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飯島吉晴著

一つ目小僧と瓢箪
――性と犠牲のフォークロア


四六判480頁

定価:本体4200円+税

発売日 01.11.30

ISBN 4-7885-0785-4





◆性、犠牲、境界をめぐるフィールドワーク◆
 これらは穢れたものとして排除の対象になります。神話にしばしば登場する盲目、跛者、片目などの形象もまた、「欠如」が社会形成にもつ意味をよく表わしています。本書は、裸回り、柱信仰、火伏せ、火祭りなどの性的儀礼から、一つ目小僧やタタラ製鉄、異人殺戮伝説までの「犠牲」をテーマにした民俗儀礼・伝説、さらに瓢箪、蝶、狐などの移行・境界をめぐる伝承を取り上げて、性と犠牲が人間社会でもつ意味をさぐります。著者の民俗学研究の集大成です。

◆担当編集者よりひとこと
正月に夫婦が裸になって囲炉裏のまわりを3回まわる風習がつい最近まで東北地方を中心に行なわれていたという。この事例を延々と60例以上にわたって列挙した「裸回りの習俗」は圧巻です。「あわぼぶらぶら」「コラ割れた」と言って回るのですから卑猥といえば確かにそうなのですが、老夫婦と子供が登場人物なのでユーモラスでもあります。鎌田東二さんの「翁童論」の世界でしょうか。さらに「祭りと夜」の章では、日本人は昔は一日が夕方から始まると考えていたこと、そして祭りは夜のものだったことを知り、闇のなくなった時代に生きるわれわれにはとてもスリリングです。

◆書評
2002年1月、出版ニュース2002年1月下旬号
2002年1月20日、朝日新聞、川村邦光氏評
2002年1月27日、東京新聞、川村邦光氏評
2002年2月18日、産経新聞、飯島吉晴氏評

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◆目次
序文

1 一つ目小僧とタタラ
放浪人と一つ目小僧――共同体とその外部
山人から「日本人」へ/放浪人と祝福芸人/鍛冶神と一つ目小僧/暴力と犠牲の民俗――コスモス創生と身体欠損/
タタラと錬金術――物質変容の精神史
問題の所在――物質と精神の変容過程/地球と鉄 文明と鉄――農と鉄/タタラ製鉄の意義/タタラ師の両義性――聖と賤/タタラと赤不浄/タタラと黒不浄/タタラと魂の変成/御霊信仰と片目伝承/錬金術的思考/火の支配者
目の民俗
眼病の神/眼病を治す呪法/片目伝承/片目と鍛冶神
柳田國男の妖怪論
『妖怪談義』――妖怪と幽霊の区別/『一目小僧その他』――伝説と信仰

2 裸回りと柱の民俗
裸回りの民俗
裸回りの諸事例/裸回りの研究小史/年頭の性的な儀礼/囲炉裏を三周する儀礼
日本の柱信仰――世界樹としての柱
問題の所在/湯津桂と月/世界樹としての巨木/世界柱と鳥/柱の民俗的意味
神話のこころ・性の原風景――裸回り・覗き見の神話学
神話はなぜ性を語るのか/国生み神話と裸回り/黄泉国訪問神話と覗き見の禁忌/生命力の象徴としての性の神

3 性の神と家の神
性の神
問題の所在――文化のなかの性/日本神話における性の神/国生み神話/黄泉国訪問神話と禊祓/天岩屋戸神話と天孫降臨神話/性の神の多様性
火伏せの呪物――建築儀礼と性的風習
陸前の竈神信仰――竈神の性格と儀礼を中心に
問題の所在/竈神の祭祀と儀礼/竈に面を祀る風習――他地方の類似例を中心に/竈神の面と司祭者
薩南の火の神祭り
火の神祭りの諸事例/火の神祭りの考察/トカラ列島の火の神祭り
烏枢沙摩明神と厠神
問題の所在――厠神の通時論的分析に向けて/厠神の研究略史/烏枢沙摩明王信仰の諸相/厠神信仰の基盤
住居のアルケオロジー――家の神からみた住まいの原初形態
土間住居の変遷/間取りの変遷と「家の神」/「家の神」の重要性/精神の平安を求めて

4 異人と闇の民俗
祭りと夜――闇のフォークロア
問題の所在/「夜」のイメージ/昔話と夜/民俗儀礼と夜/夜の祭り・祭りの夜――物忌みと性的解放
異人歓待・殺戮の伝説
問題の所在――民俗社会における伝説の役割/『風土記』のなかの異人歓待・殺戮伝説/異人歓待・殺戮伝説のメカニズム/説明体系としての伝説
瓢箪の民俗学――虚実のあわいをめぐって
問題の所在――日本人と瓢箪/採り物としての瓢箪/瓢箪と水神/「宇宙」表象としての瓢箪/鉢叩きと瓢箪/道化と瓢箪
狐の境界性――稲荷信仰の背景
「狐」をめぐる俗信/狐と稲荷信仰/神使としての狼と狐
蝶のフォークロア――蝶と霊魂の信仰史
虫と霊魂/異変を告げる蝶/夢幻のなかの蝶/蝶と御霊信仰/蝶装の二面性
ユートピア論と民俗思想
常世の国――古代のユートピア/補陀落渡海――苦行と代替/ユートピアと民俗学


◆本文紹介◆
一つ目小僧は、鬼や河童などとともにおなじみの妖怪の一つであり、舌を出した片目片足の古傘のお化けが有名なものだが、かつての神の零落した姿とみられてきた。では、一つ目や片目(両者は厳密にいえば異なるが)の神とは一体どのような神であったのだろうか。すぐに思い浮かぶのが、『古語拾遺』所載の天岩戸神話に登場する作金者(鍛冶の神)の天目一箇神である。金属を作り出す神がなぜ一つ目や片目とされてきたのかという点に関しては、諸説が説かれてきた。それたには、金属神の天津麻羅を念頭に置いて物を生み出す男性器(マラ)から天目一箇神を一つ目(片目)とみる加藤玄智説、火神の根源たる天空の太陽神から日神一眼を説く高崎正秀説、金属精錬のタタラ作業で火の色を長年見つめるために片目がつぶれたという若尾五雄や谷川健一の職業病説などがある。鍛冶神や金属製錬を司る神々はしばしば身体的な欠損をもつ者として広く表象されてきており、ギリシアのヘファイトスは跛者であり、その手下のキクロウペは一眼の巨人とされている。またドイツのフォルンドやフィンランドのワイナモイネンも不具者とされており、このように跛や片目などの肉体的な欠損者が鍛冶の仕事に従事している神話伝説は世界的各地に見られる。


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