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安田裕子著『不妊治療者の人生選択』

著者コメント

子どもをもつことをめぐる女性の経験と選択に、夫婦関係を築く有り様に、家族をつくる有り様に、接近したい―そんな一介の大学院生の想いに、本書は端を発しています。人の数だけ物語がある、その唯一無二の経験をお聴かせいただきたく、ところ構わずどこへでも足を運びました。学生でしかない私にお話しくださることの有難みを噛みしめ突き動かされて、インタビューに出向きました。

一つひとつのインタビュー実践はそれぞれに、私の心身に深く刻み込まれています。笑顔で出迎えてくださったその表情、遠いからと駅まで迎えに来てくださったお心遣い。お昼をご一緒しましょうとカレーライスを作って待っていてくださったり、うちで漬けたのよとお茶うけに自家製漬物を並べてくださったり、柿の葉寿司を手土産に持ち帰らせてくださったり。時間をとっていただいたうえに思い遣りをもって受け容れてくださった、おもてなしの姿勢。インタビューを通じて出会った人々との心温まる数々の記憶に、その後も年賀状を通じてつながってくださろうとする心意気に、どれだけ元気づけられ、励まされてきたことでしょう。

思いも寄らなかった哀しみの出来事や喪失の体験は、当人を、苦悩のどん底に突き落としたり、今後の行き道を見失わせたりします。しかし、そうした状況から、一歩踏み出し二歩進め、時に立ち止まったり後ずさりしながらも、人生を立て直していこうとする有り様からは、自らの生にひたむきに向き合おうとする芯のある強さと美しさを、他者の生を思い遣る温かさと優しさを、いたく感じたりもします。それは、インタビューに寄せていただいた私へのホスピタリティ精神に、十二分に表わされてもいました。人として、人の生きる有り様にどのように向き合っていけるのか、そんなことを繰り返し考える機会を与えてもいただきました。

 院生の頃に取り組み始め長い年月を経て、このたび本書が刊行されることとなりました。子どもに恵まれることのなかった女性の人生物語をまとめた本書は、一人ひとりの貴重な経験はもとより、私自身の、当事者の方々との心通わす記憶に、しっかりと支えられています。個々人の歩み進める人生の尊さを、紡ぎだされた物語を、他者とのつながりやむすびつきのなかで育まれる力の豊かさを、お伝えしたいと思ってまとめました。読者のみなさま一人ひとりの人生の物語と、どこかで響き合う一冊となっていると嬉しく思います。


不妊治療者の人生選択書影


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