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小倉孝誠 著
『『パリの秘密』の社会史』
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04.02.20 4-7885-0886-9
◆目 次◆ |
46判 320頁 定価3360円(税込) |
◆シュー復権の予感が……◆ 『パリの秘密』という小説をご存知ですか。19世紀フランスの社会派大衆 小説の先駆者ウージェーヌ・シューの一世を風靡した新聞小説です。当時、 その人気はバルザック、ユゴーを嫉妬させ、トルストイ、ドストエフスキー にも大きな影響を与えたといいます。かつて邦訳(部分訳)もされましたが、 いまでは本国はもとより日本でもまったく入手困難です。本書は、この名の み高くほとんど読まれることのない小説の内容を興味深い挿絵とともに紹介 し、その背景となるメディア状況などを絡ませながら、シューが生きた時代 と思想を浮き彫りにします。その結果、明らかになるのは、この小説の驚く べき豊穣さと面白さ、そして理想主義です。これをきっかけにシュー復権が 期待されます。◆本文一部◆ 文学史のなかでは一般に、シューは「大衆小説」、あるいは「新聞小説」の発達という歴史的文脈で触れられる。一八三〇年代に始まった新聞の連載小説は、四〇年代にはいるとデュマ、シュー、ポール・フェヴァルら才能に恵まれた作家たちが登場してきて、最初の隆盛を迎える。とりわけ『パリの秘密』と『さまとえるユダヤ人』は、パリの下層社会を描き、富と貧困、善と悪を鋭く対比させながらブルジョワ社会の偽善性を告発した作品として、ベストセラーになった。同時代のデュマが『三銃士』や『王妃の首飾り』など歴史冒険小説のジャンルで成功を収めたのに対し、シューはみずからが生きた時代を観察、分析し、その病弊を抉り出した、とされる。これは正しい指摘なのだが、しかし文学史の記述にはそれ以上の説明はないから、シューの文学世界の具体的な特徴についてはよく分からない。 『パリの秘密』という作品にはさまざまな逸話と伝説が付着して、その神話性を高めているのも事実である。たとえば、人々は作品が連載されていた『ジョルナル・デ・パリ』紙を争うように買い求めたので、新聞の発行部数はケタ違いに伸びた。買えない人は、新聞が置いてあった貸本屋の前に長蛇の列をなした。その人気の沸騰ぶりには、あのデュマやバルザックでさえ激しく嫉妬したと伝えられる。しかも、シューのもとには連載中から数多くの「ファンレター」が舞いこんだのである。作家自身、読者との交流に魅了され、ついにはみずからを主人公ロンドルフに見立て、パリの貧しい界隈をめぐり歩くようになったという。(「プロローグ」より) |