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摂食障害の語り

受賞の言葉 第11回日本社会学会奨励賞・著書の部

中村英代,2011『摂食障害の語り―〈回復〉の臨床社会学』新曜社) 2012年11月5日



浦和大学短期大学部介護福祉科 特任准教授 中村英代

この度は、第11回日本社会学会奨励賞という大変権威ある賞をいただき、ありがとうございます。今後も研究を続けるようにとお声をかけていただいたようで、大変な励みになりました。選考委員の先生方、執筆過程でお世話になった皆さま、そして、読者の皆さま、本当にありがとうございました。

 拒食や過食、嘔吐を主訴とする摂食障害にたくさんの方が苦しんできましたが、回復している方もたくさんいます。しかし多くの場合、回復した方たちはもう病院などには姿を現しません。治療を経験しないで回復する方も多数います。そのため、学問の世界には回復者のデータは蓄積されず、回復プロセスは謎のままでした。そこで私は、回復している人たちを探し出して、「どうやって回復したのですか?」とお聞きしました。本書はそれをまとめたものです。基本はシンプルです。

本書で行ってきたことは、たとえば、次のようなことです。ストレスがあると過食をするといったことはよく言われます。ですが私は「本当かな?」と考えました。楽しいことがあった日にも、特別なストレスがない日にも、過食をする人はいるからです。すると、現象を解釈するためには別のストーリーが必要になりました。

調査をしていると、治療の現場で良くない作用が起きていることもわかってきます。いわゆるひどい治療です。これは大変な問題です。ですが、一生懸命な専門家の方もたくさんいます。治療が効果的なことももちろんあります。すると、医療問題をまとめて一気に批判するといった勢いあるポジションには立てなくなります。そこから、「闘わない社会学」というポジションが生まれました。

回復を考察していると、人々を苦しめるストーリー/解放をもたらすストーリーがあることがわかってきます。同じストーリーが、ある時は人を苦しめ、ある時は解放をもたらしていたりもします。私たちはいろいろなストーリーに取り囲まれて生活しています。こうして、回復者の語りも、専門家の知識も、痩せていることに価値をおくような社会の価値観も、そして本書も、時代や文化が生み出したストーリーという点では等価なのだという地平が開けてきました。

いわばそんな風に本書をまとめてきました。まだまだわからないことばかりですが、〈わかる〉とか〈知っている〉ということが、ひとつの思考停止の形でもあることに気づくようになりました。ですので、今ではむしろ、自分が何かを〈わかっていないかもしれない〉可能性に、常に自覚的でありたいと思っています。

最後になりましたが、本書は臨床社会学の本です。臨床社会学とは、臨床的現象を対象にし、臨床領域に貢献することを目的とした社会学です。本書を出版してから嬉しく感じてきたことは、社会学の言葉が、今まさに困っている人の役に立っているという手ごたえを、ささやかながらも、得られたことでした。臨床社会学にはやれることがまだまだたくさんあるように思います。同時に、社会学の知がもつ破壊力は、自分で取り扱っていてもとても怖かったほどです。不用意に何かを壊したりすることのないよう、これまで蓄積されてきた知を尊重しながら、今後も、丁寧に、社会学という学問に携わっていきたいと思っています。



※本年は仁平典宏著「ボランティアの誕生と終焉」(名古屋大学出版会)とダブル受賞


摂食障害の語り書影


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