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中井吉英 監修 / 内分泌糖尿病心理行動研究会 編


医療における心理行動科学的アプローチ
――糖尿病/ホルモン疾患の患者と家族のために


A5判280頁

定価:本体2800円+税

発売日 09.6.15

ISBN 978-4-7885-1170-5


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◆慢性病をより健康に生きるための手引き◆

国民医療費の3割が糖尿病・高血圧・高脂血症などの生活習慣病、死亡の6割 で生活習慣病が原因、といったことから「メタボ健診」が始まりました。また 更年期障害(最近は男性も)や摂食障害においても、個々人の心理社会的要因 への働きかけが必須とあって、現在、盛んに《心理行動科学的アプローチ》が 提唱されています。――そこで本書では、超高齢社会を迎え「患者中心の医療 へのパラダイムシフト」が急務とされる今、患者のクォリティ・オブ・ライフ を見すえながら健康を維持していくアプローチ(心のケアから栄養指導・運動 指導や漢方まで含め)の数々、次世代「チーム医療」の実際を、広汎にわたり 紹介します。医師はもちろん、看護師・心理士・栄養士・理学療法士、薬剤師 ……あらゆる医療従事者必携の《メディカルフロンティア》ハンドブック!

医療における心理行動科学的アプローチ 目次

医療における心理行動科学的アプローチ まえがき

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目 次


序 文 (大澤仲昭)
序 文 (末松弘行)
 

ま え が き

序 章 心身医学総論

第1章 糖尿病の心理行動科学
糖尿病における心理と行動
糖尿病の精神症状
糖尿病女性と摂食障害
糖尿病患者の看護
糖尿病診療に有用な心理アセスメント
楽しい糖尿病教室
糖尿病栄養指導のコツ
糖尿病運動指導のコツ

糖尿病へのアプローチ
カウンセリング  
認知行動療法
エンパワーメント
ナラティヴ・アプローチ
肯定的アプローチ
システムズアプローチ
コーチング
向精神薬による薬物療法
糖尿病の漢方治療

糖尿病診療における心理行動学的アプローチの目的


第2章 甲状腺疾患の心理行動科学
甲状腺機能亢進症における心理と行動
甲状腺機能低下症における心理と行動
甲状腺疾患と精神障害
甲状腺と摂食障害
甲状腺疾患患者の看護
甲状腺疾患診療に有用な心理アセスメント

甲状腺疾患へのアプローチ
カウンセリング
プロセス指向心理学
向精神薬と関係性
甲状腺疾患の漢方治療

いつも甲状腺疾患を念頭において
他科にまたがる多彩な症状
ホルモン補充に関する注意点


第3章 心理行動科学的アプローチの課題 Discussion

糖尿病にうつ症状を合併したときの治療のポイント


第4章 心理行動科学的アプローチの展開
視床下部・下垂体疾患
性腺機能低下症
更年期障害
男性更年期障害
肥満症・メタボリックシンドローム
高 脂 血 症
摂 食 障 害

「個の医療」から「関係性の医療」へ
―― 日本独自の全人医療を目指して


あ と が き


ま え が き



厚生労働省の「2007年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる群と可能性を否定できない「予備群」が、合わせて2210万人と推計され、十年前の1997年と比べ約1.3倍にも増えていることがわかりました。また、国民医療費の3 割が糖尿病・高血圧・高脂血症などの生活習慣病で、死因別死亡率の6割が生活習慣病が原因となっているというデータがあります。

これらのことから、医療保険者に、食生活・飲酒・喫煙などの生活習慣そのものの自主的な健康増進・疾病予防の取り組みをはたらきかけることが重視されるようになり、2008年4月から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した生活習慣病予防のための健診・保健指導である「特定検診(いわゆるメタボ検診)」が開始されました。一方、近年多くの研究により、糖尿病患者の生活習慣や血糖を調節するホルモンの作用に、さまざまな「心理社会的要因」が密接に関与していることが明らかになってきました。それにより、これまでの知識教育だけによる療養指導では効果が乏しく、治療の主役である患者の心理面・行動面に着目した"心理行動科学的アプローチ"が必須であることが提唱されてきています。

また、糖尿病と並ぶ代表的ホルモン疾患であるバセドウ病(甲状腺機能亢進症)は、以前からその発症や経過に心理的ストレスなどの心理社会的要因が影響する可能性が示唆されてきましたが、長いあいだ、その因果関係は不明でした。また、本症は多彩な精神障害(バセドウ精神病)を合併しやすいことが知られており、従来は甲状腺ホルモンの過剰によるものと考えられてきました。しかし、最近多くの研究により、本症の発症や経過に影響する「心理社会的要因」が明らかにされたとともに、バセドウ精神病は、甲状腺ホルモンの影響以外にさまざまな「心理社会的要因」が関係して生じている実態が確かめられつつあります。加えて、甲状腺機能低下症でも、うつや不安などの精神障害を伴う例が多いため、甲状腺疾患においても"心理行動科学的アプローチ"が重要と考えられます。

さらに、更年期障害は、中年期女性にとってQOL(生活の質)を大きく損なう原因となるホルモン疾患ですが、近年の研究により、本症の病態は閉経による女性ホルモン減少のみが原因ではなく、ライフサイクルにともなう多様な「心理社会的要因」が関係していることがわかってきました。そのため、本症の治療はホルモン補充療法のみでは不充分であり、漢方治療を含めた"心理行動科学的アプローチ"が重要とされてきています。最近では、男性においても更年期障害の存在が示唆されてきており、女性と同様にホルモン減少と「心理社会的要因」の影響という、心身両面を考慮しましたアプローチが求められています。

このように、さまざまな糖尿病/ホルモン疾患において"心理行動科学的アプローチ"の重要性が高まってきていますが、その実態はいまだ医療従事者には浸透しておらず、実際に本アプローチについて研鑽できる機会は少ないのが現状です。

以上の状況を鑑みて、糖尿病/ホルモン疾患を対象にした"心理行動科学的アプローチ"を学際的に研究・討論する場として、2004年の春、関西在住の医療従事者を中心に《内分泌糖尿病心理行動研究会》〔http://www.nt-shinri-k.net/〕が発足しました。以来、年二回の研究会が定期的に開催され、内科医、心療内科医、精神科医、看護師、臨床心理士、栄養士、理学療法士、薬剤師などが一堂に会して、活発な討論がなされてきています。

この度、本研究会が十回目を迎えたことを記念して、糖尿病/ホルモン疾患の患者様とその御家族、およびそれを支える医療従事者たちが"心理行動科学的アプローチ"についての研究の現況とアプローチの実際を研鑽できるようになることを目的に、これまで特別講演をしてくださった演者の先生方、本研究会の顧問、世話人、アドバイザーの先生方を中心とした執筆陣により、この分野における現在の知見をまとめるべく本書は企画されました。

近代西洋医学は、「身体」を客観的対象と捉えることで発展してきた、いわば"三人称の医学"でした。それに対して、心と身体の関係性を扱う〈心身医学〉は、「心理」「行動」「社会」という新たな要因を加えることにより、医学・医療上のパラダイムシフトを生じさせました。また、昨今、医療界で常識化しているEBM(Evidence-based medicine:根拠に基づいた医療)という考え方は、疾患diseaseの理解には有用であるものの、悩みや苦しみをともなう病気illnessの理解には不充分であることから、NBM(Narrative-based Medicine:物語と対話に基づいた医療)という、患者の個人的背景を重視する考え方が出てきました。〈心身医学〉や〈NBM〉などの"心理行動科学的アプローチ"とは、患者個人の心理社会的背景や関係性を重視する医学・医療なので、いわば"一人称かつ二人称の医学"といえるでしょう。

言い換えるならば、西洋医学はこれまで「身体」「心理」「行動」「社会」と要素に分けて考えてきたために、生活習慣病や心身症の増加という疾病構造の変化に対応が困難となってしまった、という反省から、各要素間の関係性を見直さざるを得なくなってきたのです。一方、東洋医学では、古来より「心身一如」といった言葉に表されるように、病人を要素には分けずにまるごと治療していく"全人的医療"が行われてきました。本書のなかで漢方治療を"心理行動科学的アプローチ"に入れているのはそのためです。

上記のような疾病構造の変化には、社会や文化背景の変化が密接に影響しています。明治維新以降、我々日本人は、医学・医療に限らずもっぱら近代西洋科学や文化の導入に勤しんできましたが、病や健康の意味を考えるためにも、今こそ、自らの文化と歴史を見直していく好機であるように思われます。

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本書の特徴を以下に列記します。

① 本書は、患者様とその御家族および"心理行動科学的アプローチ"が、
専門ではない医療従事者が読まれても充分に理解でき、診療にすぐ役立てられることを目指しました。そのために、極力平易な文章表現を心がけ、薬物名は一般名と商品名を併記し、専門用語には括弧内に説明を加えるようにしました。

② 最も研究が進んでいる糖尿病を主に、甲状腺疾患その他できるだけ多くのホルモン疾患における"心理行動科学的アプローチ"の知見を入れるようにしました。また、読者がさらに詳しく学べるように各項目毎に文献も挙げました。

③ 専門の異なる医療従事者が、それぞれの立場から"心理行動科学的アプローチ"の実際について知ることができるように、本書の後半に座談会の章を設けました。まずこの座談会からお読み頂くことで、本書の概要がわかりやすくなると思われます。 ④ 序章「心身医学総論」や、薬物療法・心理療法などの代表的な"心理行動科学的アプローチ"の項目を入れることにより、糖尿病/ホルモン疾患以外の領域に従事しておられる医療従事者にも役立つ内容を目指しました。

糖尿病/ホルモン疾患全般にわたる"心理行動科学的アプローチ"について一冊にまとめた本は、おそらくわが国でも初めてのだと思われます。そのため、まだまだ不備な点もあるかと存じますので、読者からの忌憚ないご意見を頂けますと幸いです。

本書が、病を持ちながらも「より良い人生」を送りたいと望んでおられる多くの糖尿病/ホルモン疾患の患者様とその御家族、およびそれを支える医療従事者の皆様にとってのブレイクスルーになることを祈念してやみません。

 
藍野学院短期大学第一看護学科
深尾 篤嗣