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戈木クレイグヒル滋子 著

『実践 グラウンデッド・セオリー・アプローチ』
――現象をとらえる


A5判168頁

定価:本体1800円+税

発売日 08.10.3

ISBN 978-4-7885-1132-3

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◆読者の質問にこたえて◆

前著『ワードマップ グラウンデッド・セオリー・アプローチ』は、看護学、 心理学をはじめ幅広い分野の学生、研究者から、待望の入門書として迎えられ、 たちまち版を重ねることになりました。この本はあくまで初級コースとして書 かれたため、実際にデータの分析を試みた読者から、実際的な問題について、 様々な質問が寄せられました。そこで本書は、実践編として、具体的なデータ を提示して、それを読者が実際に分析しながら著者の分析例と比較することで、 疑問を解消しながら理解できるよう工夫しました。実際にグラウンデッド・セ オリー・アプローチを使う学生にとって、必携書となることは間違いありませ ん。常時在庫をお願いいたします。

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◆目次
はじめに
I グラウンデッド・セオリー・アプローチとはなにか
1 研究法を学ぶということ
2 質的研究が「研究」であるために必要なこと
3 グラウンデッド・セオリー・アプローチが捉えようとするもの
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおけるデータ収集の意味

II データの読み込みと切片化
1 概念はデータから発見できるものなのか
2 概念発見に至るまで

III 概念の抽出と現象ごとの分類
1 ラベル名をつける
2 カテゴリーをつくる
3 カテゴリーを現象ごとに分類する
4 現象の把握

IV カテゴリー関連図の統合
1 『Bさんの語り』概要
2 2つのカテゴリー関連図の統合
3 その後の作業

V 事例の特性を結果にどう含めるのか
1 事例の特性を含める
2 プロセスの違いをパターンとして把握する

VI 発表に結びつける
1 メモの保存と活用
2 作品を創る
3 2つの問い
おわりに
文献
索引

はじめに この本で伝えたいこと

本書は、グラウンデッド・セオリー・アプローチの分析の基礎について書いた前書『ワードマップ グラウンデッド・セオリー・アプローチ:理論を生み出すまで』(新曜社、2006)の続編として、すでに基礎を習得なさった方々を対象にしたものです。実際の研究で収集した大量のデータを、どのように分析するのかを具体的にご理解いただくことを目指しています。

私は、グラウンデッド・セオリー・アプローチを勤務校のゼミで毎年、前期(基礎編)、後期(中級編)、春休み(上級編)という流れで教えています。前期のゼミでは、基礎編のトレーニングをおこないますが、そこでの大きな目標は、グラウンデッド・セオリー・アプローチの基礎を学ぶと共に、自分が無意識にもっている思いこみなどのバイアスを排除して、データへの感受性高める方法を身につけることです。前期の期間を通して、20切片ほどの練習用データから各切片のプロパティとディメンションを抽出し、それをもとにして切片にラベル名をつけたあと、それらをカテゴリーにまとめて適切な名前をつけ、さらにカテゴリー同士を適切に関係づけるアクシャル・コーディングまでの作業を、時間をかけておこないます。

 このような基本的な作業ができないと、データとの対話を通してデータの意味を理解し、適切なラベル名やカテゴリー名をつけることができません。そのままで研究を進めたなら、沼地に家を建てるようなことになってしまいかねません。ですから、毎回のゼミでは参加者に合わせてスモールステップで課題を提示し、自己学習とグループワークをおこない、できあがった結果をつぎの回で発表してもらって、検討しあいます。 この前期ゼミと同じように、前書ではグラウンデッド・セオリー・アプローチのデータ分析の基礎を習得していただきたいと考えました。その選択は良かったと今でも思いすが、出版から2年がたち、この本で独習した読者や、単発のワークショップに参加した方々から、実際の研究のあとでぶつかった課題についてのお問い合わせをいただくようになりました。主な概要をまとめると、以下の4つになります。

 まず、前書では、43切片で一つの現象をあらわすデータを例題として用いました。はじめてであれば、この数の切片の分析にもかなり時間がかかったと思います。しかし、通常の研究で扱うデータは数百個の切片になってしまいます。大量の切片をどう扱ったらいいのか、本当に切片化が必要なのか、という問い合わせがあります。これらについての説明は、第II章に書かせていただきました。

つぎに、一つの現象にまとまる練習用のデータと違って、実際に収集するデータには複数の減少が混じりあっていますから、カテゴリーを現象ごとに分類する作業が必要になりますs。しかし、これは簡単ではありません。オープン・コーディングでの、データを読み込んで切片にラベル名をつけ、カテゴリーを作るまでの作業がきちんとおこなわれたかどうかが問われる部分でもあります。もし、ここで適切に現象分類ができないと、カテゴリー同士の関係づけがおこなえませんから、そうやって分類したらいいのかという問い合わせが多いのは当然かもしれません。現象ごとの分類についての説明は、第III章に書かせていただきました。

3つ目に、カテゴリー関連図をどう統合していくのかという問い合わせがあります。グラウンデッド・セオリー・アプローチでは1つのデータを収集したら、すぐに分析し、それをもとにしてつぎにデータを収集する対象と収集内容を決めることを推奨しています(理論的サンプリング)。各回の分析によって、データ収集の方向性を定めながら効率よくプロパティとディメンションを増やすためです。データを分析するごとに、その中にある現象の数だけのカテゴリー関連図ができますが、これまでにおこなった他の事例の分析で、同じ現象がカテゴリー関連図として把握できていれば、当然、統合することができます。それによってより詳細で充実した(カテゴリーやプロパティ・ディメンションが増えた)関連図ができあがります。この作業は、それ以上新しいカテゴリーやカテゴリー間をつなぐプロパティとディメンションが出ないという理論的飽和の状態にたどりつくまで続けるものです。とはいえ、このカテゴリーの関連図を統合する作業がイメージしにくいという問い合わせは少なくありません。そこでこの作業について、第IV章で説明しました。

最後に、少数事例をも含むような理論を目指すと言われても、各事例の有り様をどう理論に盛り込めばよいのかがわからないという問い合わせがあります。グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、そのために現象のプロセスを構成する各カテゴリー(概念)のプロパティから見てディメンションがどのような範囲にあるのかを把握し、さらにそれらを統合した結果として、プロセスに複数のパターンを見出そうとします。前書でも簡単な例を67ページにあげましたが、紙幅のつごうもあり、具体的な内容にまで言及することができませんでしたので、第V章で説明しました。

以上の質問は、どれも簡単に答えられるものではありません。私のゼミでは、大学にある町屋界隈の「下町の豆富(腐)屋さん」のように、細々と少数の豆富を作るような教育をおこなっていますので、後期のゼミや、スーパービジョンで各学生の到達レベルに合わせたやりとりをおこなう中で、こうした質問に答えることができますが、そうやってさえも習得には手間がかかります。ですから、直接お目にかかったこともない不特定多数の読者を対象に、このような本を作ることはかなり無謀で、できれば避けたいところでした。しかし、主に前書を使って独習してくださった方々からの問い合わせにお応えする責任から、本書に挑戦してみようと思いました。・・・・・・

本書は続編として書いたものですから、前書で紹介した基本的な概念や用語については詳しく説明しません必要に応じて前書を参照していただければと思います。また、実践的にデータ分析の力をつけることを意図した本なので、読者参加型の構成にしました。内容を十分ご理解いただくために、読者のみなさまご自身が分析に挑戦なさることが必須です。第II章に載せた表2-1(14-22ページ)は、本書で分析していただくインタビューデータです。ぜひ前書で学んだ知識を使って、このデータを分析してから先に進んでください。第II章以降には、分析が進むごとに、その時々の課題に対する私の分析結果を示します。もちろん、それだけが正解だというわけではなく、一つの解答例にすぎませんが、ご自分の分析と比較しながら読み進めていただくなかで、グラウンデッド・セオリー・アプローチの流れが習得できると思います。・・・・・・