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やまだようこ 編 やまだようこ・加藤義信・戸田有一・伊藤哲司著

この世とあの世のイメージ
――描画のフォーク心理学


A5判352頁

定価:本体4800円+税

発売日 10.11.30

ISBN 978-4-7885-1214-6

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◆あなたのあの世のイメージは?◆

科学時代、私たちはおおかた「たましい」の存在は疑っていますが、一方で「死ねば無になる」という死生観だけで生きることも耐えがたいと感じています。生物としての死は理解していても、死者に花を手向け、追悼のことばを捧げ、墓を参らずにはいられません。私たちは死によってすべてが終わるという合理的思考だけで生きているのではなく、さまざまなイメージや物語によって、死に意味づけを与えながら生きているのではないでしょうか。本書は、日本、イギリス、フランス、ベトナムの人々に、他界やたましいについてのイメージ画を描いてもらうことによって、現代民衆の心理世界のコスモロジーを浮き彫りにした、新しい心理学、フォーク心理学の成果です。 厚い本ですが、心理学ってこんなに生き生きとして面白いのかと、再認識していただけるでしょう。編者は、京都大学教授。

この世とあの世のイメージ 目次

この世とあの世のイメージ はじめに

◆書評

2011年3月22日、婦人公論

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◆この世とあの世のイメージ――目次
序章 いのちサイクルの心理学を
1 生と死のイメージ/2 この世とあの世のイメージ画 ― ビジュアル・ナラティヴの心理学/3 フォークイメージとしての他界 ― 共同的想像世界の心理学/4 日本文化に根ざし多文化にひらく ― 多声モデル生成法/5 人生の物語といのちサイクル ― 死生観と世代連関を含む生涯発達心理学

 第Ⅰ部 ものの見方と問い方 ― イメージ画のフォーク心理学を求めて

1章 何を問うか、どのような方法か ― イメージ画のフォーク心理学
1節 オリジナルな視点
1 人びとの心理学/2 何を問うか ― 二つの問い/3 想像世界としての「あの世」/4 「心理的場所」と「移動」/5「個人」から「関係」概念へ
2節 オリジナルな方法
1 イメージ描画法 ― 言語偏重からの脱却/2 平凡なものにひそむルールを/3 多声モデル生成法/4 質的研究と量的研究の統合/5 多文化との対話 ― クロノトポス・モデル
3節 イメージ画のフォーク心理学
1 イメージとは/2 イメージ画は、個人の内的表象の表現か/3 イメージ画は、社会の外的表象の再現か/4 フォークイメージ ― 表象概念の変革/5 集合的無意識や元型とフォークイメージ/6 社会的表象とフォークイメージ/7 イメージ画のネットワークモデル/8 目的と方法のまとめ ― 多文化のイメージ画による心理学モデルの生成

2章 二つの心理的場所「ここ」と「あそこ」
1節 基底概念としての「心理的場所」と「移動」
1 不変項と変化項/2 境界の長いトンネルを抜けるとあの世であった
2節 「ここ」と「あそこ」
1 コソアドの体系/2「ここ」でない場所「あそこ」
3節 「世」という概念
1「よ(世・代)」とは/2「あの世」の関連語 ―「他界」「来世」
4節 心理的場所
1 空間と場所/2 生態学的場所/3 記憶の基盤としての場所/4 認識の発生基盤としての場所と移動/5 場所と時間的変化
5節 本書のテーマ ― この世の人(生者・身体)とあの世の人(死者・たましい)の関係性

3章 モデル生成と分析方法
1節 多声モデル生成法
2節 モデルとは? ― 半具象モデルをビジュアル・モードで
3節 三水準のモデル生成
1 モデルⅠ 抽象モデル ― 基本枠組/2 モデルⅡ 媒介モデル、半具象モデル ― 基本構図/3 モデルⅢ 具象モデル ― 基本単位、基本形、事例
4節 モデルⅠ 基本枠組と生成プロセス
1 座標系 /2 水平軸 ― 基盤としての地面/3 垂直軸 ― 上下/4 原点 ― 自己・人間形/5 三つの領域 ― 地面、天空、地下/6 二つの心理的場所 ― この世とあの世/7 境界と移行領域
5節 モデルⅢ 基本単位 ― モデルⅢの生成プロセス
1 生データから基本単位へ ―「たましいの形」を例に/2 現場データの加工と編集 ― まるごと手の内へ入れる知の縮小化/3 現場データの観察と対話 ― 有限情報の対話的観察を繰り返して基準づくり/4 現場データの質的典型性と多様性の発見/5 基本単位の生成
6節 イメージ画の量的分析と質的分析
1 量的分析と質的分析の特徴/2 量的分析 ― 分類カテゴリー作成と頻度の比較/3 質的分析 ― 基本単位の共通性、関係性、多様性
7節 モデルⅡ 基本構図の生成プロセス
1 モデルⅡ 基本構図 ― たましいの形態変化モデル/2 人間形から無形化へ/3 人間形から天体形へ/4 人間形から異形化へ/5 モデルⅡ「たましいの形態変化モデル」まとめ

 第Ⅱ部 イメージ画の分析―質的方法を中心に

4章 この世とあの世の位置関係 ― 日本のイメージ画1をもとに
1節 この世とあの世の位置関係モデル
1 基本構図モデル/2 垂直モデルと水平モデル ― 天上、地下、地上の他界
2節 あの世はどこにあるか ― 先行研究より

3節 垂直他界 ― 天上他界のイメージ
1 あの世は上に ― イメージ画1の数量的分析/2 天上他界のイメージ ― 典型事例/3 自然の楽園としての天上他界/4 あの世の人が見守るということ
4節 垂直他界 ― 地下他界のイメージ
5節 垂直他界 ― 三層他界のイメージ
1 天上・地上・地下/2 多層他界のイメージ
6節 水平他界 ― 地上遠隔他界のイメージ
1 併存する別世界/2 あべこべ鏡映他界/3 此岸と彼岸/4 あの世は左か右か
7節 水平他界 ― 地上近傍他界のイメージ
1 この世で共存/2 あの世の人を区別する標識 ― 身体の変形、背後霊や影/3 入れ子の他界
8節 この世とあの世の境界
1 この世とあの世の分離のしかた/2 境界/3 雲と川
9節 天のあの世から、地のこの世を見守る ― 日本のイメージ画1のまとめ

5章 たましいの形といのち循環 ― 日本のイメージ画2をもとに
1節 たましいに形があるなら
2節 たましいとは
1 心とマインド/2 ソウル、スピリット、アニマ/3 たましい、たま、カミ/4 たましい、むすぶ、むす(生す)
3節 たましいの形の多様性と変化プロセス
1 たましいの形態変化/2 気体化プロセスの三基本形 ― 人間形、人魂形、気体形
4節 人間形のたましい
1「人間形のたましい」の肉体からの分離のしかた ― 抜け出る、起き上がる/2 人間形とは何か ― 死んでも変わらない、あの世で再会する/3 幽霊形(足の脱落)/4 影形(人間の影)
5節 人魂形のたましい
1 人魂形の基本形と多様性/2 玉と炎の人魂形/3 そのほかの人魂形 ― 雲形、渦巻、水滴、虫、ハート形など
6節 気体形のたましい
1 気体形のイメージ/2 気体形の身体からの分離と移行/3 気体形の世界 ― 不可視化と浄化、拡散と消失/4 風になるたましい
7節 神形や天体形への変化プロセス
8節 異形への変化プロセス ― たましいの動物化と他者化
1 天人形 ― 天女、魔女、天の車、衣服や道具や乗り物で飛ぶ/2 天使形 ― 羽の生えた人/3 鳥形 ― 動物化とお迎え/4 鬼形 ― 他者化と異形化
9節 たましいの連続性 ― 不死性、同一性と形態変化
10節 たましいの往来プロセスと生まれ変わり
1 たましいの往来パターン/2 たましいの往来と生まれ変わり
11節 いのちサイクルと循環する時間
12節 たましいの形態変化といのち循環 ― 日本のイメージ画2のまとめ
 
6章 フランスのイメージ画をもとに
1節 フランスの他界イメージをめぐる社会的・宗教的背景
1 キリスト教移植以前のヨーロッパの他界観/2 中世のカトリック・フランス/3「ライシテ」国家としての近現代フランス
2節 フランスのイメージ画1 ― 事例と特徴
1 この世に対するあの世の位置/2 あの世はどういうところか?/3 見守る死者、手を差し伸べる死者
3節 フランスのイメージ画2 ― 事例と特徴
1 イメージとしての「この世への帰還」と教義としての「ありえない帰還」/2 フランスにも人魂形がある?/3 イメージの欠落 ―「信じないゆえにイメージせず」と「信ずるゆえにイメージせず」
4節 フランスのイメージ画の特徴 ― まとめ

7章 イギリスのイメージ画をもとに
1節 イギリスの他界観をめぐる歴史的状況
2節 調査地域と調査協力者
3節 イギリスのイメージ画1 ― 事例と特徴
1 この世に対するあの世の位置/2 あの世はどういうところか?/3 見守る死者、手を差し伸べる死者
4節 イギリスのイメージ画2 ― 事例と特徴
1 この世への帰還のイメージ/2 植物への再生のイメージ
5節 この世とあの世のアイデンティティの連続性
1 この世とあの世のアイデンティティの連続性の問題/2 この世とあの世のアイデンティティの連続性の描画表現/3 あの世におけるアイデンティティのあり方
6節 この世での行動とあの世での姿の因果関係
1 この世での行動とあの世での姿の因果関係の問題/2 この世での行動とあの世での姿の因果関係の描画表現

8章 ベトナムのイメージ画をもとに
1節 ベトナムの社会的・宗教的背景
1 ベトナムの国の成り立ち/2 ベトナムと日本の文化的共通性/3 宗教的背景/4 陰陽思想/5 死者の弔いと祖先崇拝/6 魂と魄 ― お化けと悪鬼/7 遅れてやってきた近代化と科学信仰
2節 ベトナムのイメージ画1 ― 事例と特徴
3節 ベトナムのイメージ画2 ― 事例と特徴
4節 ベトナムの他界イメージの探究 ― 映画や小説等を手がかりに


 資料
1 調査方法と調査協力者/2 他界信念調査 ― 4か国の比較分析

 引用文献 (9)
 索引   (1)


                                              装幀=桂川 潤


この世とあの世のイメージ――はじめに

はじめに

 人間の生涯は、個人が生まれてから死ぬまでで終わりだろうか。現代の科学的知識では、人は死ねば無になるはずである。しかし、どの文化にも「あの世」や「たましい」というような集合的イメージがあり、今でもそのイメージは根強く生きている。人は死んでも、「あの世」と名づけられた世界で生き続けるといわれてきた。人が死ぬとき、「たましい」が肉体から抜けて、たましいは姿を変えてあの世へ行くと想像されてきた。この世からあの世へとたましいが移行していく形は、なぜか風や火の玉や鳥のような姿であらわされてきた。

 このようなイメージは幻想かもしれない。しかし、人々が生から死へ死から生へ、世代から世代へと何かを受け継いでいく物語をはぐくむ上で、重要な心理的機能をもっているのではないだろうか。人の一生を個人に閉じないで、生まれる前の世界や死んだ後の世界までつつみこむ、より大きな文化的物語としての人生サイクル、世代間循環を含むいのちサイクルのなかに組み入れて眺めてみたらどうなるだろうか。

 本書では、このような問いをもとに「この世とあの世のイメージ」を探ろうとする。それは、あの世のイメージはこの世のイメージと、死のイメージは生のイメージと切り離すことができないとみなし、両者を対にした関係概念としてとらえる理論から出発した。また、この世とあの世を、二つの心理的場所とみなし、それらの場所のあいだを移動する移行表象として「たましい」という概念があるのではないかと考えた。このような生と死をむすぶ物語は、共時的な画面配置としてイメージ表現する方法で探究される。この方法は、ヴィジュアル・ナラティヴという新しい物語論へのチャレンジでもある。

 本書では、死後の世界をフォークイメージとしての想像世界としてとらえている。したがって、あの世は本当にあるのかという他界の実在を問うものではない。また、イメージや想像力を個人の内側に閉じた「こころ」の産物とは考えないで、集合的な文化的物語であると考え、フォークイメージとしてとらえている。本書がめざすのはフォーク心理学であり、個人の心や個人差に関心をもってきた伝統的な心理学とも、心理現象を社会や文化や習俗など大きな枠組みに還元してしまう伝統的な社会学や文化人類学や民俗学のアプローチとも異なっている。

 本書では、方法論的にも新しい提案をしている。特に文化比較の方法と質的データ分析の方法は新規に開拓しながら研究をすすめた。あらゆる学問の方法の基礎には「比較」という作業がある。たったひとつだけを見て、ものごとの真理を探究することはできない。本書の研究では、「この世とあの世のイメージ」を、日本、フランス、イギリス、ベトナム、4か国の大学生2040人が描いた描画を比較した。従来の比較文化的研究では、2か国をとりあげて二項対立的に比較して、文化差など「差異性」を強調することが多かった。本研究では4か国という多国比較をおこない、それぞれの文化や事例のズレを多様なかたちで比較しながら、それらに基本的に共通するものは何かを考え「共通性」を見いだす観点を特に重視した。

 研究全体としては、描画だけではなく言語による質問紙調査も併用し、他界の信念を問う質問紙調査もおこなった。本書では紙面の都合で質的分析を中心にまとめたが、描画データも数量的分析と質的分析の両方をおこなって妥当性のある絵を事例として用いた。

 質的な描画データはどのように分析してまとめたらよいのか大変難しく、長年にわたってさまざまな試行錯誤をくり返して「多声モデル生成法」という方法論を開発した。この方法論では、文化を超えた共通性と、個々の多様性の理解という矛盾する要請を同時に満たし、なおかつ全体を統一的に理解できる多重のモデルを生成することができる。

 その結果、「あの世が天上にある」「あの世の人がこの世の人を見守っている」「死後のたましいが肉体から抜けていく」「たましいが空に浮き上がっていく」「たましいが循環して生まれ変わる」などのイメージが、モデルのなかに位置づけられ、いかに文化を超えて共通性が高いかが浮き彫りになった。

 人々が描くイメージは個々に個性的であり、どれひとつとしてまったく同じものはないが、しかしまた驚くほど共通性も高かった。それは、想像世界といえどもまったく自由にどのようにもイメージできるわけではないことを示している。イメージにも文法があり、そこには多くの人々に共通するイメージ化のルールがあり、物語の語り方があるといえよう。それらは、個人に閉じられた「主観的」なものでも、ばらばらの断片でもなく、ある意味で合理的な心理学的ルールに基づいているのではないだろうか。

 このように本書では、新しい多くの試みを提案したが、まだまだ道なかばでもある。全体を見渡すモデルを眺め、ひとつひとつの生き生きした事例を比較しながら、ここからまた新鮮なイメージがふつふつとわき出し、さまざまな問いが紡ぎ出され、新たな発見が生まれてくることを願っている。


 本書に成るまでには長い年月がかかった。1994年の研究開始からかぞえると約16年になる。最初はすぐにも本にする予定であったが、理論とモデルと分析方法のすべてにわたって何度も振り出しに戻って事例を見つめ直し、何度もモデルに修正を加え、何度も頓挫しながら書き直す作業をくり返した結果、長いあいだ抱えこんでしまった。

 本書のデータ収集や結果の解釈にあたっては、Dr.Philippe Wallon(Institut National de la Sant� et la Recherche m仕icale)、Dr. Claude Mesmin(Universit� Paris VIII)、Prof. Lecouteux,C. (Universit� Paris IV)、Ms. Phan Thi Mai Huong(ベトナム社会人文科学国家センター心理学研究所)、Prof. Sepp Linhart (University of Vienna)、Dr. Susanne Formanek(Austrian Academy of Sciences)、Prof. Carl Becker(京都大学)、小嶋秀夫名誉教授(名古屋大学)、矢野智司教授(京都大学)、西平直教授(京都大学)、皆藤章教授(京都大学)、小松和彦教授(国際日本文化研究センター)、北山修名誉教授(九州大学)、後藤倬男名誉教授(愛知県立芸術大学)、渡辺恒夫教授(東邦大学)、竹内謙彰教授(立命館大学)、井上篤子さん(ロンドン大学)に多大な御支援と御教示をいただいた。本書をまとめるにあたっては、新曜社の塩浦あきらさんに、大変お世話になった。

 ここに記しきれなかった方々も含め、長年にわたって国際的・学際的に多岐にわたる方々と国際学会、国内学会、研究会など多様な場で数々の討論を行ってきた。本書が何とかまとめられたのは、これらの方々のおかげである。大勢の方々に支えられてここまで来られたことは、本当にありがたいことである。心より深く感謝する。

 本研究には、おもに下記の二つの科学研究費の補助を得た。公刊した関連論文、国際学会や国内学会などの発表は多数におよぶ。それらは下記の報告書や文献を参照していただきたい。

山田洋子(研究代表者)、(2001)、現代日仏青年の他界観の生涯発達心理学的研究、平成10-12年度科学研究費基盤研究(C)研究成果報告書

山田洋子(研究代表者)、(2004)、 人生サイクルと他界イメージの多文化比較による生命観モデルの構築、平成13-15年度科学研究費基盤研究(B)研究成果報告書