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矢守克也・渥美公秀 編著 近藤誠司・宮本匠 著

ワードマップ 防災・減災の人間科学
──いのちを支える・現場に寄り添う


    

四六判288頁

定価:本体2400円+税

発売日 11.01.24

ISBN 978-4-7885-1218-4

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◆災害の現場と研究の新たな関係◆

「災害大国」と言われる日本。多くの悲惨な経験を受け、防災・減災を目標にした研究や活動が日々続いています。しかし、計画性や効率性、そして万全の正しさを求めすぎると、それらも、被災した現場や、災害に備える現場からは、かけ離れたものになってしまいます。著者らは、現場に関わるなかで生まれた反省を手がかりとして、「恊働的実践」と「アクションリサーチ」という2つのキーワードを軸に、防災・減災への取り組み方を徹底的に再考します。防災心理学、災害社会学、リスク・コミュニケーションなど旧来の研究分野の枠を超え、災害の現場に寄り添い、現場とともに考えるためのキーワード集です。


ワードマップ 防災・減災の人間科学 目次

ワードマップ 防災・減災の人間科学 序

ためし読み

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目次
目次

まえがき

 第1部 視点と姿勢

1‐1 恊働的実践 
1‐2 アクションリサーチ 
1‐3 ローカリティとインターローカリティ 
1‐4 物語設計科学
1‐5 減 災 
1‐6 安全・安心 
1‐7 災害は忘れた頃にやってくる 
1‐8 自助・共助・公助 
1‐9 エスノグラフィー
1‐10 インタビュー調査 
1‐11 観察と視点 
1‐12 現場に入る技術 

 第2部 災害情報

2‐1 正常化の偏見 
2‐2 ダブル・バインド 
2‐3 ジョイン&シェア 
2‐4 伝える/伝わる
2‐5 災害報道のリアリティ 
2‐6 減災コミュニケーション 
2‐7 防災マニュアル 
2‐8 防災マップ/ハザードマップ 
2‐9 防災計画
2‐10 集合的即興ゲーム 
2‐11 メディア・イベント 

 第3部 被災者支援と災害ボランティア

3‐1 心のケア 
3‐2 喪失とトラウマ 
3‐3 語り部活動 
3‐4 災害ボランティア
3‐5 ボランティアの動機 
3‐6 ボランティア元年 
3‐7 災害ボランティアセンター 
3‐8 秩序化のドライブ 
3‐9 足湯隊
3‐10 ボランティア論 

 第4部 災害復興

4‐1 復興とは? 
4‐2 世直し/立て直し 
4‐3 引き裂く/とり結ぶ 
4‐4 外部支援者
4‐5 軸ずらし 
4‐6 物語復興 
4‐7 復興曲線 
4‐8 待 つ 

 第5部 地域防災と防災教育

5‐1 生活防災 
5‐2 防災と言わない防災 
5‐3 防災教育 
5‐4 正統的周辺参加
5‐5 恊働想起 
5‐6 災害文化 
5‐7 濱口梧陵 
5‐8 クロスロード 
5‐9 ぼうさいダック

あとがき
文献案内
事項索引
人名索引


装幀=加藤光太郎



●まえがき

 

まえがき
 

この本は、本書がその仲間に加わるシリーズの名称(「ワードマップ」)の通り、いくつかの重要用語「ワード」を通じて、筆者らが開拓しようとしている新しい研究・実践領域、すなわち、「防災・減災の人間科学」の見取り図(「マップ」)を描いたものである。本書では、50の用語を、そのテーマや内容に合わせて5つのパート ―「視点と姿勢」、「災害情報」、「被災者支援と災害ボランティア」、「災害復興」、「地域防災と防災教育」― に分けて収録している。しかし、この「まえがき」では、それとは別の角度 ― その用語を収録した筆者らの思いや動機 ― から、用語群を4つのグループに分類することによって、本書への誘いに代えたいと思う。

 

第1のグループは、過去の災害の被災地や、近い将来発生が危惧される災害に備えようとする実践の現場(フィールド)から生まれた「新しい用語」たちである。具体的には、「軸ずらし」、「待つ(あせらないで下さい)」、「ジョイン&シェア」、「伝える/伝わる」などである。これらは、筆者ら研究者ではなく、現場の人びとが日々の実践から紡ぎ出した言葉であり、たとえば、防災心理学、災害社会学、リスク・コミュニケーションといった既存の関連研究分野ではまったくとりあげられてこなかったものである。しかし、本書では、そうした実践の言葉をこそ、現場との恊働的実践とアクションリサーチを中核とする「防災・減災の人間科学」にふさわしい言葉として、その中に組み入れたいと考えた。

 

第2のグループに含まれる用語も、第1のグループと同様、多くの読者にとって耳慣れない新しい言葉だろう。具体的には、「集合的即興ゲーム」、「物語復興」、「生活防災」、「防災と言わない防災」、「外部支援者」などである。ただし、これらは、第1のグループとは異なり、被災地や地域防災活動の現場での長年にわたる恊働的実践を通じて、筆者ら研究者が生みだしてきた言葉である。特に、現場の人びとが「言語化しない、しかし遂行してきた」実践に、アカデミズムの立場から言葉を付与し、その実践をさらにパワーアップさせることを意図した。

 

第3のグループは、以上とは対照的に、防災・減災の分野でこれまでも盛んに使われてきた用語である。具体的には、「減災」、「安全・安心」、「災害は忘れた頃にやってくる」、「自助・共助・公助」、「防災マニュアル」、「防災マップ/ハザードマップ」、「防災計画」、「正常化の偏見」、「喪失とトラウマ」、「心のケア」、「災害ボランティア」、さらに、研究方法に関する用語として、「インタビュー調査」、「エスノグラフィー」、「観察と視点」などである。たしかに、これらは、使い古され、その意味で手垢のついた言葉である。しかし、本書では、それらに、これまでとはまったく異なる新しい光を当てたつもりである。より踏み込んで言えば、これらの用語を、これまで当然視されてきた意味や用法であたりまえのように使うこと自体が、防災・減災の営みを進める上でのネックや落とし穴になっている事実を指摘したつもりである。

 

最後に、第4のグループは、筆者たちが標榜する「防災・減災の人間科学」の内容と姿勢を、より直接的に表現した用語である。具体的には、「恊働的実践」、「アクションリサーチ」、「現場へ入る技術」、「ローカリティとインターローカリティ」、「ボランティア論」などである。防災心理学や災害社会学といった既存の学問領域の枠を越え、むしろ、現場から生まれ現場へと還っていくことを企図した「防災・減災の人間科学」の特徴が、これらの用語群に明確に示されている。

 

本書が直接に対象としているのは、防災・減災と呼ばれる分野である。しかし、本書の中核をなしている問題意識、すなわち、「恊働的実践」、「アクションリサーチ」をキーワードに、研究と実践、すなわち、アカデミズムと現場との間に新たな関係を構築しようとする姿勢 ― 本書に言う「人間科学」― は、防災・減災の領域のみならず、心理学、社会学、教育学など、人間や社会について探究する研究領域の全般と関わるものである。より広範な読者に本書を繙いていただければと願っている。

                           

矢守克也