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山田広昭著

三点確保
――ロマン主義とナショナリズム


四六判320頁

定価:本体2800円+税

発売日 01.12.20

ISBN 4-7885-0786-2

◆国家という芸術作品の緻密な分析
 日本浪漫派はファシズムの源泉の一つとして断罪されましたが、ロマン主義とは何か、そのもつ意味は、単純ではありません。まずもってそれは近代に特有の現象なのです。本書は、ドイツ・ロマン派(ノヴァーリス、ヘルダーリン)、国学(本居宣長)、フランス・サンボリズム(マラルメ)の三点から、なぜ美学としてのロマン主義が国民国家という共同性の問題、ナショナリズムに不可避的に結びつかざるをえないのかを、じっくりと考察(確保)したものです。『批評空間』での連載時に好評を博した「三点確保」を中心にまとめなおしたもので、『現代言語論』(共著、新曜社)の著者はじめての単著です。

◆担当編集者よりひとこと
校正をしながら、緻密に考え抜かれた思考にほとほと感心しました。「岬、資本、囚われのもの」の章など、よくできたミステリーのように思いました(この比喩自身は陳腐ですが)。それに対して、「言語モデル・無意識・文化」の章の「パンティ派」と「死のダンス派」の秀逸な対比には思わず笑ってしまいましたが、そのあと自分も無関係ではないな、とその笑いを飲み込んだ次第です。ナショナリズムを流行としてではなく根底から考えようとする人に読んでいただきたい一冊。じっくりと楽しめますよ。

◆書評
2002年5月3日、週刊朝日、松本健一氏評
2002年6月9日、北海道新聞、村井紀氏評

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◆目次
序文
T
「精神の政治学」とは何か −ポール・ヴァレリーとヨーロッパ

1 ヨーロッパ意識の誕生
2 拡散と平衡
3 〈反ユダヤ主義〉
4 散種または他者の不在
ヨーロッパ精神と日本精神 「虚ろな合唱」をめぐる覚書
1 ヨーロッパ精神と民族精神
2 ナショナリズム
3 ヨーロッパの内と外
4 「生」の哲学と「生活の必要」
岬、資本、囚われのものCap, Capital, Captif 危機の言説について
1 アナトールからフェルディナンへ
2 岬
3 運河

U
三点確保 ロマン主義の理解と批判のために

1 三点確保?
  美的なもの 遅れ 文献学
2 本居宣長
  文学の外部性 表音文字 差分 物のあわれ
3 ステファン・マラルメ
  神秘Mystere、典型Type、群衆Foule
4 結語

V
国民語りNa(rra)tion フィヒテからルナンへ

1 民族精神、国民神話
2 忘却と追憶
群衆、刻印としての政治 襞、エクリチュールとしての
pli, repli, pliage

1 書物としての襞
2 神話としての襞
抵抗の線 ヴァレリーとフランス精神分析
1 しりぞけられた源泉
2 テスト氏との一夜
3 オペラ座のテスト氏
4 テスト氏の部屋
5 抵抗の系譜
〔補論〕言語モデル・無意識・文化
−解釈はもうひとつの妄想か?

1 レヴィ=ストロース
2 ラカン
3 テクスト?
あとがき
初出一覧

装幀――加藤光太郎


◆本文紹介◆
三点確保。このタイトルをいぶかしく思われる方は多いのではないかと思う。その直接の由来は、本書第二部の冒頭に記したとおりで、野口武彦『日本思想史入門』(ちくまライブラリー)に収められている「ドイツ・ロマン派と国学」という文章からの借用であり、用語自体はロック・クライミングにおいて守るべき本的な原則を意味する。しかし、このタイトルのもとにわたしが目指したものは、ロマン主義の検討を共通項としつつも、野口氏のものとはちがっている。つまり、彼のように国学とドイツ・ロマン派との「同時代現象」としての共通性を、もうひとつの同時代現象としてのフランスと対比し、差異化させることで浮き彫りにしようとすることではない。むしろ逆に、ロマン主義を「典型的にドイツ的な現象」と考えたり、「物のあわれ」論を機軸に宣長から日本浪漫派につながっていくような傾向を、たとえ無意識にせよ、なにか「日本的な心性」と関連づけようとすることを、三点目の効果によって徹底的に排除すること、いいかえれば、ロマン主義の問題を国民性や民族性、あるいは文化的異質性(たとえそれがドイツと日本にともに通じる異質性として考えられていたとしても)といった、まさにロマン主義によってその意味を与えられているような概念から切り離し、ある「普遍的現象」(ただし超時代的現象ではない)としてとらえるための視角を構築することであった。


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