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小倉孝誠 著


『パリの秘密』の社会史
――ウージェーヌ・シューと新聞小説の時代く


四六判320頁

定価:本体3200円+税

発売日 04.02.20

ISBN 4-7885-0886-9

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◆シュー復権の予感が……◆

『パリの秘密』という小説をご存知ですか。19世紀フランスの社会派大衆小説の先駆者ウージェーヌ・シューの一世を風靡した新聞小説です。当時、その人気はバルザック、ユゴーを嫉妬させ、トルストイ、ドストエフスキーにも大きな影響を与えたといいます。かつて邦訳(部分訳)もされましたが、いまでは本国はもとより日本でもまったく入手困難です。本書は、この名のみ高くほとんど読まれることのない小説の内容を興味深い挿絵とともに紹介し、その背景となるメディア状況などを絡ませながら、シューが生きた時代と思想を浮き彫りにします。その結果、明らかになるのは、この小説の驚くべき豊穣さと面白さ、そして理想主義です。これをきっかけにシュー復権が期待されます。

◆書評
2004年5月、出版ニュース
2004年6月1日、エコノミスト
2004年6月19日、図書新聞

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◆目 次◆
プロローグ
ウージェーヌ・シューとは誰か?/なぜ『パリの秘密』なのか/邦訳について/本書の構成
第一章 新聞小説の時代
活字メディアの隆盛/出版業界の変革/7月王政期の新聞小説/第二帝政と大衆ジャーナリズムの誕生/世紀末からベル・エポック期へ
第二章 生の軌跡
ダンディな作家の肖像/サント=ブーヴの評価/一八四一年の転機/「私は社会主義者だ!」/『パリの秘密』から『さまよえるユダヤ人』へ/政治の季節/孤独な亡命生活/最後の愛、そして死
第三章 『パリの秘密』の情景
第一部/第二部/第三部/第四部/第五部/第六部/第七部/第八部/第九部/第十部/エピローグ
第四章 『パリの秘密』の社会史
第一節 パリの表象
パリの文学的形象/パリ神話の誕生/闇のパリ/上流社会の習俗―舞踏会と温室/カーニヴァルの民衆
第二節 犯罪・司法・監獄
「野蛮人」の相貌/フレジエとビュレ/司法制度への異議申立て/監獄制度をめぐる論争/死刑制度の拒否
第三節 社会小説としての『パリの秘密』
預言者の時代/犠牲者としての女性/社会が犯罪を生み出す/民衆と貧困 第四節 ユートピアの諸相
ユートピアに向けて/理想の工場/マルクスがシューを断罪する/ヒーローの相貌
終章 大衆小説の射程
新聞小説をめぐる論争/文学とイデオロギー
補遺 読者からシューへの手紙
あとがき
関連年表
注/参考文献/人名索引


◆本文一部◆
文学史のなかでは一般に、シューは「大衆小説」、あるいは「新聞小説」の発達という歴史的文脈で触れられる。一八三〇年代に始まった新聞の連載小説は、四〇年代にはいるとデュマ、シュー、ポール・フェヴァルら才能に恵まれた作家たちが登場してきて、最初の隆盛を迎える。とりわけ『パリの秘密』と『さまとえるユダヤ人』は、パリの下層社会を描き、富と貧困、善と悪を鋭く対比させながらブルジョワ社会の偽善性を告発した作品として、ベストセラーになった。同時代のデュマが『三銃士』や『王妃の首飾り』など歴史冒険小説のジャンルで成功を収めたのに対し、シューはみずからが生きた時代を観察、分析し、その病弊を抉り出した、とされる。これは正しい指摘なのだが、しかし文学史の記述にはそれ以上の説明はないから、シューの文学世界の具体的な特徴についてはよく分からない。
 『パリの秘密』という作品にはさまざまな逸話と伝説が付着して、その神話性を高めているのも事実である。たとえば、人々は作品が連載されていた『ジョルナル・デ・パリ』紙を争うように買い求めたので、新聞の発行部数はケタ違いに伸びた。買えない人は、新聞が置いてあった貸本屋の前に長蛇の列をなした。その人気の沸騰ぶりには、あのデュマやバルザックでさえ激しく嫉妬したと伝えられる。しかも、シューのもとには連載中から数多くの「ファンレター」が舞いこんだのである。作家自身、読者との交流に魅了され、ついにはみずからを主人公ロンドルフに見立て、パリの貧しい界隈をめぐり歩くようになったという。(「プロローグ」より)

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