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ロイック・ヴァカン 著/森 千香子・菊池恵介 訳


貧困という監獄
――グローバル化と刑罰国家の到来


四六判220頁

定価:本体2300円+税

発売日 08.12.18

ISBN 978-4-7885-1140-8

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◆「監獄」の膨張に歯止めをかけられるか◆

日本でも、安全・安心街づくりの引き合いに出される「ゼロ・トレランス」。軽犯罪をも厳重に取り締まることで犯罪率が低下し、治安悪化を防ぐというこの考え方は、NY警察から世界中に広まり、本国アメリカでは逮捕者が急増、刑務所はパンク状態だそうですが、この政策は、労働市場の底辺層(下層階級や移民)が標的で、貧乏人には福祉手当ではなく監獄をあてがう(貧困を犯罪化する)方が国家予算を削減できて効率的という発想に支えられ、国家の社会福祉機能の脆弱さと表裏一体なのです。本書はこのような国家体制を痛烈に批判し、公の「社会的機能」創出の緊要性を喝破した、仏の大ベストセラーです。著者はP・ブルデュー門下のフランス出身の社会学者で、現在は米国カリフォルニア大学バークレー校教授。

貧困という監獄 目次

貧困という監獄 訳者解説

書評

2009年2月15日、山梨日々新聞

2009年3月6日、週刊読書人、白石義治氏評

2009年6月8日


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貧困という監獄 目次
第一部 貧しきは罰せよ!
―ヨーロッパに上陸した新しい刑罰の「常識」
1 マンハッタン―新しい刑罰の理念の生産工場
2 「ゼロ・トレランス」のグローバル化
3 ロンドン―ネオコン・イデオロギーの中継地
4 ヨーロッパの輸入業者と広告代理店
第二部 刑罰国家への誘惑―米国に魅了されるヨーロッパ
6 アメリカの変貌―福祉国家から刑罰国家へ
6−1 刑務所人口の爆発的な増大
6−2 社会を覆う刑罰と監視の網
6−3 監獄政策―「大きな政府」が許される聖域
6−4 刑務所ビジネスの回帰と発展
6−5 「優先的」に投獄される黒人たち
監獄という名の貧困対策
7 ヨーロッパの刑務所の「お得意さん」
8 一望監視型社会にむかって
9 通貨統合の次は、警察と監獄の統合か?

訳者解説


貧困という監獄 訳者解説
・・・・・・ヴァカンが監獄というテーマに「衝突」したのも、このウッドローンの(ボクシング)ジムにおいてだった。ジム仲間のライフストーリーを聞くうちに、誰もが一度は刑務所に入った経験のあることに気づく。たとえばスパーリング・パートナーで友人のアシャンテ(本書は彼に捧げられている)は、10代の終わりから6年間を刑務所で過ごした。そこでボクシングを覚えた彼は、出所後にジムに通い始めて、ヴァカンに出会う。しかし、ボクサーのキャリアが失敗に終わり、ジムも閉鎖されると、アシャンテは再び昔の仲間とつるみ始める。そしてインフォーマル・ビジネスに関わるようになり、やがてゲットーと監獄を「行ったり来たり」するようになったのだ。
ヴァカンは刑務所でアシャンテと面会したり、保釈金を払ったりするという経験を通じて、ゲットーでは投獄されるのが「ありふれたこと」であり、監獄がゲットーの生活と切り離せないことを痛感する。また、ただでさえ貧しいゲットーの住民が、監獄に入ることでさらに貧しくなり、その家族もどん底に突き落とされていく(福祉給付の停止や公営住宅からの退去)というメカニズムを目の当たりにした。なぜ、このような悪循環が起きてしまうのだろうか。それはどのような社会構造に起因しているのだろうか。このような疑問に激しく突き動かされ、ヴァカンは監獄の調査に飛び込んでいったのである。
 本書は、貧困と監獄の関係を、グローバル化と刑罰国家の到来という大きな構造的変化のなかで捉えたものである。しかし、そこには、エスノグラフィーを通して「取るに足りない現実に長時間接した」著者が、個人的な出会いや「友人が刑務所に送られる」経験を通して問題意識を形成し、その対象に迫っていることが随所に感じられる。これは、他の学術書にはない本書の魅力である。

本書を理解する上で、もう一つふまえなければならないのは、本書が書かれた1990年代末のフランスと西ヨーロッパの社会的文脈である。ネオリベラリズムの枠組みがアメリカから世界に広がり、1990年代以降、この流れは西ヨーロッパでも顕著になった。企業の生産拠点の海外移転や、国内産業の空洞化に対応するように、上層階級や企業への減税、公共部門の民営化、雇用の流動化、社会保障削減などの政策がとられ、福祉国家の解体が進んでいった。だが、これと並行して、もう一つに現象が進行していた。1970年代初めまでは減少傾向にあったヨーロッパの刑務所人口が、急激に上昇しはじめたのである。また、治安対策が強化され、「犯罪を未然に防ぐ」ための取り締まりが強化された結果、「怪しそうな外見」の外国人・移民を犯罪者扱いしたり、差別したりする行為も増加した。
一方で福祉国家の解体と労働市場の不安定化、他方で刑罰政策の強化。著者はこの二つを、ネオリベラリズム原理の浸透による国家の再編成という枠組みにおいて論じている。国家は、ネオリベ政策がもたらす社会的帰結――貧困の増大――を刑罰によって管理する役割を担うようになった。つまり、福祉や経済領域における「小さな政府」は「大きな監獄」なしには成立しえない、と主張する。・・・・・・