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牟田和恵 編

家族を超える社会学
──新たな生の基盤を求めて


四六判224頁

定価:本体2200円+税

発売日 09.12.10

ISBN 978-4-7885-1183-5

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◆家族を超える論理と倫理

他人と同居(シェアハウジング)、同性カップル(レズビアン、ゲイ家族)、子連れ再婚(ステップファミリー)など先進諸国で認知されつつある多様な家族から、共同生活がうまくいく条件を探ります。愛情、セックス、血のつながりは条件外、他人であってもルールを守り、ケアの権利・義務を果たせたら、それが家族に代わる人生の基盤になりうるのか?をめぐって議論を深めます。編者は大阪大学大学院教授、著者は上野千鶴子氏、岡野八代氏、山田昌弘氏ほかフェミニズム・家族論の代表的論者。

家族を超える社会学 目次

家族を超える社会学 序

◆書評

2010年3月5日、Women's Democratic Journal

2010年5月29日、図書出版、岩間暁子氏評

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家族を超える社会学 目次

序 家族のオルタナティブと新たな生の基盤を求めて――本書のねらい  牟田和恵

 I 「家族」を超える論理と倫理
第1章 家族の臨界――ケアの分配公正をめぐって  上野千鶴子
 コラム 高齢者虐待――家族の変容と家族リスクの高まり 春日キスヨ
第2章 家族からの出発――新しい社会の構想に向けて 岡野八代
 コラム 出産と家族――「こうのとりのゆりかご」  白岩優姫
第3章 ジェンダー家族のポリティクス  牟田和恵
    ――家族と性愛の「男女平等」主義を疑う
トピックス ウーマン・リブのコレクティブがめざしたもの 西村光子


  II 「家族」を超える多様な実践――生きる基盤の新たなかたち
第4章 若者の自立/自律と共同性の創造――シェアハウジング 久保田裕之
 トピックス コレクティブハウジングの理念と実践  小谷部育子
 コラム ひきこもりと家族  井出草平 
第5章 性愛の多様性と家族の多様性――レズビアン家族・ゲイ家族 釜野さおり
 コラム シングルマザー  社納葉子
第6章 ステップファミリーと家族変動―家族の下位文化と制度  野沢慎司
 コラム 家族のオルタナティブは可能か?  山田昌弘



序 家族のオルタナティブと新たな生の基盤を求めて――本書のねらい

序 家族のオルタナティブと新たな生の基盤を求めて
――本書のねらい                       牟田 和恵

 家族に関するニュースや記事が新聞やテレビに現れない日はほとんどないといっていい。残念ながらその多くは、子どもの虐待や、介護疲れからの夫婦・親子間の殺人などの悲しい事件だったり、少子化や未婚化、離婚の増加といった現象から家族と日本社会の将来を憂う論評であったりする。また、報道されるような事件には無縁の人びとにとっても、グローバルに広がる経済的危機の時代に、安穏な家族生活を生きることは容易ではないように思われる。家族は人びとに安定を与えるどころか、個人にとって家族がリスク・危機要因であると論じる専門家もある。

 しかし家族史・社会史研究の蓄積は、こうした家族をめぐる変動を「危機」ととらえる必要はないことを私たちに教えた。家族のありようは、社会経済的な変化に応じて歴史的に変貌してきたのであり、私たちの自明としてきた家族の姿は近代に至る社会経済的な変化のなかで生まれ、広がり、確立したものだ。だから、いま家族をめぐって生じているさまざまな問題や変化は、人びとの暮らしと家族的な関係が新たな適応のかたちをとろうとしているにすぎないのだ、と。

 本書はそうした見解に基本的に同意しながらも、そこからさらに、現在そしてこれからの私たちの生きる基盤となりうる新たなかたちの「家族」はいかなるものでありうるのかと、論を進めたい。自明とされてきた家族のすがた、つまり「一対一の男女の対の関係(とその子ども)」という核家族的関係には閉じない、人びとの新たなつながりから築きうる「家族」の可能性とはどのようなものか、と。

 振り返ってみれば、私たちは家族のありようが歴史・社会的に構築されることを認識しながらも、いまだ対の性愛と血縁で閉じた「核家族」を家族の自明の姿として考えることから自由ではなかった。そして、性愛や血縁のみを家族・親密さの基盤と考えてしまうことで、私たちの紡ぎうる親密さ・拠るべき生の基盤を構築する可能性は大きく減じられてきたのではないか。既存の家族関係の閉塞と家族をとりまく社会経済的変動のなかで、人びとがより自由で豊かな生の基盤を築いていくために、これまでの「家族」像や概念を超えた構想が必要だ。

 本書は以上の問題意識から実践的かつ理論的に、多様な側面を通じて、その可能性を検討するものである。パートI「の各章は、何が「家族」を構成するのか、「家族」のつながりの根拠や可能性をラディカルかつ理論的に問い、従来の家族が依って立っていた原理・「常識」の限界と問題点を検討する。パートIIは、実際に現れている、新たな生きる基盤を実践している具体的な試み・社会的現象を取り上げて、それらが「家族」にどのような意味を投げかけているのかを論じる。またトピックス、コラムでは、歴史的に現れた新たな生の基盤を築こうとする試みを紹介し、最近話題となったさまざまな事象がどのように現在の家族の問題と関連しているのかをわかりやすく解説する。

 ここで、しばしば出会う質問や疑問に応えるかたちで、本書の意図するところを三点にわたって補足しておきたい。

 1 「多様な家族」「オルタナティブな家族形態」を論じるのとどこが違うのか?

本書は、多様な家族のかたちについて述べることを主眼とするのではなく、これまでの「家族」にとらわれない、生きる場・関係の可能性を問おうとしている。「家族のオルタナティブ」という語をこの序の章題に使っているが、その意味するところは「オルタナティブな家族」とは異なる。事実婚やシングルマザーなどの、従来の規範的家族から外れる家族のかたちや、本書で取り上げているコレクティブハウジングやゲイ・レズビアン家族、ステップファミリー等が「多様な家族」「オルタナティブな家族」と呼ばれることがあるが、本書は、そうしたかたちの家族のありようを、従来の家族のバリエーションとして取りあげようとしているのではない。

本書が「家族のオルタナティブ」として論じるのは、これまで人びとの生きる基盤が婚姻に基づく小家族という特定の形態に限定されてきたことを認識し、そこからそれにとらわれない生きる基盤の可能性、それをいかに構築できるか、を探ろうというものである。

たとえば、第1章(上野)で論じるように、ケアの責任と負担を考えることを通じて、「公」「私」の境界の再定義を行おうとする試みは、その課題への正面からの問いだ。コレクティブハウジング(トピックス、小谷部)やゲイ・レズビアンファミリーズ(第5章、釜野)も、既存の家族世帯を内部の単位とする、性的絆を、少なくとも形成のきっかけとしては中核とする、という点では婚姻小家族と地続きではあるが、それでも、物理的にも心理的にも、婚姻小家族の閉鎖性やヘテロセクシズム(異性愛中心主義)に根ざす相補的排他性に挑戦し、変革しようとする動きだといえる。ステップファミリー(第6章、野沢)の実践からは、血縁の絆に拠らない関係が、さまざまな困難を経験しながらも、新たな関係性の基盤を自ら見いだしていくことがわかる。したがって、アプローチの違いやラディカルさに幅はあれど、いずれの章もこれまでの「家族」の枠を超えた生きる基盤の可能性の一端を示すものである。

 2 既存の家族とは異なる可能性を探るのならば、「家族」という言葉を用いない方がいいのではないか

たしかに、「家族のオルタナティブ」という表現は「オルタナティブな家族」=「多様な家族」の言い換えとして受け取られかねない。そのうえ、本書の各章では、新たな人びとのつながり方・場を、シンボリックな意味で「家族」、「ファミリー(ズ)」と表現しており、ますます「家族」という語の意味を不明確にしているかもしれない。だから、新たな生きる基盤と人びとの関係性を指すのには、「家族」という語を避けた方が、論点の明確化のためには望ましいかもしれない。

しかし本書ではその選択肢はとらず、あえて、「家族」「ファミリー」という語を、統一的な定義をすることなく、それぞれの論者の意図するところにしたがって用いている。その理由は、「家族」という言葉が、指し示す意味内容を歴史のなかで変えてきた事実を踏まえるならば、「家族」という言葉に新たな積極的な意味づけを与えていくこともできるはずだと考えるからである。第2章(岡野)で論じるように、「家族」という言葉と概念には、深く豊かな可能性がある。私たちは、「家族」という言葉をいま簡単に手放すわけにはいかない。

 3 そもそもなぜ「家族のオルタナティブ」をいま考える必要があるのか?

家族のオルタナティブ、人の生きる基盤の可能性を考える、という問題設定は、抽象的で現実的でない印象を与えるかもしれない。しかし本書は、家族をめぐって現在起こっている諸問題、家族が呈している限界を深刻に受け止めることに問題関心を発している。貧困や格差の進行、未婚化・晩婚化・少子化問題、ときには殺人事件やDV・虐待さえにも至る家族員間の葛藤、介護問題など、現在の家族をめぐる問題を真剣にとらえるからこそ、それらの問題に対して個別的・臨床的に対応していくだけではない、構造的な問題解決の可能性を探ろうとしているのだ。これは、理念的で迂遠な道すじであるかもしれないが、しかし実のところ、第3章(牟田)、第4章(久保田)に見るように、それは人びとの生きる力を強くしようとするきわめて現実的な提案でもある。

最後に念のためつけ加えるなら、本書は『家族を超える社会学』と題されているが、従来の家族社会学からは周縁的なことがら・テーマを扱っているように見えるかもしれない。しかし本書で検討しているのは、家族社会学が通常対象としているものの「残余」「例外」なのではなく、人間にとって生の基盤としての家族が成立する根幹は何か、ということである。「家族」を否定するのではなく、「家族」をもっと魅力的で力強いものにしうる道をひらくことである。本書が「家族」を考えるうえで、多少なりとも新たな視野をひらくことができれば、編者としてこれにまさる喜びはない。

 付記
 本書は、二〇〇七年九月八―九日に開催された日本家族社会学会第一七回大会でのシンポジウム「家族のオルタナティブ―家族研究の挑戦」およびテーマセッション「家族/非家族をめぐって―つながりの根拠を問う」での報告・議論をもとにしている。また、本書のいくつかの章・トピックスは、日本家族社会学会編『家族社会学研究』vol.20,No.1 2008からの転載(一部加筆改稿)による。日本家族社会学会に謝して記しておく。

 また、本書の研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C)「未婚女性の将来不安の克服に向けた新しい家族とシティズンシップに関する研究」によるものである。