアーを敢行した。日本社会をエディさんと一緒に見て考えた。私の調査はある意味エディさんとの二人三脚だった。エディさんとの出会い、人びととの出会いは、確実に私の人生に深みを与えてくれた。

オセアニア学会の須藤健一さん、吉岡政徳さん、山本真鳥さんらは、日本におけるオセアニア研究について不案内だった私を国立民族学博物館の研究会に誘ってくださり、私はそこで多くを学ぶことができた。オセアニア研究の先輩、同輩、そして私よりも若い研究者との議論から多くを学んだ。そうした場がなければ、この本はなかったと思う。さらに、一九九〇年代以降私の「ホームグラウンド」の一つとなった環境社会学会のみなさんには、さまざまなかたちで私の研究を刺激していただいた。環境社会学会における議論のおかげで、ソロモン諸島における私の調査研究はより深まった。この本の土台となった博士論文については、佐藤健二さん、山本真鳥さん、武川正吾さん、松本三和夫さん、本田洋さんから数々の有益なご指摘をいただいた。

編集は、『コモンズの社会学』『コモンズをささえるしくみ』に続き、新曜社の小田亜佐子さんにお願いすることになった。今回は、写真の使い方についてなど、私のわがままをたくさん聞いていただいた。信頼のおける編集者とのやりとりは執筆者にとって何ものにもかえがたいものである。

みなさまに心より感謝いたします。

なお、ソロモン諸島での調査は、以下の研究助成に支えられた。一九九二~一九九三年度日本学術振興会海外特別研究員(研究課題「太平洋島嶼部における〈食〉システムの変容についての社会学的研究」)、一九九五~一九九六年度福井県大学等学術振興基金助成事業「太平洋島嶼地域における家族経済の諸戦略―世界経済・生活経済・環境の観点から」(研究代表者・宮内)、二〇〇一~二〇〇二年度科学研究費補助金基盤研究(C)「メラネシアにおける民族紛争と地域住民に関する開発社会学的研究」(研究代表者・宮内)、二〇〇三~二〇〇四年度科学研究費補助金基盤研究(B)?「コモンズと公共性の環境社会学的研究」(研究代表者・宮内)、二〇〇四~二〇〇七年度科学研究費補助金基盤研究(A)(海外学術調査)「オセアニア島嶼国におけるグローカリゼーションと国民文化に関する人類学的研究」(研究代表者・須藤健一)、二〇〇五~二〇〇七年度科学研究費補助金基盤研究(B)「半栽培(半自然)と社会的しくみについての環境社会学的研究」(研究代表者・宮内)。また、本書の出版は、北海道大学大学院文学研究科出版助成を受けた。記して感謝します。


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