戻る

祐成保志 著

〈住宅〉の歴史社会学
――日常生活をめぐる啓蒙・動員・産業化


A5判336頁

定価:本体3600円+税

発売日 08.10.3

ISBN 978-4-7885-1127-9




◆メディアとしての住宅を読み解く◆

よい暮らしを望むとき、現代人はしばしばその舞台である住宅を良くすることに思いを馳せます。若年ホームレス、孤独死など世間を騒がせる社会現象には、いまの住宅が「身の丈にあっていない」、という共有された「住宅難」の感覚があるようです。筆者はこの住居への感覚の来歴を追って、人びとが住宅について何を問い求めてきたかの歴史をひも解き、その答えとして示された模範=モデルハウスの変遷をたどります。明治末から急増する住宅をめぐる言説が、やがて総力戦体制において制度的な基盤を与えられていく社会的な形成過程を明らかにしつつ、「メディアとしての住宅」の作用によってもたらされた住居をとりまくシステムまでも問いなおした野心作です。著者は信州大学人文学部准教授。

〈住宅〉の歴史社会学 目次

〈住宅〉の歴史社会学 はじめに

◆書評
2008年11月16日、日本経済新聞社

◆関連本
ハウジングと福祉国家

Loading

<住宅>の歴史社会学 目次
第1章 住居の社会学的把握
1 交渉過程としての住居
2 モノとヒト――マテリアルな交渉
3 リズムと範域――ミクロな交渉
4 規格化と私秘化――マクロな交渉
5 方法
――もうひとつの「日本住宅開発史」

第2章 啓蒙
1 日常生活の焦点化
2 生活改良運動の展開
3 家政学批判と生活学の構想
――今和次郎の軌跡

第3章 動員
1 初期住宅調査の住居像
2 診断治療予防
――都市空間のセキュリティと住居
3 生産手段としての住宅
――西山卯三の調査と交渉

第4章 産業化
1 デザインをめぐる闘争と専門家集団
2 住宅手引書と体験記
3 「資格」化する住宅所有

終章 日常生活批判に向けて
1 近代住居空間の支柱
2 危機の意識化と日常生活批判
3 住居空間の再編成


<住宅>の歴史社会学 はじめに
ここ数年、世間の耳目を集めてきた社会現象には、しばしば住宅が関わっている。見出し風に記せば、以下のようになるだろうか。

ネットカフェ難民――流動化する仕事と住居
若年ホームレス――格差社会の新しい底辺
ひきこもり――個室への退却
ドメスティック・バイオレンス――戦場と化した住宅
孤独死――社会から隔離された密室
ピッキング――狙われる脆弱性
リフォーム詐欺――家と心の死角を突く
耐震偽装――揺らぐ専門家への信頼

 私たちが生きているのは「住宅難」の時代なのかもしれない。それは、古典的な意味での住宅問題と重なりつつ、ずれをも含んでいる。住宅の〈欠如〉と〈過剰〉という、一見相反する二つの問題が混在しているからである。
〈欠如〉とは、安心して住めるところがないことであり、〈過剰〉とは、住宅が、そこに住む人々が支えきれないほど重くなっていることである。ホームレス、DV、耐震偽装などは前者に関わり、ひきこもり、孤独死、リフォーム詐欺などは後者に関わると言える。重要なのは、ひとつのトラブルのなかにも両者が分かちがたく結びついていることであり、いずれの場合においても、住宅が私たちの「身の丈に合っていない」という感覚が共有されていることである。ここに、住宅の由来をひも解く意味がある。
本書の問題設定はすこしひねってある。ここで問おうとしているのは、どんな住宅が建てられてきたのか、というよりも、住宅について何が問われてきたか(=問われてこなかった)が、である。「住宅の問われ方の歴史」と言ってもよい。それはモデルハウス――問いに対する答えとして提示された模範的な住宅――の歴史でもある。
 日本で住宅問題が本格的に論じられるようになるのは、明治末から大正期にかけての時期である。中流と呼ばれた社会層に相応しい住宅とはどんなものか、あるいは都市の貧困層に適切な住宅を与えるにはどうすればよいか、といったことを論じる言説が急増する。人々は、伝統的な日本家屋の非合理性を批判し、スラムの荒廃した生活を告発する一方で、望ましい住宅像を追求した。当時提起された問題や解決策のなかには、現代へと直接間接につながるものも少なくない。多くの人々が住宅について問い、答えを探し求めてきた。住宅の現状が問いなおされ、モデルハウスがつくられ続けてきたのが近代ということもできる。
 これまで提出されてきたさまざまな答えの善し悪しを、何らかの基準で評価することもできよう。しかしその前に、そもそも問いが妥当なものだったかを考える必要はないだろうか。問いこそが答えを左右する。問いが狭ければ、答えの幅まで狭まってしまう。だとすれば、歴史社会学がひらく「問いについての問い」は、問題をあらたな角度からとらえなおすための有力な手がかりとなるはずだ。