戻る

ジョン・ハリソン 著 松尾香弥子訳

共感覚
――もっとも奇妙な知覚世界


四六判348頁

定価:本体3500円+税

発売日 06.5.20

ISBN 4-7885-0998-9




◆味に形がある?◆

共感覚というのは、音を聞くと色が見えたり、食事を味わうといろいろな形が見えたりなど、普通は別々に感じられる感覚が二つ、同時に分かちがたく知覚される現象を言います。こういう感覚を持つ人は稀ですが、画家のカンディンスキーや、作曲家のスクリャービンなども、この持ち主であったと言われています。大変興味深い現象のため、以前から心理学者に注目されてきましたが、最近の脳の活動を画像化して見る技術の発展によって、新しい探求が始まりました。本書は、この世にも不思議な心の現象に魅せられた心理学者の探求と思索を通して、共感覚とは何かだけでなく、心理学とはどういう学問なのかをも、 私たちに分かりやすく語りかけてくれます。

共感覚 目次

共感覚 本書に寄せて

◆本文紹介◆
たいていの心理学者は、私たちはみんな乳幼児の記憶を失っていると考えている。つまり、だいたい三歳から四歳より以前の出来事を想起するのは稀だということだ。・・・中略・・・私たちの研究の中で、共感覚がいつ頃からありましたか、と訪ねると、たいてい「物心ついたときから」という答えが返ってくる。私たちはそれを、「少なくとも三、四歳から」というふうに記録する。共感覚を持つことが検査によって確認された人が、誕生時、あるいはそれ以前から共感覚を持っていたということは、もちろん、完全にありうる。どうしてこんなことをいうかというと、生まれて二、三ヶ月の時期には、後から思い出すことはできないけれども、誰もが皆、共感覚を持っている、というのが私たちの理論だからなのだ。(「第1章 物理主義者の告白」より)

◆書評

2006年7月9日、朝日新聞、巽孝之氏評

2007年、AROMA RESEARCH No.29

2015年春、Book Club Kai News Letter

Loading

◆目 次◆
第1章 物理主義者の告白
触る晩餐会/あったかくて甘い、冷たくて酸っぱい?/科学と証明の義務/物理主義者の告白/物質的、霊的および心的なもの/ようこそBBCへ/結論から始める/備えあれば憂いなし・・・・・・・/共感覚の理論/解剖学的レベルの説明/生理学的レベルの説明/途方もなく騒々しい混乱?/脳波と誘発電位/分子生物学的レベルの説明/最後に、心理学的理論・・・・・・・/この理論をどうしたら証明できるか?

第2章 ルネサンス
時の霧のかなた/優勢主義者は語る/古典文献/古典文献から何を学びとれるか/大量絶滅/なぜ科学者は統計学を使うのか/それでは、それが起こる確率は?/霧は晴れてきた/パラダイム・シフト/行動主義――動物の性質/パブロフとその有名なよだれを垂らすイヌ/正の強化と負の強化/何かを見失っているのかもしれない/痛みなくして得るものないし/B・F・スキナーの「言語活動」/認知主義のルネサンス

第3章 非凡なる共感者?
一事例の力/出っ張りを触らせる/神経心理学の誕生/モジュール性と乖離/「頭」と「脳」/機能? それとも単に血が流れているだけ?/機能局在はどれだけ信頼できる/? さらなる難しさ/共感覚者の神経心理学?/一次例の力―その2―「非凡な共感覚者」/テスト得点が普通よりも特によいか悪いかを判定する方法/それは確率の問題だ/波を調べる/信頼性と「ゴムの定規」/「本物を見分ける検査」/2たす2は?/共感覚者は並はずれて優れた記憶能力を持っているだけではないか?/記憶術者の精神生活/トータル・リコール――完全記憶再生能力

第4章 秘密の扉が開く
『サイエンス・オン・4』/実験デザイン/科学的方法論/仮説/仮説を検討可能なようにする/被験者間か被験者内か?/カウンターバランス化/成績を較べる/以上の研究手法を実際の研究に適用する/さて勝者は・・・・・・/集団の統計解析/ウソには三種類ある――ウソ、真っ赤なウソ、そして統計である/さて、それが起こる確率は?/「予測可能な単純な色」対「予測不可能な複雑な色合い」/内観への回帰/いつから共感覚を持つようになったか/共感覚の知覚は「どこ」でなされるか、またそれはどのようなものなのか?/夢、あるいは別の形式による後頭葉の直接刺激/「視覚」刺激の元/ワイルダー・ペンフィールドの実験神経外科学/パシッという/白黒か、それともカラーか?/共感覚者は皆同じ単語と色の対応を持っているのか?/微妙な違いへの注意/それは家族の問題だ

第5章 共感覚が共感覚ではないのはどんなとき? メタファーのとき
いつも名前があがる人物
シャルル・ボードレール/アルチュール・ランボー/ジョリス−カルル・ユイスマン/アレクサンドル・スクリャービン/ワシリー・カンディンスキー/オリヴィエ・メシアン/ウラジミール・ナボコフ/セルゲイ・エイゼンシュタイン/松尾芭蕉/リチャード・ファインマン/デイヴィッド・ホイックニー
共感覚じゃないんなら何なんだ?

第6章 曇ったレンズを通して
これがきみを透かして見た画像だ/核磁気共鳴画像法/構造から機能へ/新技術/一事例の力――ゼノン133を用いたSPESCTを使って共感覚の神経基盤を解明する/引き算法/そりゃ見込みがない――でもうまくいくかも/主観的心理状態についての客観的証拠/あなたの脳を調べさせてください/レッツ・プレイ・ペット――PETを使う/対立仮説(H1)/PETデータを解釈する/PET研究の結果/まとめ/匂いの形/実験参加者AJ――基本情報/ペンシルバニアから来た男/磁気共鳴機能画像法(fMRI)/形を持った匂い/結果は・・・・・・/fMRIを使ったことによるよいニュース

第7章 遺伝でなんかありえない、そうでしょう?
検証とデータの偏り/代表的なサンプルであることを確実にする/血こそ命/遺伝学――まず最初に遺伝学のことば/ザ・フライ/奇妙な二重らせん/イントロンとエクソン/遺伝様式のまとめ/2人の遺伝学者の意見では・・・・・・/男性に致死性のある伴性優性遺伝/で、それは遺伝なんですか?/一遺伝子性か多遺伝子性か/

第8章 病理と理論
視神経と目の損傷/脳腫瘍の結果もたらされた共感覚/精神疾患における共感覚/薬物濫用による共感覚/なぜ共感覚が起こるか/すべてを統合する学説は?

第9章 ロマン派の神経学からISAへ
ここまでのあらすじ・・・・・・/さらなる電気生理学/前頭葉は何をしているのか/それに触らないで・・・・・・/でも前頭葉って必要?/ハノーヴァーふたたび/共感覚があるってどんな感じ?/哲学の助け/共感覚者であるとはどのようなことか?/ロックの盲目の真理探究者ふたたび/脳機能の再組織化/私を見て、感じて/触覚の神経基盤を画像化する/母なるロシアからの見解/最後の考察/目撃者の証言/お後がよろしいようで

訳者あとがき
用語解説/引用文献
さらに学ぶための本
事項索引/人名索引

原題:SYNAESTHSIA The Strangest Thing John Harrison


本書に寄せて

この本はじつに時宜にかなっている。ジョン・ハリソンと私が1990年代に共感覚の共同研究を始めたころは、まだ共感覚はずいぶんと論議をよぶトピックだった。大方の神経科学者は、共感覚について、あるいはこの現象が科学理論に果たす意義について、真面目に取り上げようとはしなかった。といのも、共感覚に関する科学的根拠がまだ薄弱だったからだ。十年たつと状況は大きく変化したが、それは証拠が集まり出したからだ。

ジョン・ハリソンは、共感覚を歴史と科学の両面から、学術的でありながら親しみやすい本に書き上げた。共感覚を説明しようとしているさまざまな理論を、公平に扱っている。新発見の手掛かりを得た研究者の興奮を伝えてくれ、読んでいる方まで興奮してしまう。本書が次世代の科学者を触発し、この魅惑的な心理学的・神経学的状況について、さらに学ぶという挑戦に応じて欲しいものだ。

著者は、典型的でないものについて研究することが、典型的な機能に光を投げかけることがあるということをよく知っている。著者のこのテーマの書きぶりには、なぜある人々には共感覚が恵まれているのか、という問題と同じくらい、なぜそうでない私たちにはこの能力が欠けているのかを理解しようと、心を砕いているのがよくわかる。これはつまり、なぜ私たちの知覚はモジュール式になっていると思われるのかという問いだ。

研究者仲間にとって触発されるものであることはもちろんだが、それ以上にこの本は、私たちはこの世界を皆、同じ仕方で経験しているのではないという、重要だけれどもつい見過ごされがちな点を、一般の人々に教えることにも大いに貢献するだろう。この本で、共感覚が存在する、ということへの認識が高まるだけではなく、差異に寛容になるという大切な雰囲気が醸し出され、そうして共感覚をもつ人たちが自分は異常だと不名誉に感じたり、病気だと思ったりすることがないようになるだろう。共感覚者の知覚はまったくそんなことはなくて、単に他の人たちとは違っているというだけであり、多くの場合、より豊かであると言える。幸いなことに、さまざまな形式の共感覚が何らかの不具合を生じさせるのは、非常に稀な場合に限られている(そしてそういう稀な事例から、感覚同士が別々に切り離されていることが時にはなぜ重要なのかを学ぶことができるだろう)。ほとんどの場合、共感覚者は共感覚から逃れたいと望んだりしないのであり、どちらかと言えば、われわれ残りの者が個別の感覚しか持たない存在として生活を送っているのを、やや気の毒に感じているだろう。またおそらくこの有益な本は、今まで自分の感覚状態に名前があることを知らずにいた多くの人々にとって、ああそうだったのかと腑に落ちる思いがするだろうし、自分と同じ性質を持つ人々もいるのだとわかるだろう。こういうすべての理由で、本書には本当に高い価値がある。

共感覚の理解がずいぶん進んだとはいっても、どんな科学でも歴史の目から見れば、十年や二十年などほんの一瞬に過ぎないことを、心に留めておくべきだ。このジョン・ハリソンの本が触媒となって、われわれの理解に新しい発見が付け加わることを期待している。